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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
発展の妨げとなる者たち

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オルキのための決断

 


 何にも動じない、銃でさえも通用しない最強最凶の少年。

 目の前にいるのがその噂の人物だと気付き、1人だけ立派な白い制服を着た船長らしき男は両手を上げ降参を示した。


「君には敵わない。我々は降参し、撤退する」


 先月の大艦隊ではかろうじて1隻だけ解放され、祖国に帰る事ができた。生きて帰る事が出来たのは抵抗せず攻撃行動もしなかったごく一部の者だ。


 それを知っていたからか、煙が視界を徐々に曇らせていく中で船長達は武器を構えず服従を示す。ただ、イングスにとってそんな事はどうでもいい。


 生きて帰す者を選んだのはオルキ達であり、イングスは誰がどうなろうと気にしていない。

 襲ってくるなら排除するし、邪魔なら排除する。

 オルキ国の為にならない者は排除。それだけだ。


「したがって、我々は直ちに本国へ帰還する」


「君達が決める事じゃないよ」


 イングスの短い答えに全員が押し黙り、咳き込む者の声だけが響く。


「君達は何をしに来たのかい、って僕は聞いているのだけれど。この船の誰も答えないね」


「……」


「ここはオルキ国の領海だよ。君達が今からどうしたいかは関係ない」


 返答次第では誰も生きて帰れない可能性もある。皆が船長へと目を向ける中、船長は覚悟を決めて目的を告げた。


「我々は……連合軍の指令で、オルキ国を占領しに来た」


「そうなんだね」


「……」


「……」


 イングスがそっけなく返事をし、会話が途切れた。


 火事を告げるアナウンスが響く艦内に、駄目だ、もう無理だと叫ぶ船員の声が重なる。操舵室の窓の外には、火柱と黒煙を上げ甲板が火の海になった空母が見える。

 この船も間もなく同じ状況に陥るだろう。そうすれば帰還などまず無理だ。


 だが、この少年はどうするつもりなのか。一緒に焼け落ちる気はないはず。きっと助けが来ると思い、船長は帽子を取ってイングスに頭を下げ、命乞いを始めた。


「空母が焼け、残る1隻に移る手段ももう限られている。我々を捕虜として島に連れて行ってくれないか」


「僕が決める事じゃないよ」


「では、誰に決断権がある」


「オルキ」


「国王、か。国王の帰還を待つ間に、この船は沈むか焼け落ちてしまう」


「そうなんだね」


「頼む。島ではおとなしく牢に入り、誰の迷惑にもならない、食事も要らない」


 イングスのもう少しで微笑むのか、それとも歯を剥き出しにして怒りを見せるのか分からない表情は、船長から更なる条件を引き出していく。

 敵国と言えど、部下の命を任せられた船長だ。兵士達を守るため様々な条件を口にする。


 それでもイングスは「僕が決める事じゃない」を繰り返すだけだ。


「私はこの船に残る。だから部下だけは助けて欲しい」


「島を破壊しておいて、助けてくださいはないでしょ」


「罰は私が受ける。私の命を持って、責任を取る」


「それで島が元に戻るのかい」


「……」


「君の命は、島の元の姿と同じ価値があるのかい」


 イングスの残酷な問いに、もう駄目だという空気が漂い始めた。とうとう操舵室の壁に火が移り、もう時間の猶予がない。


「我々が悪い事は百も承知だ。罰せられることは覚悟している。ただ、オルキ王に我々の処遇を判断してもらう事は出来ないだろうか」


「オルキ国の誰か1人でも怪我したり、死んでいたなら、きっとオルキは君達を許しはしないよ」


「それでもどうか」


 船長のダメ元の頼みに、イングスが再度「僕が決める事じゃない」と告げる。全員がならば死ぬ気で抵抗しイングスを殺すのみと武器を構えた時、イングスはやっと表情を変え「あっ」と何かを思いついた。


「そうだね、それはオルキが喜ぶね」


 イングスはそう言うや否や、全員に甲板へ出るよう命じる。そして船長には陸地までなるべく近づくよう指示を出した。


 突然気が変わった理由は告げられなくとも迷っている暇はない。船長はイングスに監視される中、戦艦をヒーゴ島へと発進させる。出力が上がらないのは、もう船員が持ち場を離れたのか、それともエンジンが炎に焼かれてしまったのか。


 なんとか戦艦は動きだし、1人乗りの漁船程の低速でゆっくりと島へ向かう。

 やがてイングスがもういいよと言う距離まで差し掛かった時、甲板では兵士達が白い旗を振って必死に降参の意思表示をしていた所だった。


 船長は船の動力を停止し、イングスに従って操舵室を出た。


「……どうして、我々を助ける気になったのか」


「助ける?」


「島への上陸を手伝ってくれるのでは」


「そうだね」


「なぜだい」


「オルキが喜ぶから」


 どうにもイングスの言葉では要領を得ない。王として判断を下す事が統治欲を掻き立てるという意味なのか、それとも捕虜の数が戦勝を物語るからなのか。捕虜に労働をさせ島を発展させる気なのか。


 船長は非常ベルがけたたましく響き煙が充満する通路を歩きながら、再度何故喜ぶのかと尋ねた。


 イングスの答えは、少し考えたなら成程、それはそうだと納得できるものだった。


「みんな連れて行ったらオルキがお腹いっぱい食べられるでしょ」





 * * * * * * * * *





「だーっ! 何人来るんすか! あれ誰すか、小舟に投げてんのイングス君すか」


「沈没し始めてる空母から小型艇が出て来たと思ったら、そのままもう1隻に移って操舵室に入って……あれニーマンさんですよね。だからやっぱりイングスさんかと」


「え、無傷の戦艦、あれひょっとして港に向かってます?」


「って事は、また戦艦が1隻増えるって事!? 人口50人もいない島に軍艦が3隻ってどういう事?」


「とりあえず砲撃は止まったみたいだし、ケヴィン君が動かしていた戦艦も戻ってきましたし……」


 残された数隻の救命ボートが無事な1隻へとの間を何度も往復している。甲板から2階層下がった非常口から、何人もの兵士が飛び降りて乗り込む姿が確認できた。


「イングスが何で助けちゃりよるんか分からんけど、あたしは島をこげんされて、家も壊されて、大勢怪我して……島民として迎えちゃるとか絶対無理ばい。誰が賛成しようがあたしは認めんけ」


「俺も反対です。まあ、島長も許すとは思えませんが。さあ、肩を貸しますから」


「すまねえ、多分足は駄目だ、折れてんのか自分でも分かんねえくらい感覚がない」


「ベティさんの目、失明してなかったらいいんだけど……」


「おいアドバン、足も腕も真っ青だぞ。折れているんじゃないのか」


「見た目ちょっとエグいだけすね、痛くねえし動くす」


 オルキ国側も満身創痍。辛うじて皆五体満足ではあったが、怪我人の中には具合の良くない者もいる。こんな状況をもしオルキに見せたなら、オルキは連合国を滅ぼしに行くといいかねない。


 何より、情けをかけ捕虜の帰郷を許したせいで第二陣が来たと考えたなら、人間の愚かさに絶望してしまうかもしれない。皆はそれを何より恐れていた。


「戦艦が港に着いた! ようけ乗っとるようじゃけえ、皆加勢しんさい」


「あたし、絶対反対やけんね」


「誰も島民として迎える気はないでしょう。あくまでも捕虜として連れ帰っただけです」


 数百名が船から降ろされ、全員後ろ手に縛られる事となった。

 人間は早々に手が疲れてしまったが、イングスとニーマンは手際良く縛り続ける。最後に船長を立たせた後、オルキ国の者達は全員を睨みつけ、家も家財道具も商売道具も、畑も農具も何もかもを失った恨みをぶつけた。


 特にソフィアは納得がいっていないようだ。


「イングス、どういうつもり? こいつらに家も道具も何もかも直させるっち事? あたしは嫌。こんな奴らの手を借りて暮らしを再建なんて絶対お断りやけね」


「オルキが喜ぶから連れて来たんだよ」


「島長が喜ぶ?」


「オルキ王が何で喜ぶんすか、別に捕虜とか欲しがってなかったすよね」


 島民は不満そうだが、イングスは今度こそ微笑みそうな笑顔で答えた。


「これだけ悪人がいっぱい揃ってたら食べ放題でしょ。オルキはちゃんと喜ぶよ」

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