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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
オルキ国の本格始動

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どちらか分からない状況




 * * * * * * * * *




「あっはっは! なるほどね。確かにおはようの反対語って言われると、何て言えばいいか分かんないな」


「だからって、遅いようではないかな」


「平然と『おそいよう』って言われたけん、何がっち聞き直しちゃった。僕がっち言ったけん、そこでようやく分かった」


 皆で食卓を囲む夕食時。今日の話題は、イングスが夕方起きた際に発した言葉だ。


 昼寝と称して姿勢よく横たわっていたイングスが、すくっと上半身を起こして当たり前のように「おそいよう」と言ったのが面白かったらしい。


「昼寝の後は何て言えばいいのかな」


「おはようでいいんじゃないの」


「おはようは朝だよ」


「昼でもおはようでいいさ」


「でも何も早くないよ」


「起きた時は、おはようでいいんじゃないでしょうか。眠りから覚めた時はおはようと覚えたらいいかなと」


「僕は眠っていないよ、未だかつて1度も起きた事がない」


 イングスは自分で考える事を覚えたが、まだ臨機応変とはいかないようだ。

 あくまでも姿勢として寝そべっただけで、眠ってはいないというのがイングスの主張。思考する事を学んだイングスは、なかなかに手強い。


「そういうものなの。例えばごめんなさいだって、相手に対してごめんを要求する意味じゃないでしょ」


「そうだね、人間語って難しい」


「まあ、パターンを覚えるしかない言葉もあるよな」


「ケヴィンもあんた、イングスの事笑っとられんけね。寝相悪過ぎっちゃ、掛け布団独り占めにして、イングスの事抱き枕にしとったばい」


「えっ!? イングス、俺そんな事してた?」


「うん」


「ね、寝言とか、言ってなかったよな? いびきとか」


 自分の寝相など、誰かから指摘されなければ分からないもの。ケヴィンは恥ずかしさで耳を真っ赤にしながら、恐る恐る尋ねる。


「何も喋っていなかったよ」


「よ、良かった……つか、ごめんな、暑苦しかったよな」


「暑苦しかったのか、それとも寒楽しかったのか、どっちか分からない。暑楽しかった事にする」


「全然分かんねえけど……つまり特に気にしてなかったって事だな」


「そうだね」


 普段から当たり前のように喋っていると、言い回しの不思議やおかしさには気づかないものだ。物事に興味を示したり、違和感を覚えるようになったイングスからは、新発見がどんどん出てくる。


「ところで……オルキさん」


「ん? 何だ」


「連合軍はその後どうなったのですか。動物や虫達が国中で騒いだとの事ですが」


「その後と言われても分からぬ。レノンに確認しようにも連絡手段がないからの」


「そうですか。この島を襲いに来なければ良いのですが」


 今現在戦闘艇がなく、オルキ国の住民は島外に出る手段を持たない。島を囲まれでもしたら誰も傷つかず生き延びるのは無理だ。

 連合軍の卑劣さを知るガーミッドは、楽しい食事の間も外の警戒を怠っていなかった。


「この島を征服する意味ではなく、報復という事だな。だが吾輩がけしかけた証拠などあるまい」


「偽証くらい些細な事です」


「まあ、人間のとびきり性格が悪く質の低い奴ならば、それくらいするやもしれぬな」


 世界大戦始まって以来の大被害。ジョエルの上層部は怒りに震えている事だろう。


 ジョエル連邦が動物や鳥や虫達に襲われている間にフェイン王国の連合軍を追い出し、王族を救出。

 オルキ国の関与があったと見做すのが自然だ。


「備えなければならぬか。吾輩とイングスで防衛は出来るが、包囲されたなら確かに傷つく者も出よう」


「牛や羊を味方に付ける事は出来ないでしょうか」


「もちろん出来る。しかし上陸して歩いて押し寄せるとは限らぬ。あまりに大きな戦艦や飛行艇であれば、クジラや鳥でどうにか出来るものでもない」


 オルキは自信家だが、相手を見くびる事はない。もっと言えば、襲いに来られたなら徹底的に打ちのめし、片っ端から喰らってやりたい方だ。

 その為の努力や準備なら惜しまない。


「よし、明日から飛行場建設に取り掛かる」


「えっ」


「飛行艇もないのに?」


「オルキ諸島に訪れる手段が船だけでは、外交や貿易に支障がある。今のオルキ国は、他所から来てもらう事に頼るばかり。ならば少しでも訪れやすくしなければならぬだろう」


「整備するのは凄い時間がかかると思うけど……でもやるしかないよな。勝手に飛行場が出来上がる事はない」


 飛行場を作ると言っても、その技術は高度なレベルが要求される。

 例えば滑走路の僅かなひずみは着陸機の振動を耐えられない程大きくしてしまう。


 厚いコンクリートとアスファルトで固めなければすぐに路面が波打ち、陥没する事もある。何百人、何千人と大量の重機、何より資金が必要な大工事だ。


 傾斜も僅かなひずみもない真っ平な滑走路に、水はけを考え側溝を用意し、配管を地に埋め、管制塔も作らなければならない。管制塔に置く機械装置など当然ないし、誘導灯だって準備するだけの材料がない。


 だが、それらが揃うまで待つ必要はない。どうせ今すぐ出来上がった所で受け入れ体制も整っていないのだから。


「イングス、少々大変になるが、滑走路作りのため明日から場所の選定に入ろう」


「はーい」


 コンクリートを作る技術と、それを用意するだけの材料はある。アスファルトも一部だけだが試しに敷いてみた。


「重機を揃えるには他国から買うか、借りるしかない。残念ながら、オルキ国が準備できるお金は40万クロム。ショベルカーを1台買う金にもならない」


「そうか、これだけの金があれば何でもできる気でいたが、全く足りぬか」


「でも、貿易で稼ぐためには船や飛行場が必要なんだよな……」


 オルキ国には無一文の漂着民ばかりが集まった。アリヤはセイスフランナという大きな後ろ盾があるものの、現時点で金があるかと言えば、ない。

 戦闘艇を奪った際に残されていた金は燃料代に消え、アイザスで稼いだ金の残りとフェイン王国から受け取った謝礼は、合わせても大国のエリートが1年で稼ぐ程度の金にしかならない。


 オルキ国民は生きていくうえで何も困らず、なんなら長閑で気楽な暮らしが出来ている。本人達には全く自覚がないが、とても貧しい国なのだ。


「牛や羊を売ったり、海産物で作った保存食、塩なんかを地道に売っていくしかないわね」


「それも来てもらえたらの話だからな」


 生活に余裕があり、他国の信頼も勝ち取りつつある。フェイン王国にとってオルキ国は救世主だ。

 そうやって自信を付け次の段階に進もうとして、オルキ国民は今更ながらそのハードルの高さに気付いた。





 * * * * * * * * *





「飼い慣らされた人間の船の音がする」


 国王が国に戻って2週間が経ったオルキ国。

 この日、オルキ国民は朝早くから緊張の面持ちで南の海を見つめていた。


 視程1km未満、住んでいれば数日に1度は見る事になる霧の海。

 その先で船の汽笛が鳴り響いている。


「……汽笛を鳴らしているという事は、島を把握しているという事でしょうか」


「灯台は稼働しているけど、光が届いているかは分からないな」


「霧が濃いから、他の船に警告しようと定期的に鳴らしているのではないでしょうか」


 船籍の分からない船がヒーゴ島の南の沖合を通過しようとしている。まだフェイン王国からの戦闘艇は戻って来ていない。


「汽笛の音、近づいてるよね」


「島長、念のため武器を準備しましょう。私は監視小屋から砲台を出してきます」


「イングス、投石の準備だ。岩を20程集めて来い」


「はーい」


「あたし達はどうしたらいい? 狙撃とかしたらいい?」


「塹壕に入り、港を監視しろ。ケヴィン、ソフィアとアリヤを連れて港に」


「フューサーさん、集落の小舟を入り江の岩陰に隠して下さい。我々は船が敵だと認識次第、ここから攻撃して上陸を阻止します」


「分かった。いざという時、避難する手段だな」


「招かれざる客なのか、それとも友好国か。吾輩は島内の牛や羊に指示を出してくる」


 のんびりと冬支度をしていたオルキ国に、久しぶりの嵐が訪れようとしていた。


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