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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
発展の妨げとなる者たち

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Chit-chat-05 イングスと不思議な機械

 



 * * * * * * * * *




 連合国による攻撃を受け、オルキ国の建物や畑には甚大な被害が及んだ。


 ただでさえ木々も僅かな島なのに、木造の家々は半数以上が消失。オルキはそろそろ社会主義的な国家から資本主義国家への転向を考えていたところだったが、そんな事を言っていられなくなった。

 オルキは連合軍の戦艦に積まれていた数百人分の金品や、船長室にあった高価な調度品などを売り払って木材や金具を購入し、使えそうなものは各戸に平等に分け与えた。


 イングスとニーマンという規格外の人形達が休みなく働き、3週間で首都に住む者の家はおおよそ建設が終わった。元は建築仕事をしていたという者が予め寸法を測って必要な数を割り出し、予めカットされた板や鋼材をその場で組むだけにしてくれたおかげでもある。


 今までの家屋は設計図などなく、見様見真似で建てられたもの。おまけに廃材を活用したりで、どうしても気密性の低い造りにならざるを得なかった。新築の家々は断熱材が使われ、ガラス窓も設けられた。

 もう跳ね上げ式の木板の窓ではなく、近代的な大陸の家々と遜色がない。


 それを連合軍に破壊されたお陰と言う者は誰もいない。しかし、結果としてそれが糧となりオルキ国は発展したと言える。


「霧の絨毯が海に流れていったけん、そろそろ雲の切れ間から青空が見えそうね」


「そうなんだね」


「やっぱり芝屋根は青空の下で見ていたいじゃない。さて、芝はあたし達で張り替えるよ」


「僕は何をしたらいい?」


「港に物が届く頃だから、ガーミッドさん達が先に向かっていますよ。イングス君もそちらでお手伝いして差し上げたらどうでしょう」


「はーい」


 霧に覆われた中で屋根に上るのは危ない。霧が晴れたら住民は誰の家かに関係なく皆で建て、壁を塗り、芝を張り、家具を搬入する。

 どうせ冬の間に出来る事は少ない。生活費を稼ぐための仕事も、今のところは必要がない。幸か不幸か、島民の10倍の人数の連合軍兵士が置いて行った物資で十分食いつなげる。


 そのため、島民は急ピッチで集落の再建に取り掛かる事ができ、今では3週間前の荒廃した様子が嘘のように生まれ変わった状態だ。


 イングスは港までの道を走りきり、港へと到着していた。

 もう定期船が荷物をクレーンで降ろしている所で、必要な物資が最近購入したフォークリフトで倉庫に運ばれていく。


「よう、イングス」


「うん、僕だよ」


「ほら、あれ見ろよ。フェアアイルから中古で購入したんだ」


「そうなんだね」


「あれが何か気にならないのか?」


「僕に気はないよ」


「それもそうか。でも知ろうとするのが大事だと思うぜ。何も知らない人形と、知っている人形、どっちの方が優秀だと思うか?」


 ケヴィンはイングスが理解できるように話すのが上手くなった。

 未だに自然と不自然の違いや言葉の使い方には頭を抱えているものの、面倒見は良い。


 イングスは他人から見ても、島民の中で一番ケヴィンに懐いているように見えた。困った時、オルキ以外の誰に声を掛けるかというと、だいたいがケヴィン、その次がソフィア、フューサーである事が多い。


「知っている人形の方が優れているね」


「だろ? だからそんなもっと優秀になれるイングスのために教えてやろう。あれは締め固め機だ」


「しめかためき」


「他所の国ではロードローラーって呼んでるらしい。あの大きなローラーでアスファルトや土を平らにして圧し固めるのさ」


 島内でアスファルト舗装の道はどこにもない。これから発展していくには整備された道路が必須となる。土嚢を基礎として人力で踏み固められただけの道路も随分と役に立ったが、物の運搬を考えるなら、将来は機械駆動車も走れる島にしたいところ。


 それに、コンクリートとアスファルトで整備するとして、飛行場を作るなら平らな地面は必須だ。ちまちまと人の手でやろうとしても全く進んでいない現状、機械の導入は島民の悲願だった。


「まあ連合軍から慰謝料代わりに貰ったもんを売って有効利用しただけさ。明日から早速アスファルトの道を作る!」


「しめかためき以外にも沢山ある。あれは何?」


「油圧ショベルだよ。あの先についているバケツみたいなスコップで土や岩を掬い上げるんだ」


 イングスが指し示す先にあったのは、自走式の油圧ショベル。キャタピラと長い腕に大きなバケツがついていて、地表より下の掘削に適している。土を掘り返したり均したりには欠かせない。


「あれは」


「高所作業車だ。足場を組む程高い建物もないしな。あのステージが5メータまで上がるのさ」


「あれは」


「ブルドーザーってやつだな」


 島の発展のためと思い切って購入した建設機械を一通り教えて貰うと、イングスはその場でしばらく眺めていた。手伝いに来たはずが、いつのまにか機械に興味を持ったらしい。


 しかし、それらの機械を誰も使おうとしない。


「いつ使うの?」


「明日からかな、燃料もしっかりあるし」


「今日は使わない?」


「そうだな、屋外に置いてても大丈夫な機械だから」


 イングスは表情を変えず、それでも視線を機械達に向けたまま。仕分け作業をしていてもしきりに機械を気にするように振り返るイングスを見て、ケヴィンはやっとイングスが何を考えているのかを理解した。


「おい、イングス! 機械が動くところを見たいんだろ」


「うん」


「じゃあ、イングスがちゃんと自分の思いをハッキリ言わなきゃな。みんなソフィアみたいに察したり出来ねえぞ」


「人形に感情が備わっているのはおかしいでしょ」


「思いを持ってちゃ駄目なのか?」


「置いていいか持っていいか、僕が決める事じゃない」


「じゃあ、俺が決めてやる。お前が持ちたいなら持っていいし、置きたい時は置いていい」


 自分で決めるのはまだまだ苦手だが、自分にとってどちらをするべきかに置き換えると、幾分決断までの時間が早くなる。今日は決断まで20秒かからなかった。


 ただ、決断した結果、何を言うのか見当も付かないのがイングスだ。


「持ちたい。どこにあるかな」


「え?」


「思いを持ちたいけど、見当たらない」


「……持つって、物理的な意味じゃないんだけど。うーん、どうやって説明したらいいんだ」


 また唐突なイングスへの言語学習の時間が始まってしまった。的確でないとイングスは余計に質問をしてくるため、あまり適当な事も言えない。


「えっと……あのさ、人間の場合なんだけどさ、持ちたい時はもう持ってるんだよ。見えないけど、感心っつうか興味っつうか。イングスは機械が動いている所を見たいって思ったよな」


「うん」


「それはもう持ってるって事」


 イングスは自身の両手を見つめる。何も持っていないのは明らかで、人間であるケヴィンも持っていない。


「親切な人は、親切な心を持っているって言う。それは親切な心が備わっているとも言える」


「僕は機械が動くところ見たいから、機械が動くところが見たい心が備わっているんだね」


「今はそうだな」


「分かったのか、分かっていないのか、分からないや」


「それでいいさ。見たいんだろ?」


「うん」


「じゃ、ちょっと動かしてもらおうぜ。実は俺も高所作業車の作業床に乗った事なくてさ。おーい! おっちゃんちょっと機械動かしてくれねえかな!」


 ケヴィンが1人の男を呼び止め、それぞれを動かして欲しいと頼み込む。イングスよりも楽しそうなケヴィンと一緒に作業床に乗って地上5メータまで垂直に上がりながら、イングスは自身について考えていた。


「どうした?」


「機械は誰かに動かしてもらう。生き物は自分で動く。人形は……僕は今、誰かに動かしてもらっているのかな、それとも、自分で動いているのかな」


「どっちだったらいいと思うか?」


 どちらであるべきか。


 今までなら機械のように命令に従順な存在であるべきだと言えた。

 けれど、今は即答できない。

 目の前に困った人間がいたとして、命令がなければ何もしない人形ではなくなってしまった。


「ニーマンに聞いてみる」


「解決しようと行動できるなら、答えはもう決まってるようなもんだけどな」


 高所作業車の作業床が設定通りの高さでピタリと止まった。操作すればその通りに動き、決して逆らわない。まるでかつてのイングスのように。


「不思議だ。君もいつか、勝手に走り回るのかい」


 イングスがポツリとつぶやいた言葉は、定期船に手を振るケヴィンの耳には届かなかった。

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