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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
オルキ諸島という国

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ノイジーマイノリティ


 殆どがアリヤの功績とはいえ、アイザスの大統領から好意的な返事を貰うことが出来た。後はアイザスの役人のオルキ諸島訪問を調整しなけれなばならない。


「皆さま、今日は迎賓館を開けますので、そちらに宿泊なさって下さい。何もお構いできませんが、友好の意と受け取っていただければ」


「感謝する、国民に代わって礼を言おう」


「それでは、私はこれから臨時議会を招集して、オルキ国への派遣準備をいたします」


「ドイル大統領! 有難うございました! 突然の訪問にもかかわらずお忙しい中お話を聞いて下さって、心より感謝を申し上げます!」


 アリヤが深々と頭を下げる。そんなアリヤの姿に、大統領の目は思わず優しく細められる。


「ふふっ、もどはヴァンちゃんて呼ばってけんだってのに。おいもいづのこまにばくされになっつまってなあ。後でセイスフランナに電話さ掛けてみっぺ?」


 大統領はニッコリと微笑み、秘書と共に部屋を出て行く。廊下ではまた大統領の声が響き、その声がだんだんと小さくなっていく。


 迎賓館の準備が出来るまで、またしばらく待機だ。


「それにしても、アイザス語ってちょっとジョガル語に似てる気がするんだけど、全然聞き取れないんだよな」


「アイザス語はゼンタ語系で、大枠ではジョガル語と同じ温帯大陸系ですよ。だから似ているんだと思います」


「あ、そっか、アイザス人って元々はゴレイ人だったからアイザス語というよりゴレイ人と同じゼンタ語なのか」


「ジョガル語とゼンタ語じゃ会話は成立しませんけどね」


 アリヤはジョガル語を聞き取れないというから、確かにそうなのだろう。こうなると、全部の言語を理解できるのはイングスだけという事になる。


「……ねえ、イングスは神様が作ったんよね」


「そうだね」


「人間の言葉を理解できるのは、神様のおかげなんだよね」


「そうだね」


「って事は、世界に言語が複数あるのって、神様が意図的にそう誘導したって事?」


「あー、そう言えばそうなるよなあ」


 わざわざズシム語という共通言語を設定させたのなら、どうして最初から言語体系が分かれるような世界にしたのか。皆はふとした疑問に首を傾げる。

 人間が勝手に複数の言語を作り出す事まで想定していたとは思えない。


「……敢えて分けたのか、分かれてしまった事が神の意図せぬものだったから、それを統一させようとズシム語を共通言語とするよう仕向けたのか」


「意図しなかったのなら、わざわざそれを神様が修正しようと学んだの?」


「僕は神がそう作っただけで、神が何を考えていたかなんて分からないよ」


「あの偏屈な変わり者の意図など汲み取ろうと思わぬ。放り出した辺り、意図せぬものだったと考える方が自然だが」


 話題は暇つぶしから、いつの間にかこの世界を捨てた神についての議論に変わっていく。その時、皆は敷地の外が少々騒がしい事に気付いた。


「……何か、うるさくない?」


「何か……叫んでる? アリヤの熱狂的な支持者かも」


「そっ、そんな人はいないと思います、私がアイザスに来たのはこれでやっと3回目ですし」


 暫く耳を澄ましているうちに、オルキの表情が明らかに不機嫌なものに変わっていく。イングスの膝の上からすくっと立ち上がって床に下り、器用に部屋の扉を開けた。


「島長?」


「どうやら、全員が我々を歓迎しているわけでもないようだ」


 アイザス語ではよく聞き取れないものの、ズシム語と共通する単語から推測するに、オルキ国との国交樹立反対と叫んでいるようだ。


 アリヤが窓の外を覗き、オルキと同様に顔を顰める。アイザス語の読み書きができる彼女は、表で騒ぐ者達が掲げているプラカードを悲しそうに見つめた。


「アリヤ?」


「……意見が全員一致するなんて事は、どこの国でも珍しい事です。表現や主張は、違法でない限り自由ですし」


「つまり、島長が言った通り、歓迎していない連中が集まって来たって事ね」


「皆、ついて来い。知らぬふりをしても良いが、馬鹿の喚きは短い方がいい」


 オルキを先頭に、皆が大使館の玄関へと向かう。


 園庭を挟んで10メータ先には、柵越しに抗議者が騒いでいる。抗議の声が届いたと知るや否や、その騒がしい声はいっそう大きくなった。


「おがすね者はけえれ!」


「オルキ国反対!」


「ほだごと許すな!」


 人数で言えば、たったの数十人。アリヤ目的で集まった群衆の方が10倍も20倍も多かった。だが、このような抗議者は総じて声が大きい。

 

 ノイジーマイノリティ。

 なぜ反対しているのかも語らないまま、ただ許すな、反対と叫ぶだけだ。アリヤが出てきた事で一瞬怯んだものの、抗議の声は高まる一方。


 オルキがイングスの肩に乗り、面倒くさそうに呟く。


「吾輩はこんな馬鹿共にこうべを垂れなければ国を成せぬのか」


「この人間たちがオルキ国を認めるか認めないかで決まるものなのかい」


「決定権を持たせていい程の知恵はなさそうだがの」


「オルキさん、国民には等しく権利があります。大抵は多数の意見が通りますが、少数を尊重する場合もあります」


「ほう? アリヤから見て、この者達の声は尊重すべきか」


「……事情を伺わなければ判断できませんが、この態度では尊重したいか、したくないかで言うと、したくありません」


「アイザスは革命で国を興したんだったよな。だったら権力っつうか大統領に反抗するとか、外国を疑うとか、そういうのが性分なのかもな」


 革命で成功体験を得てしまったからか、その成功体験が忘れられないのか、それともあまりにも平和で穏やか過ぎて、些細な事でも大騒ぎのネタにしてしまうのか。


 醜い活動とは対照的に、大使館の園庭は手入れが行き届き、とても美しい。庭師の仕事ぶりが優秀である事が伺える。


 森林限界に位置するアイザスには珍しい針葉樹、膝下程にも伸びきらない細い枝に紫の花を咲かせたゼラニウム・シルバティカム、小さな池。本来ならば罵声などとは程遠い空間だ。


 警備隊が門の前に立ち塞がってくれているものの、中に押し入って来たならたちまち荒らされてしまうのだろう。


「人間の皮を被った畜生ではなかろうか。権利だ何だと騒ぐなら人間らしさとやらを吾輩に見せてくれぬかのう」


「僕が知っている人間と、見た目は一緒だけれど違うのかな」


「ああ。少なくともオルキ国の者とは違う。吾輩はこんな馬鹿共が我が国に押し寄せた所で人権は与えぬぞ。生まれて当たり前に持たせてやると思ったら大間違いだ」


 きっとオルキ達の声など届いていない。

 いや、聞こうとする気などそもそもない。言いたい事を言いに来ただけだ。


「おがすね者はけえれ!」


「オルキ国反対!」


 こんな時、穏やかなアリヤとは対照的なソフィアがすぐに言い返す。しかし、今回に限ってはケヴィンの方が早かった。


「うっせーなあ! 弱い犬程良く吠えるって言葉を知らねえか? 知らねえよなあ、そんだけよく吠えてんだから!」


 元軍人、若くて体も鍛えている。となれば、一般人の騒ぐ声とは声量が違う。ケヴィンたった1人の声が数十人を圧倒し、一瞬で静かになった。


 ソフィアが叫んだところで声はかき消される。そう察したケヴィンの機転だった。


「反対? 帰れだと? 市長や大統領が招いて下さったんだ、大統領の判断が間違ってんのか? そう思うなら何か正当な理由があんだよなあ? ん?」


 声量すさまじく反対されるとは思っていなかったのか、抗議者はさっきまでとは打って変わって小声でぼそぼそと何かを言っている。


「聞こえねえよ、さっきまでの騒ぎは何だったんだよ。群れで認識されなけりゃそんなもんか?」


「お、おがすね者は、らずもねえ事さ……」


「あんたは、俺に言ってんだよな? その抗議看板は、オルキ国の人間に見せてんだよな?」


「んだからなんだべ!」


 抗議者が「だから何だ」と言っている事は理解できたようだ。ケヴィンはあからさまなため息をつき、わざと馬鹿にしたように笑う。


「だったら共通言語で喋れよ。外から来た人間にテメエらの意見を伝えたいんだろ? だったらズシム語で言えや、共通語で書けや!」


「そっ……れは」


「どうせ抗議活動自体が目的だろ? 抗議して気持ちよくなりたいんだろ? 国内向けのパフォーマンスだから、自分達しか分からねえ言葉で騒いでんだろ?」


 ケヴィンが予想以上に言い返すものだから、ついにはソフィアも笑い出す。そして声量がない分、端的に言い切った。


「あたしが知る限り、アイザスの国民はこんな恥知らずじゃないし、もっと気高い。あたしには、あんたらがアイザスの代表とはとても思えない」

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