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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
解放軍

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Chit-Chat03 違う合図

 


 周囲に一切の陸地がない死の海域に浮かぶオルキ諸島。


 なだらかな丘の低い所まで降りていた今日の霧は、ついに小さな集落まで迫って来た。低い芝屋根のてっぺんでさえも白く包まれ見えない。

 幻想的でどこか不気味でもある光景は、最初は島を訪れた誰もが身構える。そんな中、集会所の中はとても賑わっていた。


「ソフィアさん、どうしましょう……」


「どうしましょうっち、あたしに言われても分かるわけないやん。なし途中で気付かんかったと?」


「いや、なんででしょう……」


「アリヤが分からんなら、あたしも分からん……」


 オルキ達がヒーゴ島を出発し1週間が経った頃。

 残ったメンバーはいつもと変わらない穏やかな日常を過ごしていた。

 貨幣経済は発展しておらず、物資はある程度あるものの、殆どが自給自足。刈っても刈っても終わりの見えない羊の毛、ようやく軌道に乗り始めた野菜栽培。

 魚は釣り放題で、肉にも困らない。


 都会的なパブや映画や演劇などはない。ないものはない。ただ、あるべきものは全てある。

 そんなド田舎に突然やって来て、2,3日は島の警備として散策を楽しんでいた兵士達も次第に飽きがきた。


 とある兵士は筋トレと称しどこでも腕立て伏せやスクワットをし、わざと重い荷物を背負って野山を駆け巡る。


 またある兵士はガーミッドと共に釣りに勤しみ、そして一番人気のある娯楽……いや日中の諸島防衛業務の一環が編み物だ。


「あー、しげさむい」


「おいおい、あんぱぐなしてわがんねえよ?」


「いいでば、……いぐねすかや?」


「おがすねないしょだなや、あははっ! さっかげばりすて首っこ2つも3つもこさえて、ケルベロスでも飼う気か」


「おんめこそなんだべ、なじょしたらそだごとになんだべ? 今時ほいどの子でもそっただじゃげづ着てねえよ」


「あーもう! かっぺだのすっぺだのしずねごだ!」


 議員はお手の物で、フューサーとソフィアと共に兵士達に教えて回る。だが裁縫は幾分経験があっても、編み物は初めてというアリヤ、そして毛糸の玉すら見た事がない兵士達の作品は散々なものだ。


 アリヤが編んだセーターは裾を開けるのを忘れ、首と袖がある袋のような状態に。兵士達にいたっては、まず服の形になっていない。


 首の部分や袖がなぜか3つも4つもあったり、胴体部分が猫でも窮屈な程細かったり。網目がギチギチな箇所もあれば、拳が入りそうなくらいゆるかったりする。


「これは一度ここまで解かなくちゃ駄目だな。あーあー、そんなに引っ張って編んでたらそりゃ形が揃わないって!」


「もう1回きがせてけさいん」


「1つ1つの網目を予めキツめにして、それと同じ間隔で編んでいくといい。伸ばさない……そう、返しは……そう、その調子」


 オルキ諸島の羊の毛は湿度が高く低温で餌が豊富な環境のせいか、なめらかで良質だ。兵士達は編んだセーターを故郷の母や恋人に渡すと言って張り切っている。


 議員はもう2着目を編み始めていて、最初に作ったものも白と黒の毛糸を上手く使い分け、氷の結晶のような模様がちりばめられている。


「アリヤ刺繍得意やったやん、編み物もきっと上手になる。あたし、刺繍は苦手なんよね、細かい事できん性格が災いして」


「ソフィアさんの料理、結構豪快ですもんね、でもきっちり量らないと作れない私より断然いいです。私はまだ料理もおぼつかないし……これが女子力の差ってものなのですね」


「いや、雰囲気も立ち振る舞いもアリヤの方が女子力高いだろ……気品というかおい、睨むなって、そういうところだぞ」


「そりゃ王女さまには負けるけどさ! あたしには当然女子力がないみたいな言い方!」


 フューサーがボソリと呟き、ソフィアがギロリと睨み返す。アリヤが慌ててその場を収めようと編み棒を置いた。


「気品ではご飯は食べられません! そんな肩書きより、私はもっと生活力を身につけたいんです。私の目指す女子力はソフィアさんですから!」


「ちょ、ちょちょちょ、あたしを目指しても駄目っちゃ! そりゃ島にはあたしらしかおらんけん、お互いしか目指す相手おらんけどさあ」


「王女が目指す相手がソフィアでいいのか……まあ、いいのか。確かにおしとやかなだけじゃ生きていけないもんな」


「ふーん、でもおしとやかな人が好きなんよね。あたし、おしとやかやないけんね」


「褒めたつもりなのに、いちいち悪く取るなってば」


「直球で褒めてよ! あたし捨てられたけど一応彼氏もおった事あるんばい!? 捨てられたけど」


 皆、編み物をする手と同じくらい口もよく動く。ソフィアのどこかおかしな抗議に、兵士達が声を上げて笑う。


「俺、ソフィアさんが編んだじゃげづが欲しいです!」


「じょこちゃんはがらがらすてる方がいいべ? なあ?」


「あ? おめえは駄目だ、俺のじゃけづと交換してけらいん!」


「ふーん、ふふっ。おいはほれ、アリヤ王女に刺繍縫ってもらったべさ」


「あーっ! ししゃねったこまに!」


 最初は小物から作れと言ったのに、皆が皆、セーターを編もうとする。数人はどうやらソフィアやアリヤと交換するのが狙いだったようだ。


「皆さん、お昼ごはんにしましょう。タラとニシンとサーモンが人数分釣れました、サーモンは卵を抱えてはちきれそうです」


「イクラ丼!」


「イクラ丼は全員分はないかもしれないですね、欲しい人は」


 ガーミッドと、釣り組の兵士達が戻って来た。今は手ぶらだが魚は重くて家に置いて来たという。


「じゃあぐーぱーちょきで、少ない人から決めましょ!」


「ぐーちょきぱーじゃないのけ?」


「何でもいいさ。じゃあえっと……ハイキング組も戻ってるよな? よーし」


 皆が拳を握り、自身が出す手を直前まで隠そうと片方の手で隠す。


「いっせーのーせっ!」

「せーのがさん、はい!」

「さんのーがーはい!」

「3……えっ、えっ?」


 聞き覚えのない掛け声が幾つも混ざり合う。


 兵士達は声が揃っていたものの、アリヤとソフィアは違う掛け声だった。フューサーは最初のさんだけソフィアと同じだったものの、その後は違ったようだ。


「……え、なに? 3、2,1、じゃんっ! じゃないの?」


「はっ? 何それ、ぐーぱーちょきに分かれる時はさんのーがーはいっやろ? みんなで合図して揃える時はさんのーがーはいって決まっとる」


「わ、私、セイスフランナではせーのがさんはいっ! だと教わって、子供のころからずっとそうだったのですが」


「いっせーのーせっだべ? おめだちどこの言葉語ってんだ」


 どうにも揃わない。皆がこの場では主催者として何の手も出さないガーミッドを見つめる。


「……私、ですか?」


「ガーミッドさんは故郷で何て言ってた? ノウェイコーストは違う?」


「えっと……ノウェイコーストでは用意……と言った後、一斉にグーやパーなどを口にします」


「何それ」


「いや、みんな互いに何だそれって思ってるだろ今。ガーデ・オースタンは3,2,1……で揃える」


「えーっ、ギタンギュはさんのーがーはいっしか言わん。多分、ユラン大陸はみんなそう」


 イクラ丼の事などすっかり忘れ、皆がそれぞれ故郷では何をどう言うかという話題で花を咲かせる。

 これでは昼食にありつくのはいつになるのやら。


「おいおい、飯行こうぜ、もうみんなちょっとずつ食えばいいじゃん。統一したいなら島長に決めて貰おうぜ」


「それが一番平和かもしれないですね。今頃、島長とイングスくんとケヴィンさんは元気にしているでしょうか」


 兵士達の駐屯はいつの間にかただの余暇になりつつあるが、今は国王を外交に送り出し、フェイン王国など各国の協力を仰がなければならない大事な時。


「掛け声を決めてる場合じゃないな。よしっ」


「無事を祈りながら、出来る事をやらなくては、ですね」


「そうだ、これをオルキ国王のじゃけつに編んで渡すべ」


「いや、飯を……」


 島には穏やかな時間が流れている。白い霧は島一帯をすっぽりと覆い、空からも近くの海上からもその姿が見えない。


 僅か10km沖をギャロン帝国の戦艦が航行していたにも関わらず、オルキ諸島に気付く事なく離れていく。


 そんな危機が迫っていたとは全く知らない島民たちは、1人あたりスプーン1杯のイクラに心を弾ませつつ、オルキ達の無事を祈っていた。

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