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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
異国の風と異国の言葉。

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オルキが島に置き去られた理由


 聞く姿勢を失っていない。そう判断したソフィアは、勘違いの内容を告げた。


「神様があなたをこの島に残した理由。今のあなたのままじゃ、人間からの崇拝なんて絶対にあり得ないからよ。簡単に言うと、誰もついて行きたいと思えない」


「なぜだ」


「人間には心があるから。恐怖や暴力は確かに人を従わせるわ、でも好きにはなれない」


オルキは正しいか否かしか考えていなかった。驚きでまんまるになった目を見る限り、人間の好き嫌いなど考えた事もない。


「尊敬はしない。そしていつしか憎悪を集め、人々が憎しみで1つになるの。それが戦争。あなたはいつか必ず大勢からの憎しみ、そして敵を作る」


 魔獣ともあろう存在が、人間に対して何も言い返せない。魔獣が人に捻じ伏せられている屈辱的な状況。それでもここで感情に任せては恥の上塗りだ。


 ソフィアはなおも続ける。


「最初はイングスに人の醜さを見せたくないからと思ったの。でも、違った。あなただけじゃ何も出来ないから、イングスを置いて行ってくれたんよ」


「……吾輩が神の情けを受けたと言いたいのか」


「現時点ではそうね。あなたはここに成長のため置き去られた。きっと、あなたにとって次の神となる試練ね」


「……」


「とりあえず、怒って見境なく悪者って決めつけて制裁するのはやめて」


 情けを受ける。不甲斐なさを見抜かれる。何よりの屈辱だ。実際に、オルキはイングスを操るまで、猫と大差ない暮らししか出来なかった。


 フューサーとケヴィンが来たのは偶然で、もしかしたら10年も20年も猫として生きなければならなかったかもしれない。


 どんなに偉そうに振舞おうと、猫の前足ではスプーンも持てないし、火を起こす事も不可能。一時的に体を元に戻すには眷属の存在が不可欠。


 イングスや民の存在なくして、オルキの願望は何1つだって叶わない。分かっているつもりで、オルキは1寸たりとも自覚していなかった。


「あたしはまだ何か言った方がいいわけ?」


「……ガーミッドがもしも何かを故意に隠していたなら、その時は容赦せぬからな」


「強情ね、過剰な自信は身を滅ぼすっち伝えたはずなんやけど。自分が悪い時は何て言うのか、イングスは答えられるよね」


 ソフィアはまだ強がるオルキに対し、一番効く手段としてわざわざイングスに質問する。


 感情のないイングスでも、状況を判断し言葉を操れる。ソフィアはそう伝えたかったのだが、イングスが発したのは予想外のものだった。


「まんずめやぐだじゃ」


「……えっ?」


「まんずめやぐだじゃ」


 イングスが口にしたのは、ジョガル語での謝罪。


「ぷっ、ちょっとイングス、なしジョガル語なん? ズシム語じゃないのは……あー、そういう事か。今の言葉は島長の言葉ね」


 イングスに教えられるのはプライドが許さない。かと言って望まれた言葉で素直に謝るのも格好がつかない。

 謝らなければそれはそれで、失望させてしまう。本性が知れるというもの。


 そんなオルキの葛藤が、結果としてイングスの言葉をちょっぴり捻くれた表現に変化させたのだ。


「吾輩が人に諭され素直に従うのは気に入らん」


「どうせ僕に言わせるなら、ごめんなさいで良かったんじゃないかな」


「言いたければ言えばよかったであろう」


「君が僕に言わせたんでしょ」


 オルキの怒りは人に対してではなく、自分の不甲斐なさに対するものに変わっていた。高過ぎたプライドは、猫の低い鼻にお似合いな程までへし折られたようだ。


「まあ、それで良しとしましょう」


 ソフィアは悩みながら、女に「もう大丈夫」と言って座らせる。


 しばらくして、イングスがおもむろに立ち上がって木片を手に持つ。そして消えつつある焚火を再び燃え上がらせた。


「イングス、どうして焚火を?」


「オルキが望んだからね」


 イングスは良くも悪くもオルキの意思に従う。オルキが礼節を重んじるなら、その気持ちはイングスの行動に現れる。


「……今はイングスの手を借りなければならぬが、詫びの代わりにせめて暖まると良い」


「あ、ありがとう……」


 女がようやく言葉を発した。しばらく沈黙が続き、海上には見慣れた霧が発生し始める。また朝の草原は露に濡れるのだろう。


「島長、その……転がってる頭、どうするの」


「どうもせぬが」


「せめて場所を決めて埋めない? さすがにちょっと」


「おーい」


「ケヴィンの声だわ」


 茂みの中からケヴィンが戻ってきた。続いてフューサーも現れる。

 その背後には追っていた2人がいない。


「追っていた2人はどうした」


「悪い、暴れられてまた逃げられたんだ。追いかけたんだけど、東の崖から海に飛び込んだ」


「夜の海に!? しかも服を着たまま泳げるとは思えんけど」


「ああ、オルキ諸島は北と南の海流が合流する場所。複雑で冷たい海に浮かんでいるからな。すぐ陸へ上がろうにも崖ばかりで休憩がせいぜいだ」


「半日で地理を把握するのは無理だし、陸に上がれるとは思わない。深追いは諦めた」


「そうか、ご苦労だった。こっちに来て暖まると良い」


 ケヴィンとフューサーは驚いて顔を見合わせる。


「し、島長?」


「どうした」


「島長が、俺達を労った」


 相手を認める事はあれど、感謝したり労いの言葉をかける事はなかった。

 人の上に君臨する存在として振舞っていたオルキは、自身がどのように見られていたかを思い知り、恥ずかしさでイングスの陰で丸くなる。


「島長は神さまのタマゴってわけ。まだまだこれから振舞いを覚えていく途中。人数も少ない方が練習にもいいやろうし」


「うるさい。吾輩は貴様の説教で少々堪えておるのだ」


 オルキの変わりように、今度はソフィアも目をまんまるにする。

 ソフィアが足元に気を付けてと言いながら手招きして、ようやくケヴィンとフューサーは周囲の様子に気が付いた。


「うおあぁぁああ!? あ、ああああ頭、あたっ……うぼぇっ」


「うおあぁー! しし、しま、島長これ、これ」


「吾輩、頭部は不味くて好か……」


「うううぅおぉぉえっ、うおぇっ、ううぅーぼえっ」


「うるさいぞケヴィン、頭くらい貴様にもついておろうが」


「そういう、問題じゃ……」


「あっ、危ない!」


 ケヴィンが吐き気と急激な血圧の上下で失神し倒れ込む。咄嗟に動いたのは助けた女だった。

 フューサーが慌てて駆け寄り、そしてまた驚く。


「うわっ、あ、え? 誰!?」


 女の存在に、今の今まで気が付かなかったらしい。

 確かに肌は黒く、髪も黒いが……服は迷彩で、成程目立たない。


「わたしはアリヤです、あの」


「侵入者達が襲った船から連れてきたと」


「っつう事は、レノンの人?」


「あ、えっと、セイスフランナです」


 アリヤは自身がこの島に来た経緯を話し始めた。


 セイスフランナは赤道直下の大国であり、ヒーゴ島から8000km程も南東に位置する。内海と呼ばれる海域に面したジョエル連邦やギャロン帝国からは最も遠い。


 ガーデ・オースタンの北の海を進めば和平軍の攻撃を避けられず、かといって南方に回れば砂漠の大地を回り込むため、補給のために寄港できる町もない。


 しかしながら、連合軍側からはどうしても押さえ、拠点にしたい場所。その情報が回りはじめた事でセイスフランナから脱出を図る者が増えた。


 そのうちの1隻が、アリヤの乗っていた難民船だった。

 ノバム島で補給をし、ヒーゴ島から東に3000km程離れたアイザスという島国へ向かう予定だったが、運悪くガーミッドらの船に見つかってしまった。


「なぜ貴様だけが捕らわれた。他にも大勢乗っていたであろう」


「……」


「島長、尋問はやめてやってくれないか。どんな状況かを思い出すのもキツイ経験をしたと思うから」



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