オルキ国工作員
ギャロン出身者の話が本当なら、ギャロンの上層部は神との繋がりがあった事になる。
もしくは、神が捨てた人形をギャロン軍が拾い、ニーマンのように育てたかだ。
「話が出来過ぎておるの。人間や動物に似せた機械兵を開発し始め、発表時は人間そっくりの完成品を披露か」
「その機械兵はどうなったのですか」
「私も詳しくは。ただ、今は機械兵の話など全く聞きません。父も母も7年前に虚偽の罪を着せられ……もう処刑されたと思います」
「機械兵というのは、本当に開発されていたのだろうな」
「サリーさん、当時の事が分かる人はいないんですか」
ギャロン出身のサリーは、あくまでも連合軍として来た結果、オルキの慈悲で生き永らえる事が出来ただけ。移民の準備をして来たわけでもなく、当然亡命ではないから極秘情報を持ち出してもいない。
自身の話を裏付けるものを何も持っていない。
戦艦の中にも機械兵に繋がる資料は残されておらず、あと数名のギャロン出身者が「確かに聞いた事はある」と同意する事に頼るのみ。
「機械兵が開発されていた話は、レノン国民の私らも聞いております。それが嘘だったかどうかは確かめる術がありません。ただ、戦争初期に投入されると噂もされていました」
「この場で咄嗟につける嘘ではない、という事か」
サリーが小刻みに頷く。一度恐怖を味わっているせいで、オルキの前では委縮してしまうのも仕方がない。
「ギャロン国民の中には、実際に大統領の隣に立っていた機械兵を見た人も大勢います」
「それは本当に機械兵だったのか? 人間が人形のフリをしていただけじゃ」
「それは……私達には実際にどんな状況だったのかが分からないので」
当時2歳の子供だった者、そもそも伝聞だけで見ていない者に、どれだけ問いかけた所で何の意味もない。ギャロン軍と神に対する疑惑が深まるばかりで、このオルキ国に新情報をもたらすには、こちらから動く以外に方法がない。
「あー、あのさあ。私がパパに聞いてあげよっか」
「え?」
突然話を切り出したのはトリスだった。
「パパの不動産事業は戦争中でも連合軍側とやり取りしてるからさ。人間そっくりの機械人形なら、あっちの金持ちが絶対欲しがったはず。技術が国家機密なら国外には出さなくとも、1人くらいマジで持ってる奴いるかも」
「金持ちって、俺達庶民には到底想像も出来ない情報網持ってるもんな。見ている世界が違うっつうか」
「そう言う事! 私の事、散々言ってくれたけどさ、親の金しか能のないバカ女じゃないってとこ、見せてあげる」
「って、パパの力じゃねえか」
「何言ってんの? 私は娘って立場を利用してパパを使えるんだよ。あんた達がパパに指示出せるわけ? 私はこの状況で私しか出来ない事をやってあげるっつってんの」
情報網はトリスでも使えるだろう。ただ、トリスの父親は金と権力の世界に関してその比ではない程深く、表に出せない闇を知っていると思われる。
それをオルキ達が知るには、トリスの協力が必須だ。
「でも、どうするのでしょう。トリスさんのお父様にギャロン軍の機械兵作戦の真相を教えて下さいと素直に言えるわけでもないですし」
「王女様、素直で正直なだけじゃ渡っていけないのよ世の中って。私の作戦聞く?」
「……とんでもねえ作戦じゃないだろうな」
「いいんだよ別に、私は協力しなくても。オルキ国がこんな事探ってましたなんて言いふらすつもりはないけど、味方になってあげなきゃいけない理由もまだないし」
トリスはいつの間にかふんぞり返って座り、この島でようやく味わう上の立場を存分に見せつける。
この島がどんな島で、行動次第でどんな扱いが待っているか知った上で、この態度だ。
親の金しか能のない小娘ではなく、それなりに度胸と交渉力を備えた有能な面もある事が伺える。
「まだないのなら、味方になってあげなきゃいけない理由が出来るんだね」
「ん? そうね。今は理由がないけど」
「しばらく待てばいいのかな」
「ちょっと違うな―。私が何のためにこの島に来たか、忘れた訳じゃないでしょ」
「協力する代わりに……シルトンホテルを建てさせろ、って事?」
トリスは察しのいいイングスの頭を撫でた後、ちゃんと意図を汲み取ったソフィアに不敵な笑みを浮かべる。
「どこよりも優先的に、出来れば独占的に、他が羨んでも到底手に入らない最高の立地で」
「……吾輩の国だ。この国にそぐわぬ物は何を言われようが金を積まれようが認めぬ」
「フン、決まりだね。大丈夫、煌びやかで豪華で贅沢で高級なだけが魅力じゃないって分かったから」
「ならば貴様にはオルキ国から何らかの肩書でも与えた方が良いだろう。他国に対して優越権があるのだと知らしめた方が牽制も出来る」
「それはパパから情報貰ってからがいいね。オルキ国ってさ、連合軍と対立してるんでしょ? 私がオルキ国側になった後だと、パパの動きを怪しまれる」
金と地位を見せびらかし、横柄で愚かな女として振舞っていた初日の様子はどこへやら。頭は冴えているようで、次から次へと案が出てくる。
「金持ち仲間に人形持ってる奴がいるって言ったよね。まあ不気味だしだいぶ古くなってるけど、子供に恵まれなかったとか死んだ娘に似せたとか、色んな理由で大事にしてる金持ちもいるわけ」
「……お嬢様、それでしたら我々が動きましょう。お嬢様が動くと目立ち過ぎます」
「あー、ベスティン家とかはあんた達の方がいいかもね。あっちにいる昔パパの護衛だった人、仲いいでしょ」
「はい。人形をメンテナンスに出したいが、製造元がギャロンで、しかも製造もメンテナンスも受け付けていないと嘆いてる話は聞いています」
「ほーら、繋がった」
トリスは自慢気に笑い、オルキ国に悪いようにはしないから任せろと言って足を組む。
不安は大きいが、政界にも財界にも連合国側との人脈がないオルキ国は、トリス以外に頼れる者がいない。
「万が一計画が暴かれ危ない目に遭いそうになったなら、オルキ国へ来い。吾輩は国民だけでなく、我が国の為に動く者への責任がある」
「カッコいいじゃん、国王様。私そういうの好きよ。じゃ、明後日の定期便で一度帰るけど、また進展があったら連絡するか、ここまで来るから。安心して、ホテルの件は成功報酬でいい」
思いがけず頼りになる味方が出来た。ソフィアは密かにトリスを探ってみたが、案外寂しく悲しい幼少期を過ごしていた事以外、裏と言える素顔は何もなかった。
オルキも警戒していない。これはオルキにとって人間を信用するかしないかの実験でもある。
「オルキ王、私からも提案があります」
次に意を決して手を上げたのはサリーだ。他に2名のギャロン出身者も隣にいる。
「トリスさんとは別の切り口も必要でしょう。私達をギャロンに送り込んで下さい」
「何だと?」
「軍の事を知りたいなら、軍人が一番です」
サリーは自信ありげだが、ギャロンに帰したらそのまま戻って来ない可能性もある。オルキも皆も、案の定難色を示した。
「それって、ギャロンに逃げるつもりじゃないよね」
「そう言われるのは百も承知です。そうとしか見えないでしょう。だからいいのです」
「……話せ」
「私達3人はオルキ国から生還した貴重な証言者となれます」
「? どういう事だ」
「オルキ国の弱みを握りたいギャロン軍は、元軍人である我々から情報を聞き出します。今この瞬間も、知りたくてウズウズしている事でしょう」
「そりゃあ、そうだけど……あんたらがオルキ国に戻ってくる保証はないだろ」
「定期船はレノン行きだ。ギャロンどころかジョエルにも行かないぞ」
サリーの作戦は、ギャロンに堂々と逃げる宣言にしか聞こえない。
「フューサーさん、ケヴィンさん。あなた達はレノン軍人でしたね。レノン国内では私達の保証人になれるはずです」
「まあ、元ギャロン人だと警戒はされるだろうな」
「だからレノン国内はお2人と行動します。そして、私達3人はお2人の目を盗んでジョエル連邦との国境を越え、匿ってもらいます」
「それ、安全に逃げてるのと一緒じゃん」
「島長が一緒だったらどうでしょうか」
「えっ」
「猫の姿なら、1度ジョエルで暴れたからと言って、同じだと気付かないし警戒もされません。本当はイングスさんも一緒だと嬉しいのですが、安全にギャロンまで辿り着いて貰える方法が思い浮かばなくて」
「……方法はどうにでもなる。イングス、やれるか」
皆の目がイングスへと向けられる。
イングスは特に表情を変えることなく、いつもの調子で「はーい」と返事をした。




