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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
世界とのギャップ

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覚悟の違い



「吾輩はオルキ国の長、オルキだ。オルキ国の魔獣の話は聞い……」


「うおっ!? 猫が喋った!」


「はあ? 猫が喋る訳ねえだろ。何言ってんだ」


 二等バッジを付けた軍人が低く長い叫び声を上げたせいで、奥の扉に向かおうとしていた少佐が戻って来た。


「い、いやこの猫が」


「吾輩は魔獣だ、猫ではない」


「うええっ!?」


 少佐までもが驚いて跳び上がり、聞きつけた警備兵が銃を構えて会議室に突入してきた。ケヴィンは思わず手を上げ、それをイングスも真似する。


「何事ですか!」


「貴様ら手を後ろに回せ!」


「ちょ、ちょっと待って下さい! 侵入者とかそういうのじゃ……」


 手錠をかけられるのだと分かり、ケヴィンが大慌てで兵士達を宥めようとする。

 だが、その必要はなかった。


「うわあああ化け物!」


「ひぃぃっ! な、なんだコイツ!」


「おいしっかりしろ! 少佐、ゲイル二等兵が失神しました!」


 兵士達が揃いも揃って腰を抜かし、少佐も距離を取ろうと壁に張り付いている。


「……イングス、もういいぞ」


「はーい」


 原因はイングスだ。イングスは手を後ろに回せと言われ、残像が発生する程の速度で腕を回し始めた。

 下手投げの延長でそのまま回転を続けるその腕は、人間の骨格的にありえない動きをしている。言われた通りに手を後ろに回したのだから、間違ってはいない。


「こいつら何なんだ……」


「魔獣と人間と人形だよ」


 錯乱して銃を乱射されずに済んだのは幸運だった。あまりにも恐ろしい事態に直面すると、人は何も行動出来なくなるらしい。


「そのまま座り込んで、両耳でしっかり聞け。吾輩はオルキ国王、魔獣である。こやつはイングス。神が創り上げた傀儡だ」


「あー、一応俺も元レノン兵なんで。敵対する気はないんです。2年程前、ノバム島へ向かう途中で行方不明になった民間船を覚えていますか」


 ケヴィンが覚えのある事を投げかけたおかげか、数人の兵士は次第に覚醒し始め、そう言えばと振り返る。


「民間人300名、軍人15名。全員が嵐による座礁で死んだ事故だな。遺体の収容へはこの基地から向かった。俺達も」


 痛ましい事故を思い出し、皆の顔色が曇る。ケヴィンは救助しようと動いてくれたことに感謝し、その船に乗っていた事を告げた。


「あともう1人、ガーデ・オースタンから派兵されていたフューサー・カルソイも生きています。2人だけが流されて辿り着いたオルキ諸島で助けられました」


 ケヴィンの話を聞いて、少佐がすぐに世界地図と海図を広げた。さすがは上官、ケヴィンの発言が真実かどうか、確かめようとしたのだ。


「秋から冬の海流は北上していく。ノバム島の沖からであれば、このように流れたはずだ。更にあの事故の日、大陸から東へと風が吹いていた。オルキ諸島はどこにある」


「ちょうど少佐が指す地点の北あたりです」


「ほう、場所は分からないというのに見当を付けるとは大したものだ」


「ね、猫が喋るのはどういう事だ? この猫は機械人形か、それともマイクでも取り付けているのか」


「吾輩は魔獣だと言ったであろう」


 オルキはため息をつき、威嚇程度に体を大きく膨らませた。もう何度目の反応なのかと呆れるより、さっさと証明する方が早い。

 背丈2メータものクロヒョウになれば、脅しには十分だった。


「あー、一応、言っておきます。レノン軍の1000人や2000人程度じゃまず勝てません。たとえオルキ国王とイングス、どちらかだけでも」


「セイスフランナの王女が救出された島に魔獣伝説が残っているという情報はあったが……」


「本当に魔獣などいるのか? 魔獣などおとぎ話の存在では」


「ならば吾輩に対し、貴様が本当に人間なのかどうかを証明してみろ。人間の姿をしていれば人間などと馬鹿な話はない。なあ、イングス」


「そうだね」


 イングスはお得意の首を180度回す荒業を披露した。血圧の上下に耐えられなかった数名の若い兵士が気を失い、地面に崩れ落ちる。


「どうだ。イングスは人間の姿をしておるが」


「な、何者なんだお前達は……」


「見たまま理解してくれぬかのう。吾輩が人間に見えるか? 貴様は人間に見えるが、中身は人間で間違いないか?」


「僕は人形だよ、何者でもないね。君は人間か、もしくは人形に名乗らせたい時、まずは自分から自己紹介をすると教えられなかったのかい」


「貴様ら、少佐に向かって何という口のきき方を」


「何という口……? 口の種類? 口で聞く方法? 理解できない言葉だ」


 イングスは直接的な表現には問題なく答えられる。しかし、比喩や慣用句にはとんと弱い。兵士の言葉を上手く理解できなかったようだ。


「何を屁理屈並べてやがる! 少佐に対する無礼な言動を慎め」


「この人間の名前はショウサなんだね。僕の名前はイングス・クラクスヴィークだよ」


「この人間とは何だ! 無礼な言動を慎めと言っているだろうが!」


「人間じゃないのか人間なのか、どっちなんだい? それに僕はショウサにお礼をするような事、何もされていない。礼がなくても当たり前じゃないかな」


 怒りに任せて何を言おうと、イングスに響くものは何もない。それどころか理性的ではない言葉が並ぶと、その意味が伝わらなくなる。

 ひとしきりイングスの煽るような返事が繰り返された後、とうとうオルキが大きくため息をついた。


「道理で、和平軍とやらは弱いはずだ」


「なんだと?」


「身内同士で誰が偉いだ敬え謝れとプライドばかり気にしおって。こうしている間に貴様らが守ると決意したフェイン王国が敵の手に落ちたのだろうよ」


「なっ……」


「何が少佐だ。偉そうにしておいて何が出来たのだ。偉そうにして良いのなら吾輩は国王だぞ。所詮は数多いる軍人の1人に過ぎぬ貴様に、何故吾輩が従う必要がある」


「クッ……皆、こいつらを捕えろ!」


「ちょっと待った! まずいですって!」


「うるさい! だいたい、貴様の素性も怪しいものだ! レノン軍の偵察に来たスパイだろう!」


 ほんの小さな会議室の中だけの話だが、軍人達のプライドはボロボロだ。特に上官は厳しい姿勢を貫かなければメンツに関わる。

 ここでこの不届きな2名と1匹を捕え、牢屋にぶち込んだところで誰にも分からない。


 ジョエル軍の船を見知らぬ国の船に偽装してきたスパイだと言えば、大抵の人間は信じるだろう。その中に人形があったか、猫が喋ったかどうかなど、気にする者はいない。


 腰を抜かしていた兵士達が恐る恐る立ち上がり、じりじりと距離を詰めてくる。


「あー……俺知らないぞ。どんな結末になっても」


 ケヴィンが溜息をつきながら憐みの目を向ける。一番まともそうだからか、軍人達はまずケヴィンを捕えようとした。


 その行動がオルキの神経を逆撫でする。


「貴様ら愚かな人間共が、我が民に触れようとするな!」


 オルキが姿に似つかわしくない大声を張り上げたかと思うと、その姿はみるみるうちに大きくなり、とうとう会議室の天井に頭が付くほどになった。


「ひいっ!?」


「吾輩は民に対し、必ず守ると誓いを立てた! 我が民の忠誠は我が行いによってのみ保たれる! 民に手をかけるなら、それは吾輩への攻撃だ!」


 ケヴィンとイングスはサッと耳を塞いだが、会議室やその付近にいた者達の耳の鼓膜は無事かどうか分からない。

 岩がオルキの絶叫を盛大に反響させ、蛍光灯もガラス戸も割れた。

 その場の軍人全員も、耳を押さえたまま蹲って固まってしまった。


 オルキは前足で少佐の頭を小突いて地面に倒し、腹の上に置いた前足に体重をかけていく。


「愚かで弱い貴様が捕えようとしたのは、貴様らが見捨てたフェイン王国の出身者だ。こんな愚図共のためにレノン軍に加勢したとは」


 これが一般市民だったなら、間違いなく射殺されている。オルキの言いようは間違いなく無礼だ。

 ただ、そんなオルキの思いは、最後のケヴィンに対する言葉に現れていた。イングスにもそれはしっかりと伝わっている。


「オルキが怒る時は、いつも悪者のせいで誰かが悲しむ時なんだよ。君達は悪い人間なのかな」


 悪人と言われ、何人かが気まずそうに下を向いた。

 無抵抗だった者達に威張り倒し、気に入らないから拘束する。それは自分達が憎んでいた連合軍の横暴と何ら変わりないからだ。


「どうせ大した実力もないくせに、無駄に戦いに慣れてしまった結果であろう。勝つ気もないが負けるのは怖い。何かをしているフリをして引き延ばし、あわよくば勝手に敵が引いて助かる事が出来ないかと、違うか」

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