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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
解放軍

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ひこうき雲

 


 フェイン占領の責任者が拘束され、皆の指揮は明らかに下がっていた。まだ首都のトシャから援軍が来ると望みを持っている者も、この場で自分が刃向かう気はない。


 少しずつ明るくなり始めた山の端は、自分達の惨状を嫌でも受け入れるよう迫ってくる。


「おいクズ共の代表者。首都に駐屯している残りの馬鹿共に投降を命じよ」


「……」


「とても賢そうには見えぬから念のため言ってやるが、まさか吾輩達が本気で相手したとは思っておらぬよの」


「……それは」


「貴様らを殺す事など、ミミズを踏み潰すのと大して変わらぬ。だが吾輩は貴様のような畜生ではない、わざわざ殺生を自重してやった。生かす利点などないが、生かしてやった」


「……」


「まったく足加減というものは大変なのだ。貴様らは少しばかり強く打ち付けたならすぐに死んでしまう。強いつもりでいたのだろうが、どうだ。こんなにも弱く愚かだと思い知り、無様に服従を受け入れるしかない状況は」


 オルキは大佐の神経を丁寧に逆なでする。首都に残った400名の兵士が加勢に来た所で結果は変わらないだろう。

 砲弾は効かず、戦闘機で爆撃しようにも、その戦闘艇は奪われている。


 それも戦闘艇からの爆撃や機銃掃射が効く前提で話す場合のものでしかない。


 大佐はイングスに首根っこを掴まれ管制塔まで引き摺られていき、トシャの本拠地へ電話を掛けた。


「5名の兵士が状況の確認に来る。状況の確認ができたら投降し、この島を出る」


「僕達が君の事を信じると思うかい」


「気に入らぬな、貴様らが吾輩に条件を付きつける立場にいると思うか」


「そ、そうではない! こ、声だけでは信じられないと言うから……」


「味方にも部下にも信じられておらぬようだ、情けない責任者だのう」


 2時間程が経って、1台の4輪駆動車がやってきた。トンネルの封鎖は解かれたらしい。


「た、大佐……」


「わんどの負けだじゃ、このままだばもうあがったりだじゃ」


「ま、まずばって戦ったらおかねぐねびょん!」


「やめらば、えーきがってそえごと語ってばまねだ、まねしてしでまるじゃ。見ろ、皆死んずまう」


「……わんどば、か、かねさえねぇじな」


 確認に来た5人は状況に顔面蒼白だ。どうやっても敵わない事は見れば分かる。

 大佐に撤退と近くの港への船の接岸を指示され、5人は仲間への心配もそこそこに本拠地へと逃げ帰っていった。


「なんだ、戦闘機で貴様の祖国の惨状を見せつけてやらずとも、こんなに簡単に撤退してくれるか」


 オルキが拍子抜けと共に小さくなり、イングスの肩に飛び乗る。見ればイングスとニーマンはケヴィンと共に負傷した兵士の手当をしていた。


「戦意を喪失した奴に追い打ちを掛けたら、無抵抗なフェイン国民を虐げたこいつらと同じになっちまうだろ」


「貴様にはそうするだけの権利があると思うが」


「権利があるからって当たり前に振りかざしちゃ駄目な事もあるんだよ。理由がありゃ誰かを傷つける、そんなクズじゃないよ俺は」


「……ふむ」


「こういう時は人の本性が出る。怒りや恨みでこいつらを蹴ったって撃ったって、今なら誰も何も言わないだろうさ。だからこそ、俺は理性で行動すると決めた」


「吾輩の行為は駄目だというか」


「いや、俺は島長に感謝してる。これ以外に方法があったとは思わないし、俺がこいつらと同じ畜生に落ちずに済んだのも島長のおかげだ」


「ややこしい奴だのう」


 ケヴィンが力なく笑い、オルキは皆の行動を見守る事に決めた。やがてすっかり太陽が昇りきった頃、レイフ達が住む村の入り江に軍艦が2隻やってきた。


 数十人の兵士が歩いてやって来ては、手当が済んだ兵士達に肩を貸して無言で去っていく。行列は数時間続き、大佐を含め連合軍の全員が島を去った。


「飛行艇はどうするんだい。オルキ国王さん、飛ばすならもう準備は出来ている」


「そうだな。ニーマン、戦闘機を操縦してくれ。連合国側の状況を確認したい」


「いいですよ。他に誰が乗りますか」


「俺はフェイン王国が解放された事をみんなに知らせに行きたい。出来ればイングスの力も借りたいんだけど」


「よかろう、ならば吾輩とニーマンで行くか」


「儂も連れて行っとくれ、久しぶりの空だ、それに操縦出来る者が2人いた方が安心だろう」


 レイフはオルキにしっかりと頭を下げ、それから戦闘機へと乗り込む。


「島長、俺は残った方がいいかな。皆はまだ占領軍が本格的に撤退した事を知らないはずだ。知らせて回らなきゃいけないし、本当に全員いなくなったか、確認もしないと」


「戦艦が戻って来ておらぬかは、空から確認できる事だ。半日ばかり遅れたとて問題なかろう」


 ケヴィンはそれもそうだと言い、戦闘機に乗る。ケヴィンはイングスに敢えて問いかけた。


「イングスは、一緒に来るかい」


 自分で行動を選ばせる。その訓練をしなければならない。今回のイングスの返事は案外早いものだった。


「うん」


「どうしてついて来ようと思ったのか、教えてくれるか」


「一緒にいないと守れないでしょ」


「まあ、理由があっての事ならいいか。急ごう、ジョエル領に着く頃には暗くなっちまう……あれ、ニーマンは?」


「お待たせしました」


 ニーマンが一番最後に乗り込んでくる。


「船体の連合軍旗をフェイン国旗に塗り替えていました。まだ乾ききっていないので、また後日描き直します」


「へえ、そんな事まで」


「人形も、長年自分で考える事を要求され続ければ、これくらいの事は出来るようになりますよ」


 ニーマンは後方の席を振り返り、イングスにニッコリと歯を見せて微笑みを向ける。君はまだまだだね、と言いたいのだろう。


 残念ながら、イングスはまだそこまでの意図を理解できない。ただ、笑みを向けられた事に対し、何か反応をしなければいけないとは考えた。


「あはははははっ」


「ど、どうした急に」


 イングスは口角を上げただけの不自然な笑みで、場違いな笑い声を上げ始めた。


「あは……ニーマンが笑顔を見せたから、きっと何かが面白いのだろうと思った」


「……笑顔の種類と意味も教えてやらなきゃいけないのか」


 ひこうき雲が溶け始める頃には、ケヴィンによる笑いの説明が終わっているだろうか。

 とにかく、まだ進化や成長と言える程には至らない。けれど、イングスは確かに変わり始めた。





 * * * * * * * * *





 少しずつ空の色が失われてきた夕刻、フェイン王国を出発した戦闘機はジョエル軍の領空を飛んでいた。


 フェイン王国旗が片側だけだからか、見た目が連合軍の戦闘機だからか、それとも王国旗模様が乾ききっていなくてすっかり流れてしまったからか。

 戦闘機が攻撃を受けることなく、間もなく陸地に差し掛かろうとしていた。


「えらく……煙が立ち上っているな。空襲を受けたかのようだ」


 港、大都市、小さな集落までどこもかしこも煙が立ち上っている。数か所は炎も見えていて、工場か何かが爆発しているようだ。戦闘機の中にもその悪臭が入って来る。


「こりゃ、酷いな。どうしてこうなった」


「生きとし生けるものは、力を持っておるのだよ。普段振るわないからと言って無いと同然に考えていた愚かな人間が、時に滅びの淵に追いやられる程にな」


 生き物の逆襲は想定以上の結果を出していた。

 牛が工場のフェンスを突き破り、ヘラジカが頑丈な車を破壊。カバや熊が本気で突進すれば建物の扉など簡単に破られる。


 人が大混乱に陥って制御がおざなりになった結果、工場は火を噴いてしまった。動物は人間よりも敏感に異変を察知して早々に退散。

 その後の事はあまりにも無残で、語らない方が良いだろう。


「自国がこうなって、しかもどこかの国が攻めてきたわけでもない。これをどう処理すんのかね、ジョエルは」


「大都市は沿岸部の細い湾沿いに集中してる。それが空から見える範囲全部これだからな、戦闘継続しようにもどうだろうな」


「オルキ国王、どこかに着陸しますか」


「着陸するまでもなく、状況は理解出来た。元々着陸する予定もなかった」


 そう言うと、オルキは満足そうに引き返す事を告げる。しかし、レイフがそれに待ったをかけた。


「オルキ国王、着陸を許可して下さいませんか。ジョエルには追放され軟禁状態の我が国王陛下の一族がいるのです」


「島長、俺からもお願いだ。俺はこの件が終わったらフェイン国民じゃなく、正式にオルキ国だけの人間になる。フェイン国民としての最後の頼みだ」


「そう言えば、追放されていると言っておったな。ならばフェイン王国から占領軍を撤退させただけは、我が国の承認は受けられぬという事」


「そ、それでは」


「恩義など無用だ。吾輩はオルキ国のために、貴様らの王を奪還する。ニーマン、滑走路を探せ」


「ご命令の通りに、期待には応えますよ。養父は俺に命令をしてくれませんからね、まったく」

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