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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
世界とのギャップ

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オルキ国の刑法



「こんなに大量の文字を打って、1文字たりとも間違えないなんて……人類史上初めてではないかと」


「分かってはいたが、優秀過ぎるよな。癖も思い込みもないから、ホントに見たままを打っていくし」


「人間の事は人間で確認してくれなくちゃ。人形類史上初めてではないのなら、僕には関係がないよ」


「ああ、そうでした。あなたはお人形だったわね。もちろん、世界初の偉業よ」


「そうなんだね」


 以前から皆で法律についての話し合いはしていた。そのため、基本となる案は既にあった。そして、議員のおかげで憲法、民法、行政法などの基本条文は整った。


 問題はここからだ。


「オルキ国王。その、刑法が他国と比べてかなり厳しいと思いますよ」


「そうか? かなり手緩いと思える程まで譲歩したのだが」


「わ、我々軍人の規律や、理不尽な上官の言いつけよりも厳しいと思います」


「ならば、悪事を働かねば良いであろう。善人にとって何も問題はない」


 オルキの方針をそのまま反映させると、例えばこうなってしまう。


 ・盗みを行った者は、死刑とする

 ・詐欺を行った者は、死刑とする

 ・他人に暴行を加えた者は、死刑とする

 ・国の秩序を乱す者は、死刑とする

 ・人を殺した者は、死刑とする

 ・法に反した者は、死刑とする


 つまり、悪い事をしたら死刑。死刑しかないのだ。

 あまりにも極端で、現実的ではない。


「死刑がある国は勿論存在しますし、それを我々が批判できる立場にはありません」


「そうだろうな」


「国という単位で分かれている以上、他国の方針にとやかく言って世界を均一にはできません。それならば国という存在は必要ありませんから」


「吾輩もそう思う」


「ですが、刑罰を与えるにしても、やはりこれでは極端で、それでいて厳し過ぎますね」


「なんだと?」


「ほーら、言っただろ」


 フューサが溜息をつく。オルキには皆が前々から刑が厳し過ぎると指摘していたのに、本人ならぬ本猫はまったくそう思っていなかった。


 こうして他国の第三者から指摘され、意外だと言わんばかりに驚いた表情だ。


「何事にも例外や行為に至った事情というものがあります」


「例えば」


「自分の持ち物と他人の持ち物が全く同じで、間違えて持って行ってしまった時。数を数えたつもりが、間違えて1つ多く受け取っていた時」


「なるほど」


「誰かを守るために反撃した時の暴力は」


「なるほど、そうだな」


 オルキは悪事にも色々あると理解し、しばし考え込む。そして、イングスに指示をし、素案を次のように書き直させた。


 ・故意に盗みを行った者は、死刑とする

 ・故意に詐欺を行った者は、死刑とする

 ・正当な理由なく他人に暴行を加えた者は、死刑とする

 ・国の秩序を乱す行為は、死刑とする

 ・法に反した者は、おおむね死刑とする

 ・死刑執行以外で人を殺した者は、死刑とする


 懲役や罰金などの概念がないのだろう。何とも獣界らしい考えだ。だがこれでももちろん極端で、ほぼ全てが各国における最大刑に匹敵する。


「あの、もう少し刑罰に幅を持たせるべきだと思いますが」


「なんだ、これでもまだ不満か」


「事情には考慮されていますが、刑罰の中身がですね。もう少し柔軟に、それぞれのケースに合った量刑が必要かと」


「幅……」


 オルキの悩みを汲み取り、イングスがまた修正案に修正を加える。


「い、イングスさん? 何を書いているのです?」


「刑罰に幅が必要なら、全殺し、4分の3殺し、半殺し、7分の3殺しから選べばいいんだね」


「腕だけ喰らう場合を7分の3殺しとしよう。案ずるでないぞ、吾輩は頭部は好かぬのでな、残してやる」


「いや、そういう……事ではなくてですね」


「オルキ国王。例えばですが、懲役……つまり刑務所に入れ、労働で償わせるという方法もあります」


「働かねばならぬのは、善人が生きていく場合も同じであろう」


「まー、そうなんですが。拒否権がないというか」


「島で生きていくのなら、それぞれの役目を拒否など出来ぬではないか」


「ん~……! どうすれば伝わるんだろう!」


 オルキにはどうしても強制労働や懲役という概念がなく、伝わらない。このままではオルキ国の刑罰が死刑か四肢の欠損しかなくなってしまう。


「刑罰には、被害者への謝罪、償い、見せしめなどの意味もあるのです。罰を受けるだけでは被害者が損をするだけです」


「とはいえ、人間は償いとして悪人の腕など与えられても喰わぬだろう」


「一度、死刑や7分の3殺しから離れていただけますか」


「島長、なるべく自分が悪人を喰えるように喰えるように考えてるだろ。どうせ指だけでもとか、ふくらはぎだけでもとか」


「吾輩の生き甲斐だからな」


「指だけだと1000分の5殺しくらいだね」


「じゃなくてさ。人殺しと嘘つきが同じ刑だとまずいんだよ。どうせ同じ死刑なら嘘ついて暴行して人を殺した方がマシなんて考える奴も……って、何? どうした?」


 オルキは黙っていれば可愛い姿で、目を真ん丸に見開いて口を半開きにし、今日一番の驚いた表情を見せる。


「人間はそんなにも愚かなのか」


「いや、そこ? まあ、悪人が愚かなのはそもそもの話だろ」


「ふむ、それはそうだな」


 ここにきて、一番悩む法律が刑法だと思わなかった面々は、どうすれば伝わるのかと頭を抱える。オルキの中で「悪人は食べていいもの、食べるもの」という認識があるせいで、これでは善人まで逃げてしまいそうだ。


「アイザスでは、例えば他人に暴力を振るった場合、禁固5年未満の刑になります。量刑は刑事訴訟法に則って裁判が開かれ、そこで決まります」


「裁判? 何だそれは。詳しく教えてくれぬか」


 裁判とは何かを教えられ、オルキの目がキラリと光る。良くない事を言い出す前兆だ。


「吾輩が裁判長となり、全員を死刑にしてすぐ喰らってやろう」


「それでは被害者の気持ちや国の名誉は回復しません。軽微な犯罪なら、悔い改め善人になるチャンスを与えます。これとは別に、民事訴訟法というものがあり、被害者への補償はそちらの裁判で」


 人間が人間を裁く際のルールを聞き、オルキは何度も大きく頷き、感心したようだ。

 そこでオルキは先程の修正案を再々度修正するため、イングスにペンを持たせる。


 ・故意に盗みを行った者は、はりつけの刑、もしくは死刑とする。はりつけの期間は裁判で決める

 ・故意に詐欺を行った者は、はりつけの刑、もしくは死刑とする。はりつけの期間は裁判で決める

 ・正当な理由なく他人に暴行を加えた者は、はりつけの刑、もしくは死刑とする。はりつけの期間は裁判で決める

 ・国の秩序を乱す行為は、はりつけの刑、もしくは死刑とする。はりつけの期間は裁判で決める

 ・法に反した者は、はりつけの刑、もしくは死刑とする。はりつけの期間は裁判で決める

 ・死刑執行以外で故意に人を殺した者は、死刑とする。過失の場合ははりつけの刑、もしくは死刑とする。はりつけの期間は裁判で決める


「民事訴訟法に則った裁判の結果を拒否する者は、国王の命によりどのような手段を使ってでも強制的に賠償させる」


「……被害者への償いの義務を記すのは良い事だと思いますが……相変わらず文面が強いですね」


 その他にも放火、器物の損壊など、数々の罪がある事を学び、アイザスの刑罰を例に、どんどんと条文が増えていく。


「故意か過失かをきちんと検証してから裁判をして下さいね」


「約束しよう」


 加虐的な性分のせいで、反省させるよりも見せしめの要素が濃く出ているが、最初の死刑一択に比べると随分優しくなったものだ。

 禁固刑、懲役刑などは性に合わず、閉じ込めて飼い慣らすよりも効果的だと主張するオルキに、最後は皆が折れた形となった。


「この国で絶対に悪い事は出来ませんね……あまりにも恐ろしい」


「全裸で何日も磔の刑に処され、多くの人々の前に晒されるなんて」


「馬鹿な行いをしなければ良い」


「頭の良い悪いには個人差がありますよ」


「何を言っておる、馬鹿か賢いかなど問うておらぬぞ。馬鹿であっても堅実に生きておればよい。馬鹿である事だけでは罪にはならぬ。知能が高くても馬鹿な行いをすれば罰を受ける」


 議員も軍人もオルキの発言を聞き、案外公平に物事を見るものだと感心した。ちょっとばかり……いや、極端に悪への対処に容赦がないだけで、オルキはオルキなりに島の秩序と平和、そして各自の権利を考えているようだ。


「悪人の脳みそだけ誰かが取り出してくれれば、不味い顔面や髪など口に含まずともよいものを」


 いや、やはり自分の食い意地しか考えていないのではないか。

 アイザスの面々の感想は、まるでオルキ国の刑罰の量刑の幅のように大きく上下していた。

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