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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
異国の風と異国の言葉。

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訳アリ魔女の昔話を




「あたし、人の身体の中の色が見えると」


「色?」


「内臓が透けて見える感じ。悪くなってると色がブツブツだったり黒ずんで見えたり」


「へえ、そりゃあすげえ」


「その能力が魔女ってわけか」


「ちょっと、事情は違うかな」


 ソフィアは幼少期から人の身体の中を透視できる力を持っていた。

 周囲の人々には見えていないと気付いて以降、色が悪くなっている臓器を教えるなどし、人々を救ってきた。


 指摘をより的確にするため、臓器についての勉強もした。だが、それは必ずしも感謝されるばかりではなかった。


「ある夫婦に出会った時、ご主人の肝臓の色が悪くてね」


「感謝されたか」


「ご主人からは。でも奥さんがね、有難うっち言いながらも目は笑っとらんかった」


「発見出来たからって、治せるかどうかは別だもんな。残酷な宣告になる場合もあるし」


 余計なお世話と言われたのか。余命を知らされ絶望したのか。そう推測する面々に、ソフィアは違うと首を振る。


「違うと。原因は奥さんやったと」


「え?」


 ソフィアが早期発見をしたおかげで、夫は回復する事が出来た。それ自体は感謝されたのだという。


 原因は妻が日々の料理に盛った毒だった。


「毒を自分の旦那に?」


「おいおい、旦那を毒殺するつもりだったって事か!」


 見抜いたソフィアは当初周囲からも称えられ、その力を誇りに思った。毒を盛り続けた妻が極悪人として非難されたのは、言うまでもない。


 しかしその動機が一気に事態を覆す。


「こんなご時世だからさ」


「ご時世?」


「ご主人をね、戦争に行かせたくなかったんだって。健康だと行っちゃうやろ」


「死なない程度の毒で体調を崩させ、戦力外にする作戦か。どこの国でも故意に怪我したりって話はあるけど」


「旦那は? 結局どうしたんだ」


「戦争に行ったみたいね、その後の事は分からん。あたしは夫を戦争に行かせたくない家庭から憎まれる事に」


「似たような手口で兵役を逃れていた家庭があったんだな」


 ソフィアの行動は密告だとして噂が広まり、悪女呼ばわりも特殊能力のせいでついには魔女呼ばわりに。

 関わると旦那を戦争に送り込まれる、そう言われ人々から避けられるようになった。


「この時代に魔女って」


「馬鹿げた話よね。でもそれが現実」


 ソフィアは肩身の狭い思いをしながら、自身は兵器工場への動員に掛かり、忙しく働いていた。


 月に4回の休みの日。ソフィアが非番だったある月曜日、兵器工場は爆撃を受けた。


「魔女が自分だけ助かったっち、恨みの眼差しを向けられた」


「いやいや、それは能力関係ねえじゃん」


「非番は自分だけじゃないだろ?」


「ええ。でもきっと誰かを憎まな気が済まんのよ。あたしを魔女呼ばわりして犯人扱いすれば、憎む事で現実や絶望から目を逸らせるけん」


「家族は」


「故郷に。あたしは都会に憧れて田舎を捨てた。生きとるとは思うけど、親の猛反対の末、2度と戻って来るなっち言われたけん」


 なんと複雑な事情を抱えた者だろうか。

 どう声を掛けて良いのか、皆言葉が見つからない。


「難民船で知らない土地に逃げようとしたら、私を知ってる人も乗っとった。光を見つけた時、誰も信じんかったのはそういう理由」


 そこまで話すと、ソフィアは、これで満足? 付け足し、ため息をついた。


「それでイングスの事にも気づいた、って事か。納得だ」


「コートを羽織られると、流石に見えんのよね。だから最初は分からんかったと」


「今更帰る場所はねえ、って事だな」


「ええ」


 追い出されたなら目の前の島で暮らそうかしらと強がるソフィア。

 2人より少し年上の雰囲気を纏い、諦めを滲ませた穏やかな笑みを浮かべるその姿に、オルキは考えを決めた。


「フン。人間はくだらぬ事で争うのだな。そのような輩は我が島に無用。その輪から脱した貴様は我が島に相応しい」


「住んでいいって事?」


「良かったな」


 ソフィアははにかんだ後で小さく頷く。


「ありがとう。役に立てるなら何でも頑張るけん」


 オルキが承諾した事で、島民はついに3人に増えた。ソフィアはカレンダーや時計を持っており、今日が何月何日なのかもようやく判明した。

 田舎で羊や鶏を飼っていたため、動物の世話も出来るという。


「船を追い出される時、見かねた若い兵士が船倉から銃を取って来てくれた。扱えないけど、ハッタリにはなると思う」


 ソフィアは鞄から銃を2丁取り出し、オルキに差し出す。それをフューサーとケヴィンが1丁ずつ預かり、いったんその場はお開きとなった。


「イングス、家に案内してやってくれ」


「はーい」


 ソフィアにはイングスとオルキの右隣の家が与えられた。


「立派な家だね。君が建てたと?」


「うん」


「すごいやん!」


 部屋などない。小上がりからの1部屋だけ。最低限のかまどや台所はあるが、水は汲んでくる必要がある。それでもソフィアには充分だった。


「トイレとお風呂がある! 故郷より全然マシ」


 そう言ってソフィアはイングスの頭を撫で、有難うとハグをする。


「君が人じゃないなんて不思議」


「そうなんだね」


「あなたも立派、あなたは人形でも特に素晴らしい。これから宜しくね、イングスくん」


「はーい」


 イングスの受け答えは、ただの反応に過ぎない。それでもソフィアはまるで弟のように接した。


「素直な良い子」


「言う事を聞けないくぐつなんて価値がないでしょ」


「なるほど。あなたの価値観だとそうなるんか」


 イングスは人形。ソフィアに無用な感情を持たず、レッテル貼りもしない。ソフィアはこの島でなら人生を変えられると確信を持つ。


「君がもし人間のような心が欲しいと思っても……きっと私はお勧めできない。君は人間に失望せんでね、あたしみたいに」


 ソフィアはイングスの頭を優しく撫でた後、荷物を置いて再び外に出た。

 これまで魔女と呼ばれ、都合の悪い事を全て自分のせいにされ生きてきた。


 何もかもをソフィアのせいにすれば、周囲の人間は自ら変わる事も改める事もしなくて済む。鬱憤のはけ口としてちょうどいい存在としか認識されていなかった。


 そんな人間の浅ましさ、愚かさを思い知ったソフィアにとって、この島の状況はとても魅力的だった。

 島を治める魔獣と、相棒の人形。1匹と1体は人間の価値観で差別する事もない。


「人間を作ったのは、きっと神様の過ちね」





 * * * * * * * * *





「凄い、肉も野菜もあるし、暮らせるものが本当に揃っとる!」


「だろ? まあ、真冬の寒い中で石灰石掘り出すのはホントきつかったけどな」


「廃屋の整備や重いものの運搬はイングスが。畑、道や家の基礎、土間はケヴィンがやってるよ。俺は測量と電気や水道を整えつつ、家具や日用品と服を作ってる」


「……吾輩が何もしていないように聞こえるが」


「オルキは爪研ぎや散歩をしているでしょ。僕を操ってくれるし、あくびもしてる」


「それだけを聞くと、吾輩は外道の極みだな」


「あははっ、島長が何もしていないっち言ったのは、役に立っとらんように聞こえるっち事よね。そうやない事は、この雰囲気を見たら分かるわ」


 夕暮れになり、皆がオルキとイングスの家に集まった。

 夕食は皆で一緒に摂る。料理当番は交代制で、食材はあるものを使えば何をどれだけ使ってもいい。


「灯台や風車なんかのアイデアを出してくれているだろ。助かってるよ島長」


「さすが神に代わる存在。俺達が知ってるものより性能がいいんだよな、何もかも」


「フン、当たり前だ」


「んー、あたしは何をしようかな……家畜の世話って言っても牛たちは放牧状態。料理はみんな得意みたいだし」


「畑は出来るか? ちょっと手が回らないんだよな」


 ソフィアはここに住む事を決めた。もうお客さんではない。

 早速役割分担を提案する辺り、元々よく働く性分のようだ。


「あなたは食べないのね」


「人形だからね」


「どうやってて動いとると? 不思議」


「僕から見れば、どうして生き物は食事をしなくちゃいけないのか不思議でならないよ」


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