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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
発展の妨げとなる者たち

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大惨事のきっかけと人間の可能性を

 


 ボクスの顔が驚きを通り越して無に変わった。


「あなたが……あなたが言ったからこの島まで覚悟して付いて来たのに」


「ちがう、違うんだ、俺はちょっと」


「重税も圧政も徴兵もないのに、大国とも堂々と渡り合える新しい国が出来たって、あなたが移住しようって言ったから!」


「これは違うんだ、ちょっと我慢できなくて」


「みんな決まりを守って正しく生きられる素晴らしい国だって、あなたが言ったんじゃない!」


 妻のドルガが涙と嗚咽交じりで叫ぶ。ボクスは小声で「違う、違う」と呟いて首を横に振るだけで、もう言い返す事はしなかった。出来なかったのかもしれない。


「ドルガさん、ちょっと落ち着きましょう、大丈夫ですから」


「何も大丈夫じゃないでしょう! 何でこんな時に……」


 ソフィアとアリヤがドルガを近くのベンチに座らせる。ソフィアの指示でイングスは家までブランケットを取りに行き、ドルガに渡した。4枚も要らなかったのだが。


「さて、次は貴様だ。貴様はゴレイで不正を暴いて国を追われ、我が国に来たと言ったな。レノンの滞在理由書を信用するなら、だが」


「は、はい……」


「我が国で暮らすにあたって、いささか厳しいとは思うが貴様は決まりに従うと宣言した。そうだな」


「……はい」


「その辺りは磔刑の前に確認した事だ、貴様は覚悟をしているな」


 一方、釣り糸を放置したエバンは言い訳することなく自身の罪を受け入れていた。

 最初はただゴミを捨てただけでと抵抗したが、オルキに「吾輩に誓った事を忘れたか」と言われ押し黙った。

 些細な事であっても国王を裏切った。そこに1も100もない。


「エバンは罪を認め、刑罰を受け入れた。これ以上言う事はない」


 オルキはそう言った後、皆に向き直る。


「不注意で風に飛ばされる事もあるだろう。それが良いとは言わぬし、責任を取れるよう最善を尽くすべきだ。その結果投棄になってしまう場合もあろう」


「そうですね。わざとか、ミスなのか、実際は分からない方が多いかも」


「それでも結果は報告するべきだ。黙っていては一緒だろう。他者と共有する事で回収する方法が見つかるかもしれぬ。吾輩はな、難しい事は何1つ言っていないのだよ」


「間違いやうっかりは、誰にでもあるものだと思うのですが」


 1人が恐る恐るオルキに尋ねる。何事も完璧にこなせる人間などいない。間違いまで指摘されるなら、島で生きていける者などいずれいなくなる。対してオルキは発言者にため息をつく。


「不法投棄については故意にと書いてあろう。間違えたなら正せばよい。正せなければどうすれば良いか伺いを立てるべきだ。何か難しいか」


「いえ……」


「吾輩に誓ったくせに、守れなかったどころか守ろうとしなかった。オルキ国を所詮その程度と思っていたのではないか」


 オルキが何に怒っているのか。

 こんな小さなことで磔刑までやるなんてと内心思っていた者達も、オルキの真意に気付き、もう何も言わなくなっていた。


「吾輩は貴様ら全員に責任がある。責任ある行動を取る事で応えてくれなければ、この国は成り立たぬ。小さな綻びは連鎖し、いずれ大きな穴となるのだ。人間が長い歴史の中で何度繰り返したか」


 オルキはそう言って自分が神と共に見てきた人類史を振り返る。

 幾度も戦争をし、他民族を虐げ、自国の利益のために海や陸地を分ける。そのきっかけはいつも些細なものだった。


「ある時はただ1度、他の港より魚の漁獲量が多かっただけで戦争になった。またある時は1人の少年が他民族の少年を侮辱しただけだった」


「ああ、アレアンス大虐殺……」


 世界史に残る凄惨な事件も、きっかけは些細なものだった。


 例えば120年前、アレアンス大陸の民族紛争は、ゴーレ人とアレアンス人の少年同士の喧嘩から始まり、互いの親、コミュニティ、政治家、軍隊内の民族対立、ついには近隣諸国にまで発展。

 ゴーレ人は120万人、アレアンス人は80万人が犠牲となった。


 最終的に侮辱的な言葉を投げかけた少年がゴーレ人だった事、甚大な被害で立て直しが不可能になった事でゴーレ人の敗北。他民族も巻き込まれた事で、アレアンス人側も多大な賠償を払う事になった。


 アレアンス人は賠償でゴーゼ国を手に入れ、ゴーレ人は数百年のうちに何度も大小様々な紛争を起こしていた事から、結局周辺国からも追放された。


「セイスフランナからは山脈を隔てるので行くのは簡単ではありませんが……ゴーレ人は100年の間、ゴーゼ国の飛び地である小さな島で暮らしているんです」


「ああ、モリガン共和国のメー湖の中に、ゴーゼ国の飛び地があるんだよな。フェインでも世界史で習った」


「確か、正確にはメー湖の中の島の中の湖の中の島、でしたね」


「はい。そのメー湖の中にあるバンガ島の北バンガ湖の畔の町と、北バンガ湖に浮かぶノン島および島から1kmの水域がゴーゼ国の飛び地です。ノン島は唯一のゴーレ人居住地として許されています」


「なんすかそれ、ややこしくないっすか」


 追放されたゴーレ人はほぼ全員が集められ、広大な淡水湖である「メー湖」の中に浮かぶ「バンガ島」の更に中にある「北バンガ湖」に浮かぶ僅か33㎢の「ノン島」に隔離された。

 ほぼオルキ国の主要な3島を合わせた面積に等しいその島に、約130万人が暮らしている。


 人口密度はおよそ4万人/㎢と、他の地域では考えられないような状態。

 しかも島には低くも険しい山があり、可住地域は島の面積ほど広くない。川があり発電が出来るものの、全世帯を賄うには厳しい。


「想像がつかねーな」


「例えば、このヒーゴ島に40万人が住んでいるような感じですね」


「……え、そんなに家建てる場所ねえだろ。集合住宅でも無理じゃないか?」


「なんか、3階建て以上が基本で、しかも自由に貿易出来るわけでもないけん、かなり貧しい暮らしっち聞いた事はあるけど」


「湖の中の島の、更に島ってなりゃあ出るだけでも大変だ。更に対岸の町以外は他国なんだろ?」


「詰んでいますね」


「人口が多すぎて空港を建設できる土地がありません。上空の飛行許可も、恐らく周辺国が出さないでしょう」


 オルキが例に出したものを想像し、皆はぶるぶると肩を震わせる。


 たったこれくらい、その心の緩みや弾みで言ったその一言。それがオルキ国の中であろうとなかろうと、取り返しのつかない事態になる可能性がある。オルキはそんな例を幾つも見てきた。


「吾輩は色々と考えを改めなければならぬのだろう。刑罰は訪問者向けに作ったつもりで、国民に適用する事など無いと思っていた。だが実際は滞在審査を通過し、いよいよ移住直前の者が引っかかった」


「移住申請を出した時は、確かに悪い人ではなかったのに……って場合もあるのね」


「一筋縄ではいかぬのう。人間の長どもが平和とやらに到達しない事にも納得だ。エバン、貴様はどのような覚悟でそこにいる」


「……オルキ国王の判断に従います」


「そうか」


 オルキはまだ暗い中、僅かな光を目で反射させながらエバンを見上げる。


「我が国で生きる覚悟を持つか、レノンに帰るか。貴様はどちらを望む」


「追放を、覚悟しております」


「帰りたいのか」


「……まだ残っていて良いのですか」


「吾輩は今回の事で、人間に改心が可能なのかを見定める必要があると学んだ」


「それならば、私はこの国に残りたいです。人間の可能性を証明します」


「覚悟を受け取ろう。イングス、エバンの縄を解いて降ろしてやれ」


「はーい」


 場違いに朗らかな声と共にエバンが解放され、残るはボクスだけ。エバンを見て、ボクスはやや希望を持ったようだった。


「ボクス」


「わ、私もこの国に残りたいです、もう二度と裏切りません!」


「そうか」


 オルキはそう言ってイングスの肩に飛び乗り、やや高い視点からボクスに告げる。


「不法投棄については、貴様の往生際の悪さを踏まえてもエバンと同じ扱いも止むなしと考える」


「あ、ありが……」


「だが妻との誓いを破ったその不誠実さ、他人のものを盗んで白を切ったその不遜な態度。幾つもの罪を重ね、その全てが他人への裏切りとは。貴様は吾輩や周囲の者を軽く見ておるようだの」


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