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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
異国の風と異国の言葉。

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おかわり

 

「ガーミッドさん、この方たちはそんな事をしませんよ」


 アリヤまでもがフューサー達を擁護する。しかし、ガーミッドの悲観的思考の歯止めにはならない。


「いや、奴隷を見る目など皆一緒です。極寒の冬には下着1枚で納屋を追い出され、いや下着でも与えてくれるならまだいい方です。寒さと飢えで苦しむ姿をお仕置きだと言っ……」


 ガーミッドのさめざめとした悲観的思考に痺れを切らしたのはソフィアだ。


「つまり、あたし達はそげんさせる極悪非道な人でなしっち言いたいと?」


「そんな事……」


「じゃあ何ち言いたいんねちゃ、ん? 何かちゃ、あたしらが悪いと? そげんがと言うなら好きごとくらしあげちゃるばい?」


 ソフィアが腕組みでふんぞり返り、ガーミッドを睨む。


 よく「雑談すら喧嘩腰に聞こえる」と言われるギタンギュ語を喧嘩腰に放ったなら、相手の反応はお察しだ。

 ガーミッドの顔面はいっそう青白くなってしまった。


「そ、そんなつもりは! そう聞こえたなら申し訳ございません、どのような責め苦を受けようとも覚悟の上です」


「やけんさあ……」


 優しいのではなく、気弱で強く出られないだけ。

 性根が真っすぐで悪い事が出来ないのではなく、物事を悪い方向に考えて抗う気力を勝手に蒸発させているだけ。

 自虐、自己犠牲、消極思考。度胸がなく、反論できないだけ。


 そんなガーミッドの悲観的な考えが、その場の空気を重く沈みこませていく。


「これが演技なら、本物の極悪非道な人でなしだな」


「本物の人形が僕以外にもあるのかな」


「イングス?」


「戻って来たのか」


「僕がおはよう」


 ガーミッドの話に付き合わされていると、イングスが戻ってきた。

 朝になって初めての挨拶はおはようだと教えられた結果はさておき、会話の中で聞こえた人でなし=人ではない。つまり人形だと解釈したらしい。


「人形? ガーミッドさんは人間だよ」


「人でなしって言った。僕も人でなしだから僕と同じ。僕は従順な本物の人でなし」


「……なんか、ややこしい場になったな」


 人でなしを人間ではないと言い換えてしまえば、確かに人形も人間ではない=人でなし。

 イングスの解釈は比喩や暗喩をぶち壊してしまう。


「君も奴隷なのですか? ああ……きっと朝から晩まで使われ続け、あらゆる命令を拒否もせず過ごしているのですね」


「うん」


 イングスは確かな事実に頷く。そしてガーミッドの目から、いっそう光が消えていく。


「ああ、君は奴隷でなくもはや傀儡なのですね……」


「うん」


「うんじゃねえし。ちょっと2人とも落ち着いてくれ」


「僕は傀儡だよ。1人じゃなくて1つか1体だって言った」


「ああ嘆かわしい、もはや人としての権利すら与えられず、物のように扱われ……」


「人としての権利は人が使ったらいいよ。僕は……」


「あーっもう! 黙れ、いいな?」


 人として扱われない地位を覚悟するガーミッドと、人形である以上人扱いされていない事に何の疑問も不満もないイングス。

 何も噛み合わず、何の共鳴もない2人に対し、ついにソフィアがキレた。


「ちょっと、何なん? あんた奴隷になりたいと?」


「ど、奴隷扱いも覚悟しております」


「イングスの事を奴隷っち思ったん? イングスは本当に人間じゃなくて人形ばい? イングス、首を回して見せてん」


 イライラしたソフィアが、イングスに人形である事を証明させる。「はーい」と言いながら首を270度回したイングスに、ガーミッドは切れ長の目が裂けそうなくらい驚く。


「ほ、本当に人形!? こんな精巧な人形が存在し得るのか、こんな技術がある島を襲うなんて馬鹿げていたんだ……じゃあつまり、奴隷は私だけ……」


 イングスに全く緊張感がないせいか、ガーミッドの悲観がもはや滑稽に思えてくる。

 フューサーがガーミッドにこの島とイングス達の説明をしている間、アリヤはイングスが小屋を離れた目的を思い出した。


「イングスさん、船はありましたか? その、首都の様子は」


「船は2艘ともあったよ。集落は壁みたいな霧が出ていた。脱走者はいなかったよ」


「荒らされたりもしていなかったか?」


「うん」


「首都に逃げたら人に見つかるっち思ったんかもしれんね」


 脱走者の行方は分からない。彼らに分かるのは、この港周辺だけ、それに戦闘艇がある事。


「まさか今朝まで人口3人の島だったなんて、思いもしないだろうな」


「え、3人?」


「ああ。俺、ソフィア、ケヴィン、以上」


「どっでんこいだじゃ……」


「そう言えば3人しかいない事は説明省いちまったか」


 ガーミッドは驚きを隠せない。自分が逆らえないと思っていたジョエル軍は、たった3人の島に敗れたのだから無理もない。


 オルキとイングスの存在は大きい。ただ、そもそもガーミッドには抵抗する意思の欠片たりともなかった。


「死の海域という隔絶された場所、それに島長とイングス、幸運は揃っているけれどね。この島より平穏な場所はどこにもない、だから絶対に守り抜く」


「あたし達にはここしかないけんね。何かあっても他に助けてくれる人はおらん、あたし達の誰か1人でも手を抜いたら、その時点で終わりなんよ」


 図体だけは大柄なガーミッドより、華奢でお世辞にも血色が良いとは言えないソフィアの方が余程強く生きている。

 誰も守ってくれない、誰かがやってくれるだろうでは生きていけない。そんな島の現実は、ガーミッドの心を少しだけ変えた。


「……もっと抗うべきだったかもしれません。私はいつか誰かが救ってくれる事を考え、自分で何とかする事を放棄していました」


「わ、私も! 捕虜にされた時は逆らっても意味がないって思って」


「みんなそうさ。俺達みんな、戦禍を逃れようとしてここに辿り着いたんだから。でもこれ以上の逃げ場はもうないんだよ」


 逃げ場はない。戦闘艇を手に入れはしたが、燃料は大陸に戻れるだけ。島からの脱出手段はただそれ1つ。

 まだオルキ国の建国すら外交的に示せてもいない。人口も僅かだ。


 それでもソフィア達に絶望感はない。かつてはどこにでもあった平穏な田舎暮らしのようなもの。ガーミッド達がまさか人口たった3人とは思いもしなかった程に。


「……奴隷になる覚悟と言いましたが、取り消します」


「ん? 島の生活が怖くなったかい」


「いえ。私を島の警備兵として雇っていただきたいのです」


 ガーミッドが綺麗な動作で頭を下げた。先程までの情けなく頼りない様子はどこにも見当たらない。


「オルキさん次第だけど、俺達から推薦するよ。その前に」


 フューサーはソフィアと頷き合い、アリヤにも視線を送る。


「オルキ国の国民として正式に移住したいという事でいいかい。傭兵だろうが捕虜だろうが、国防を他国の人間に任せるつもりはない」


 今度はガーミッドとアリヤが互いに頷いた。


「ガーミッドさんの事は、私が保証人になります」


「皆さん、宜しくお願いします」


 国防を担うには幾分優し過ぎる国民が1人増えた。数刻が経ち、ケヴィンと戦闘艇の見張りを交代しつつ待っていると、オルキが軽快な足取りで戻ってきた。


「島長、おかえりなさい」


「どうだった? こっちには戻って来てねえけど。絶対に船を取りにくると思ったのに」


「ああ、見つけたがどうやら牛達の怒りを買うような行為をしたようでな。ボロボロになった所を見つけた」


「え、どの辺りだ? 捕まえに行こう」


「その必要はない。川で綺麗に泥を落とし、吾輩の間食とした」


 オルキは食い過ぎたと言って床の上で丸くなる。元の姿に戻るためにはエネルギーが必要だとしても、11人をペロリと平らげたのだからもう十分だろう。


「とりあえず食べて処理、みたいなのはあんまり感心しないんだけど」


「悪人を有効活用する良い手立てではないか。悪人などおらぬ方がいいに決まっておる」



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