フェイン王国強化担当大臣
ケヴィンの言葉に、フェイン人が気まずい空気を作り出す。自分達が自分達らしくいる事を誇りに思っていても、それを支えてくれたのはフェイン人ではない。
戦いたくない、でもフェイン王国は奪われたくない。変わりたくない。
そんな自分達のために戦い、命を落とし息絶えた者達は、決して兵器や心なき人形ではなく、自分達と同じ人間だった。
そんな事すら考えていなかった事を今更振り返って気付いたのだ。
「フェイン王国の位置は、各大陸に向かう拠点として絶好の場所だ。だからガーデ・オースタンやレノンは守ってくれた。フェインが屈すると、次に襲われるのは周辺国だから。でも肝心のフェインがこれじゃあ、戦ってくれた各国はやるせないよな」
ケヴィンはそう言うと、予め聞いていた爵位授与を断り、オルキ国民になると宣言する。
自国民の不甲斐なさを国王の前で堂々と説教し、そしてフェインを去ると宣言。
ケヴィンの態度や言葉に焦る者、怒りを覚える者、恥ずかしくなる者、色々いたが、言い返す事は出来なかった。
「弱い事を悪いとは言ってない。戦って死ねとも言ってない。でも自分の弱さのせいで誰かが代わりに犠牲になるなら、弱い俺達は間違いなく悪人だよ」
まさに今回の占領騒動の事だ。
ありきたりな開き直りの言葉を発したところで、更に鋭い指摘を受けて致命傷を受けるだけ。我慢強く耐えていると言えば聞こえはいいが、実際のフェイン人は弱気で言い返せず、強気な者には簡単に黙らされてしまう。
自分達が抵抗すらしなかった事で、他国の兵士が大勢傷付き、死んでいった。
フェイン王国に援軍を派兵するために自国の防衛が疎かになった。
いくら能天気で弱いフェイン人とて、さすがにそれを認識する事は出来る。
フェイン国王はそれを美徳としてきた国の文化と方針を見直さなければならない。
ぐうの音も出ない批判で情けない国だと言われ、何が誇れよう。
ケヴィンはスピーカーを近衛兵に返し、一礼して下がる。爵位付与を断ったケヴィンを諦めレイフへの爵位を宣言しようとした時、そのスピーカーが手から離れた。
「ケヴィンは弱くないから悪人じゃないよ」
スピーカーのハウリングを気にもせず言葉を放ったのはイングスだった。
「俺達って言ったけれど、君は弱くないし誰かのために戦える人間だから悪人じゃない」
イングスはケヴィンが祖国のためレノンに渡り、志願兵として役目を担っていた事を語る。今回フェインに戻ってきたのもフェイン奪還のためだ。
世界大戦が始まってから20年以上が経ったというのに、和平軍に加わったフェイン人は僅か300人。
「君達は穏やかで他人に危害を加えない。だけど優しくはないし、いい人間ではないよ。きっと性格が悪いんだね」
「イングス、それくらいにしておけ。この者達はもう自分達が愚か者である事を理解している」
「そうなんだね。でも僕はケヴィンが悪人だと名乗ったのは間違っているって言わなきゃいけないって考えた」
イングスはケヴィンを守ったつもりだった。何をするにも直球過ぎるが、ケヴィンは間違っていないのだと証明するべきだとイングスなりに考えた。
「イングス、確かにケヴィンは悪人ではないですね。俺はまあ……フェイン人って言われたらフェイン人でもありませんけど、俺も戦いませんでした」
「君は人じゃないから悪人にはなれないよ、ニーマン」
「まあ、それは確かにそうですね。そこで俺は考えました。オルキ国王は俺をオルキ国民にしてくれると言ってくれましたね」
「ああ、そうだな」
「フェイン王国が国家を承認してくれたとはいえ、こんな弱くて情けない国のままではまずいと考えていますね」
「まあ、そうだ」
ニーマンはイングスよりも多少は柔らかい表現……を敢えてせず、スピーカーも使わずに発言を続ける。
「つまり、フェイン王国を強国にしなければなりません。けれどフェイン人だけでは無理です」
「まあ、当然そうだろうな」
「それなら俺がオルキ国民として、フェイン人を鍛えましょう。フェインに残り、外交のため働きますよ」
「えっ」
フェイン国王が驚いてニーマンとオルキを交互に見る。まだ何を承諾したつもりもないのに、唐突にニーマンがフェイン人を教育すると決まったからだ。
かと言って、フェインは他国の力を借りずに自国民が戦闘力を身につける事など不可能。防衛力の強化を図るのは無理だ。
一方、ニーマンはオルキ国防衛に役立つ頼もしい存在。オルキは人形にとって住みやすいオルキ国に連れ帰るつもりだった。
しかし、オルキはニーマンの考えを尊重し、承諾した。
「貴様の考えはよく分かった。レイフよ、すまぬが引き続き我が国民の面倒をみてやってくれ。褒美はニーマンが自分で考えよう」
「はい。国王、宜しいですね」
断っておくと、気さくで庶民に親しみのある国王だと言えど、フェイン国王は決して威厳のない王ではない。
国民から見れば未だに威厳のある慕うべき王様だ。
そんな王様に向かって有無を言わせないレイフが特別近しい存在なだけ。かつての英雄は、嫌われ役をオルキやケヴィンだけに押し付けてはいけないと思い直したのだ。
「分かりました。オルキ国王、手を貸して下さいますか」
「生憎、四つ足に手は備わっておらぬ。それに借りなくて良いなら借りぬ方がよかろう、ニーマンを頼んだ」
「オルキ国王」
「……フン、いいか。貴様はこの国の腑抜けた民らを、自ら身を守るくらいできるよう教育しろ。貴様は今からフェイン王国強化担当大臣だ」
「はいっ!」
「教育方針はフェイン国王とよく話し合え。フェイン国王の方針や意向には逆らうな」
「はいっ!」
命令されウキウキなニーマンを見て、国民達は不安顔だ。だが、強き者に逆らえず従ってしまう国民性は、こんな時にも発揮されてしまう。
嫌だと思っていても、もう強化訓練に参加しなければならない事を受け入れ始めている。
「オルキ国の皆様、この国を救って下さり有難うございました。王様、こちらを」
近衛兵が1枚の紙を差し出した。署名用の台でフェイン国王がサインをし、ペンを差し出そうとしたところで手を止める。
「……オルキ国王、失礼ですが署名は」
「吾輩が字など書けると思うか」
それは国交樹立を宣言する協定書だった。難しい言葉は書かれておらず、互いの国を尊重し、双方が相手国では相手国の法に従うようにと書かれている程度。
オルキは字を知っているものの、口に加えても両足で支えても解読可能な文字は書けない。
悩んだ結果、オルキは肉球を黒く塗り、協定書に押し付けた。
「これで良かろう」
「はい。今夜は……」
「さて、帰るか。船は無事だろうな」
「えっ」
「ん?」
「いえ、今日は是非とも歓迎の宴席を……」
「その気持ちには感謝する。だが、吾輩は国を出てもう2週程経っておるのだ。アイザスの軍人や議員を待たせておるし、早く帰りたい」
「そ、そうですか……それは残念です」
フェイン国王も近衛兵もあからさまに残念そうだ。フェイン国王が国民にオルキ国への最大限の感謝をするよう言った後、オルキ達は王宮の中へと戻っていった。
* * * * * * * * *
「船は無事なようです。付近の住民が見張っておりました」
「そうか、ならば我々はこのまま帰る事にしよう」
オルキはケヴィンが名残惜しそうにしたなら、しばらくニーマンの面倒でも見させようと考えていた。ケヴィンはもう意志を固め、もう未練はないと言い切る。
イングスはさようならと言ってもう帰ろうとしているし、1人と1匹と1体は通りがかりについでに助けただけかのように帰国する。
感謝の宴も開けず、国交を結んだだけで帰すのはフェイン王国のメンツに関わる。
「……我々がオルキ国まで送り届けましょう。船は後日お届けいたします。島に滑走路はありますか」
「ないな」
「そ、そうですか……」
「それならせめて食料と燃料を大量に」
飛行艇で帰れるのなら、船の4倍も5倍も速い。けれど島には滑走路がなく着陸は不可能。船で帰って貰うしかないと分かり悩む近衛兵達に対し、イングスがぱっと振り向き、飛行艇で帰ろうと言い出した。
「お前、飛行艇で帰りたいの?」
「うん」
「しかし、滑走路はないのだぞ」
「着陸しなければいいでしょ」
「……はい?」




