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第11章 幻惑が丘の人無月荘

 いつの間に、飛行船病院の玄関ドアノブが、マンジに変わったのだろう。

 コウタは、ぼんやり考えながら、ドアノブを廻してドアを開けた。すると、強烈な草の香りと共に、乳白色の濃い霧がどっとなだれ込んできた。

 別な世界だ。明らかに、今までいた『永遠に宅地造成中の国』とは違う。うまく出来過ぎているような気もするが、向久井先生がドアを開けろと言っていたのは、このことなのだろうか。あたり一面、ミルクみたいな霧が立ち込め、何一つ見えない。

 コウタは、新しい世界へ足を踏み出した。柔らかい地面にサンダルの底が触れると、体ごと地面にのめり込む感覚になった。一抹の不安はあったが、地面が、自分の体をしっかり受け止めてくれる。そう感じると、不安はたちまち好奇心へと変わっていった。

 コウタに続いて、三人も恐る恐る新世界へ足を踏み入れた。

 全員が外に出ると、濃い霧は幕引きするかのごとく、薄れていき、四人の前に、隠されていた世界が、少しずつ姿を現し始めた。

「うわっ、また、原っぱだ。だけど、まあ、寒くはないな。こうして、無事マンジが見つかり、冬将軍から、逃げ切れただけでも上等か」

 亮平が、がっかりした声を上げた。薄暗い霧の中で見えたのは、霧で濡れた草が一面、足もとの地面を覆っている様子だけだ。

 コウタは振り返ってみたが、今出てきたばかりのドアも、飛行船病院の姿も、既に消えていた。予想していたとおりだ。もう、後戻りはできない。前に進むしかないのだ。ここがどこであっても、別世界へ移動し冬将軍から離れられたことで、心はすっかり安定を取り戻していた。

「けれど、今までの原っぱとは、どこか違うね。どこが違うんだろう。空気だろうか」

 翔が、大きく深呼吸をして、そう言った。コウタには、翔の声が、とても心地よく、耳に響く。それに頭がぼーっとして、妙に気分がいい。

「声が変なんだよ、ほら」と、オー君が、わざと大声で叫んだ。オー君の声は、いく重にもこだました。広い洞窟の中にいるのではないかと思うほど、大げさなくらい、壮大な響き方だ。

 そのうち、垂れこめていた霧は完全に消えうせ、新しい世界の全容があらわになった。霧の向こう側からは、夜風に波打つ、美しい丘がいくつも現れた。丘たちは、夜空の下で青色に染められ、うねりながら複雑に重なり合っている。心地良い風が、青い丘の斜面を楽しげに転げ回っていた。まさに、夢のような光景だ。

 丘を青く染め上げているのは、満月の力強い光だ。その満月は、コウタたちの知っている満月より、何倍も大きく圧倒的だ。ぐっと近くに見える。そのせいで、月の光は、地上の世界を青一色に燃え立たせているのだ。

「おれたち、そろって夢を見ているのかな」翔は、抱えていた本を地面に落とし、うっとりと満月を見上げている。それから急にはっとして、みんなの方に振り返った。「もしかして、ここが銀河原なのかな?」

 こだまが、心地よい風と共に、自分の耳もとに返ってくる。翔は、自分の声に聞きほれ、夢見心地な気分に酔いしれた。

 コウタは空を見上げたまま、巨大な月をゆっくりと指さした。

「うーん、ここはどう見ても、まだ地上だよ。銀河原は天上界にあるって、支配人や向久井先生が言っていたじゃないか」

 コウタの一言一言も、美しい丘にこだましている。翔は、コウタの返事の内容はどうでもよく、声のこだまに、すっかり気を取られていた。コウタもまた、自分の声に感動し、自分じゃない誰かがしゃべっていると、錯覚しそうになった。

 声だけではない。目に見えるすべてが、青の濃淡に染められ、引き込まれそうになる。初めは、気のせいかと思っていたが、青くたなびく丘は、見れば見るほど、美しくなっていく。何とも不思議だ。耳を澄ませると、遠くから列車の走っている音が、微かに聞こえてくる。

 ふと、コウタは、足もとを照らす小さな灯ろうに気がついた。石でできた、風流な灯ろうは、これまた風流な、近くにある木片の道標を照らし出していた。

人無月荘(ひなづきそう)まで、あと7500歩、又は7500光年。行きたきゃ、勝手に行くがいい』

 道標の矢印の下には、そう書いてある。変な道標だ。

 冬将軍の魔の手から逃れた四人は、緊張から解放され、今や、すっかり気楽な気分だ。オー君の調子も良さそうなので、四人は、このまま、人無月荘(ひなづきそう)へ行ってみることにした。

 青白い細道が、丘を取り囲み、くねくねと続いている。四人は、道標に沿って、青い丘を四つほど、ぐるりと廻り込んだ。五つ目の丘を目の前にして、四人は立ち止まった。

 その小高い丘の上には、一軒の小ぎれいな旅館がぽつんと建っている。他の丘に比べ、頭二つ分高い丘の頂上にあるので、そこからの見晴らしは相当期待できそうだ。そこへ向かう、最後の上り坂の横には、『人無月荘』と書かれた看板が、ひっそりたたずんでいた。

 四人は、坂を登り、古風な木の門をくぐり抜けた。よく手入れされた庭が広がっている。

 小道の両脇には、色とりどりの牡丹の花が列をなして咲き誇っている。どれも皆、美しい。牡丹の花は、深呼吸のように、それぞれが規則正しく、とてもゆっくりと花びらを開閉していた。コウタたちが、そばを通ると、一瞬動きを止めるが、通り過ぎると、再び大胆な運動をくり返した。

 牡丹の花の向こう側には、赤やピンク、黄色、紫等の花々が、競い合って咲き乱れている。

 きれいな石畳の道を進んでいくと、さらさら流れる小川に突き当たった。水は透明で、青い月光をキラキラと反射している。小川は、右手の岩山の方へと流れ、その先は池になっていた。こじんまりとした日本庭園だ。左手には、木々やこんもりとした茂みがあり、小さな滝が象られていた。

 短い石橋を渡ると、灯ろうの列がゆったりと点滅し、玄関へまっすぐに、四人を導いていた。

 玄関は大きく開放されているが、アヤメの暖簾(のれん)のせいで、外から、中はよく見えない。

「こんにちは。誰かいませんか?」

 コウタたちは、暖簾(のれん)をくぐり、館内に向かって声をかけたが、何の反応もない。いく度となく試してみたが、小川の水音が背後から響くだけで、人の気配はまったくしない。

 広い玄関から、ロビーや受付カウンターが続いている。普通の旅館の造りだ。

「誰もいないんですね?じゃあ、勝手に入りますよ」

 気の短い亮平が、早くもサンダルを脱いで、ずかずかと中に入っていった。コウタたち三人は、中に入るのをためらっていたところ、ふと、下駄箱の上に置いてある、一枚の紙切れに気がついた。その紙切れは、さりげなくそこにあるが、そのくせ、わざと目につく置き方だ。

『幻惑が丘の人無月荘(ひなづきそう)へ、ようこそ。中で、ご自由にくつろいで下さい。切符は、一人二枚です。下駄箱のスリッパ入れに、どうぞ』

 きれいな手書きの文字だ。

「幻惑が丘?じゃあ、ここはやっぱり、銀河原(ぎんがはら)じゃなかったんだ」

 翔が、がっかりした声をもらした。翔は、まだ、ここが銀河原であって欲しいと期待していたのだ。

「そう、落ち込むなよ。ここは、とてもきれいで落ち着けそうじゃないか。オー君が本を読むには、ちょうどいいし、僕らだって、いろいろあったから、ちゃんと休憩したいしね。オー君、どうかな?」

「うん、読書するには、ピッタリの場所だね。がんばって、五冊の本を読むよ」

 オー君は、やる気に満ちていた。もうこれ以上、みんなに迷惑はかけられないと思ったのだろう。

 コウタは、脇に抱えていた本を置いて言った。

「だけど、早く読もうとして、無理しちゃいけないよ。先生の話だと、心に刻み込まれるほど、いいみたいだから」

 オー君は、満面の笑顔を返した。

 翔は、やっと諦めがついたのか、抱えていた本を床に降ろすと、やれやれ顔で奥を覗き込んだ。

「そうだな。銀河原じゃないのは、残念だけど、例の冬将軍って奴もいないみたいだし、おれたちも、今度こそまともに休めそうだ」

 三人は、切符を二枚ずつ、スリッパ入れに放り込むと、サンダルを脱いで中に入った。中からは、やたら無邪気に走り廻る亮平の足音が響いてきた。それ以外は、何も聞こえない。

 玄関ホールには、小さな受付用カウンターと革張りのソファとガラスのテーブルが、備えつけられている。玄関からは、まっすぐな廊下が、奥までずっと続いているようだ。廊下の両側には、いくつもの部屋が、ふすまによって曖昧に区分けされていた。かなり広い旅館だ。

 各部屋には、ま新しい畳が敷かれ、イグサのいい香りが、漂っている。部屋は、二十室はあるだろうか。各部屋には、家具がほとんどなく、広々としている。大きめの押入れには、寝具や浴衣が入っていた。廊下と反対側には、大きな窓があり、各部屋の中は明るい。

 部屋は、ふすまで仕切られているだけなので、ふすまを全部開ければ、一続きの、巨大な大広間にすることも可能だ。

 清潔な手洗いと、小さな浴場はあるものの、調理場や食堂は見当たらない。これだけ広いのに、仲居さんはおろか、旅館の人が誰もいない。

 受付カウンターのすぐ後ろは、壁になっている。不可解なことに、カウンター内への出入口は、どこにもなかった。受付カウンターは、単なる飾りらしい。

 上の階に行けば、誰かがいるだろうと思い、階段を探してみたものの、それらしいものも発見できない。よく見れば、ここは二階のない、平屋の建物だった。外からは屋根が高く見えたので、てっきり二階があるものと、コウタたちは勝手に誤解していただけだった。

「みごとに、誰もいないな。旅館の人たちは、どこか別の棟に集まっているのかな」

 四人は、ますます気になった。そこで、外に出て、庭をぐるりと一周してみた。敷地内には、他に建物はなく、周囲の丘を見渡しても、建物らしきものは見当たらない。どの方向を見ても、月光に照らされた青い丘が延々と続いているだけだった。コウタは美しい景色に見とれながらも、どこか釈然としない思いだった。

 コウタたち三人が、再度、玄関に戻ると、また、別の紙切れが置いてあるのに気がついた。

『当旅館は、人無月荘です。その名のとおり、人はいません。ですが、サービスは万全ですので、その点ご心配なく。なお、切符のお支払いは、きちんとお願いします』

 四人は、誰からともなく、ふうんと言って、やり過ごした。

 コウタたちは、玄関から一番奥にある、突き当りの部屋に入った。そこは、大きな窓がある、一番の大部屋だ。

 大窓からは、周囲の丘が一望できる。おまけに、右側にあるガラスの引き戸からは、自由に、庭へも降りられる。窓の面積が広いので、月明かりもうまい具合に差し込み、人無月荘で一番明るい部屋となっていた。

 そこには、一足先に休んでいたオー君と、旅館の探索から戻ってきた亮平が、畳の上で大の字になっていた。

 四人は話し合いの結果、危険はないと判断し、しばらくの間、ここで過ごすことに決定した。

「みんな、肝心なものを忘れてない?ご飯はどうするのさ?安全なのはいいけど、誰もいないし、売店も、自動販売機もなかったよ」

 亮平の言葉に、全員が突然、空腹を思い出した。小人族からもらった木の実もとっくに食べ尽くし、それ以来、何も口にしてないのだ。空腹に一番弱い亮平は、本気で食事を心配していた。

 全員が、困惑した。食料がなければ、どうにもならない。冬将軍がやって来なくても、このままでは飢えて死んでしまう。

 しかし、コウタは、突然笑みを浮かべると、おもむろに立ち上がった。

「亮平、きっと今頃、その答えが出ているよ」

 謎めいた言葉を残し、コウタは、独り駆け出した。勘のいい翔が、次にはっとして、コウタに負けじと続いて走り出した。どこへ行くんだと亮平が叫びながら、二人の後を追って行った。

 コウタの思ったとおりだった。紙切れが一枚、玄関に置いてある。

『お食事は、毎回、受付カウンターに、お届けします。ただし、切符をお忘れなく。今回は、切符に不足分があります』

「ほら、やっぱり」

 コウタは、得意げに紙切れを取り上げ、みんなに見せつけた。

 後から駆けつけた亮平は、紙切れを手に取った後、不審そうに、あたりをキョロキョロしている。

「探したって無駄だよ。ここに、人はいないんだ。だからといって、僕らが困るわけじゃないし、気にしなければ、いいんだよ。でも、切符については、厳しそうだな。亮平はまだ切符を渡していないだろう?そこのスリッパ入れに二枚入れない限り、いつまでたっても催促されるよ」

 切符を入れないと、食事がもらえないとでも思ったのか、亮平は、慌てて切符を取り出し、スリッパ入れに放り込んだ。そして、切符を取りに来る人物を目撃するため、しばらくの間、玄関の柱の陰で見張っていた。ところが、いつになっても誰も現れないばかりか、切符だけがいつの間にか、なくなっていた。亮平は、やっと諦めて戻ってきた。

 紙切れに書いてあったとおり、食事の時間になると、受付カウンターの上には、四人分の食事が用意されていた。まったく音もせず、いつの間にか、食事を載せた盆が四つ、カウンターの上に並んでいる。

 始めの頃は、好奇心から、食事がカウンターの上に準備される瞬間を見届けようと、見張っていた。が、そのうち、そんなやり方に慣れてしまったのと、それを見るのは、失礼な気がしてきた。なので、時間が来ると、四人は、むしろ奥の部屋に引っ込んだ。

 その奥の広々とした部屋は、四人の集まる部屋でもあり、寝床でもあった。部屋は余るほどあったので、それぞれに部屋を割り振った。だが、オー君のいる奥の部屋が溜まり場となり、四人は自然とそこに集まった。

 結局、四人は、トイレと入浴以外、その部屋で一緒に過ごすことになったのだ。

 食事は、子どもが普段口にできない、贅沢なものばかりだった。大トロやフグの刺身、伊勢えびの丸焼きや、アワビにサザエ、高級和牛のステーキ等が、惜しみなく皿の上に盛りつけられている。

 一日目は、滅多に食べられないご馳走に、全員大喜びしたが、翌日には早くも、ハンバーガーやカレーライスが恋しくなった。

 四人は、玄関に向って、食べたい物を大声で叫んでみたが、返ってきた紙切れには、こう書かれてあった。

『残念ながら、当旅館では、そのような料理はご用意できません』

 子ども向けの食事は、期待できなさそうだ。四人は少なからずがっかりした。

 諦め切れない亮平は、どうしても焼きそばが食べたいので、ぜひ用意してくれと、何度か強めに叫んでみた。

 すると、『当旅館の規則により、食事に限らず、同じ種類の質問は、二度と受付けません。質問は、よく考えてからどうぞ』という、珍しく厳しい回答が返ってきた。

 食事のメニューに不満はあったものの、栄養満点だったし、それ以外は、いたって心地良かったので、四人はこの旅館に大満足だった。そのせいか、オー君の顔色も少しずつ良くなり、艶さえ出てきた。

 オー君は、横になったまま、向久井医師から借りた本を読み始めた。最初の頃は、少し読んでは、本を畳に投げ出し、しばらくの間、目を閉じていた。文字を読むのがしんどいのだろうか。それとも、思い出せない自分の過去や、迫りくる冬将軍のことを考え込んでいるのだろうか。きゅっと寄った眉間のシワは、まるで小人族の老人だ。

 しかし、だんだんと本の内容に引き込まれていき、ついには、食事の時間にも気づかないほど、読書に没頭していった。

 そんなオー君に安心したコウタたち三人は、マンジを探しに、外へ出かけるようになった。既に、人無月荘の中と周囲は、くまなく探検したが、それらしいものは、なかった。

 四方八方、見渡す限り青い丘が続き、常に大きな満月が丘の上に輝いている。月は一向に沈まないし、いつまでたっても、太陽は昇ってこない。三人は、微かに聞こえる列車の音の方へと歩いてみたが、いくら歩いても、列車や駅はおろか、線路すら見つけられなかった。

 翌日は、思い切って、満月の見える方向に、ひたすら歩いてみた。青い丘の向こうには、また青い丘が広がり、少し小高い丘に登って確かめても、風景は変わらなかった。木が一本も生えていない、青い丘だけが、地平線まで延々と続く風景だ。

 コウタと亮平は疲れ切って、早々に引き上げた。翔だけは、この美しい丘に魅せられて、丘の中腹に独り残った。

 三日目、コウタたち三人は、別の方向へ歩いてみた。満月とは正反対の方向だ。それでも、結果は前日と変わらなかった。ただ、前日より、少し肌寒い気がした。四日目も、五日目も、たいして変わらず過ぎていった。

 五冊の本を読み終えたオー君は、体調がだいぶ回復していた。まだ、肌の色に、若干青味は残っているものの、以前みたいな透けて気味悪い状態ではない。しかも、奇妙だった影も、ほぼ、普通の影に戻っている。

 オー君は、この回復ぶりに、自分自身が一番驚いていた。

「本を繰り返して読むと、そのたびに、違う感想になるんだ。そして、そのたびに、違った力が内側から湧いてくる気がする」

 オー君は、このところ、きちんと座って本を読み、人無月荘の近辺を少しずつ散歩し始めていた。弱々しかった小さな目が、力強く輝いている。これなら、一緒に旅をするのは問題なさそうだ、とコウタは喜んだ。

「でも」と、オー君は憂鬱そうに言った。「やっぱり思い出せないんだよね。僕、相当悪いことをやらかしたのかな。せめて、指名手配されている理由がわかれば、思い出せる気がするんだけど」

「そのうち思い出すよ。いや、もしかしたら思い出すより先に、銀河原に到着して、願いが叶えられるかも。そうしたら、すべて解決するし、すぐに、元の世界へも帰れるね」

 コウタの励ましに、オー君はちょっと戸惑ったが、すぐに笑顔になった。

「そうだね」

 何故だろう。気のせいか、オー君の笑顔が弱々しく見えた。

 だが、肝心のマンジが見つからない。マンジが見つからなければ、オー君の具合が良くなっても、この場所から抜け出せないのだ。コウタは自分の心の中に、小さな焦りを感じた。

 六日目の朝、コウタたちは、寒さで目を覚ました。誰も口にこそ出さないが、不吉な予感に顔を曇らせた。丘は、相変わらず青く輝いているが、秋の気配が漂っている。吹く風も、まだ心地良いものの、冷たさを内に秘めている。その風に当たった庭の牡丹は、ぐにゃりとしおれ出した。

 その日も翔は、朝早くから丘に出かけていった。コウタと亮平は、むやみに出かけても仕方がないと考え、部屋でぐずぐずしていた。

 翔は、マンジ探しよりも、単に青い風景に浸っていたいがために、一人で丘に出かけている。一日中、夢心地な気分でいるのが、翔は、何よりも幸せだった。

 しかし、オー君が元気になっていくのとは反対に、翔は、だんだん元気がなくなっていくように見えた。

 亮平がやっと布団から這い出て、起き上がった。

「こうなったら覚悟を決めて、マンジを探しに行くしかないね。今度は日帰りじゃなく、食べ物や水や毛布を用意して、丘の果てに向かうんだ。冬が来る前には、どうにか見つけないと」

 亮平が、珍しく奮起した。

「冬が来る前に…か」

 コウタは、いかにも不快そうにつぶやいた。

 亮平は、浴衣の前を合わせ、きゅっと紐を締めた。あまりの寒さに、旅館の浴衣を上着がわりに、羽織っていたのだ。

「それにしても、いったい、マンジはどこにあるんだろうな。この旅館にあるような気がするんだけど。あーあ、せめて、手がかりだけでも、わかればなあ」

 亮平は、バタンと畳に寝転がると、天井に向かって大声を張り上げた。が、次の瞬間、突然身を起こし、指をパチンと鳴らした。

「そうさ。今頃、答えは出ているはずだ」

 亮平は、一目散に玄関へと駆けつけた。コウタと、オー君も、なるほどと顔を見合わせ、慌てて玄関に走って行った。

 予想どおり、紙切れが置いてあった。どうしてこんな簡単なことを、思いつかなかったんだろう。初めから、人無月荘に聞けば良かったのだ。

『ご注意。屋根への出口は、大変混み合いますので、お一人ずつ、速やかに上昇願います』

 三人は、首を傾げた。マンジがある場所のヒントに違いないが、これだけでは、意味がわからない。

「ああ、おれの言い方が失敗だった。ずばり、マンジのありかを教えてくれって、叫べばよかったのに。これで、もう二度と、質問できなくなっちゃった」

 亮平は、頭を抱えてうめいたが、コウタとオー君は、落ち着いていた。

「いや、ヒントをもらえたのだから、十分だよ。あのままだったら、それすら、気づかなかったからね。この文面から、マンジは、屋根の付近にあるみたいだ。屋根への出口ぐらい、自分たちで探せばいい」

 三人は、早速、屋根への昇り口を探し始めた。もしかしたら、秘密の階段が、どこかにあるのかもしれないと思ったのだ。だが、それは思い過ごしだった。平屋建てのこの旅館は、柱と天井で四角い部屋に区切られただけの、単純明快な造りなので、そこに階段が組み込まれる可能性はありえない。秘密の階段はおろか、手がかり一つ得られないまま、三人は奥の部屋に戻った。

 がっかりする間も惜しみ、今度は手分けをして、各部屋の天井を丹念に調べ出した。

 天井は、どの部屋も造りが一緒で、正方形の硬い板が、隙間なく嵌め込まれている。そのうちの、どれかが開くのではないかと考え、一つずつ、ほうきの柄で丁寧に突いてみたが、どこも頑として、動く気配すらなかった。部屋の中から、天井を突き抜けられないのは、これではっきりした。

 そこで三人は、外に出てみた。外から建物を観察し、手がかりを探そうとした。丘の頂上にある人無月荘は、冷たい風が四方八方から吹きつけている。

「また一段と、冷えたな」

 三人は、我慢して、旅館の周囲をぐるりと一周してみたが、屋根への出口らしきものは、見当たらない。

 亮平が、庭にある桜の木を伝い、苦労して屋根の上に登ってみた。瓦ぶきの屋根には、出入口も、怪しい部分も、見つからなかった。亮平は寒さに震えながら、そそくさと地上に戻ってきた。手指と鼻の頭が、寒さで赤くなっている。

「まいったな。お手上げだよ。見つけたのは、翔だけだ。丘から帰ってくる姿が、屋根から見えたよ」

 いつもは夕食時に戻ってくる翔が、あまりの寒さに耐えきれず、しぶしぶ引き上げて来たのだろう。

 大きな月が青い光を強力に放っているのに、旅館から見渡す丘は、茶色に変色しかかっている。遠くに見える丘ほど、草の勢いもなく、既に枯れて茶色く染まっている。まるで、秋の終わりに見かける、死んだ丘みたいだった。

 奥の部屋に戻った三人は、帰ってきたばかりの翔と共に、マンジ探しについて話し合った。

「なければ、ないで、仕方ないんじゃないか?そう急がなくてもいいし」と翔。

 あまりに投げやりな言いぐさに、すぐさまコウタが反論した。

「いや、急がなきゃダメだよ。早く銀河原へ行かないと、オー君の病気だって、本当には良くならない」

「オー君は、ずい分と元気になったじゃないか。焦って、体力を無駄に使うより、ここで当分休んだ方がいい。栄養たっぷりの食事だって、三食ちゃんと用意されているし」

 翔は何故か、銀河原へ行きたがらない様子だ。亮平が鼻息荒く言った。

「おれたちだって、銀河原に行かないと、元の世界に帰れないじゃないか。それに、ススキが原で願いを叶えてもらわなくてもいいの?」

「おれは、元の世界に戻れなくても、別にかまわないよ。もう少し、こっちの世界を探検したいんだ。ススキが原には、後で行くよ。自分の好きな時にね」

 これには、三人とも驚き呆れた。それと共に、言い知れぬ不安を感じた。

「翔、それは無理だよ。ここは日増しに、寒くなっているじゃないか。あんまり言いたくないけれど、冬将軍が、近くまで迫っているんだ。君だって、わかっているだろう?僕らは、早く移動しなきゃならない」とコウタ。

 翔は、憤然としてコウタをにらんだ。

「おれに命令するのは、止めてくれないか。自分で考え、自分で思ったとおりに行動するよ。そもそも、おれは冬将軍に追われていないし、みんなに迷惑をかけてもいないだろう?誰かさんみたいに」

 そのとたん、オー君は、黙ってうつむき、逆に亮平は、いきり立った。

「おい、友だちに対して、そんな言い方はないだろう?みんな、君のことを心配しているのに。翔は、最近、おかしいよ。いや、この丘に来た時から、ずっとおかしいよ」

 すると、今度は翔が、亮平をきっと、にらみつけた。

「おまえの方が、もっとおかしいじゃないか。人無月荘にきちんと聞けば、マンジのありかがわかったのに、あやふやな聞き方で、せっかくのチャンスをふいにした。質問は、一回しかできないって、わかっていたはずなのにね」

 皮肉めいた言い方に、亮平がついに怒りだし、翔に詰め寄った。コウタがとっさに、二人の間に入った。

「待てよ、二人とも。こんなところで、ケンカしたって、なんの解決にもならないだろう。寒いし腹がへって、みんなイライラしているんだ」

 ひとまず、二人のいがみ合いは収まった。翔は、むっとした顔で隣の部屋に引っ込んでしまい、亮平は膨れた顔のまま、トイレに行ってしまった。オー君は、しばらくの間、元気がなかった。

「オー君、気にしなくていいよ。マンジさえ見つかれば、すべてがうまくいくんだから」

 コウタは、そう言ったものの、心の中では不安だった。肝心のマンジが見つからなければ、どうにもならないのだ。

 すると、オー君は、自分の小さな頭をポンと叩いて言った。

「平気だよ。体の方はだいぶよくなったから、後は記憶だけだね。今度は、思い出す努力をしてみるよ。やっぱり気になって仕方ないんだ」オー君は、屈託のない笑顔で、つけ加えた。「マンジも、きっと見つかるよ。だって、少なくとも、この旅館にマンジがあるって、わかったんだからさ」

 コウタは、オー君の無邪気な笑顔に、すっかり勇気づけられた。

 翌朝、青い丘には、白い雪が薄っすら積もり、青白く輝いていた。丘は相変わらず美しいが、もはや、力強さは感じられず、死に行く世界のようだった。こだまする声にも、張りはなく、声もまた凍りついていた。

 あんなに咲き乱れていた牡丹は、全部枯れ、清々と流れていた小川の水面には、薄氷が張りついていた。窓を開けるのも辛いほど、風は冷たくなっていた。

 あまりの寒さに、さすがの翔も、外に出るのは止めた様子だ。ふてくされた顔をしながらも、みんなと一緒に朝食をとっている。

「おれは、ここに残るよ」翔は、箸を置いて宣言した。「昨晩、じっくり考えて決めたんだ。おれは、ここに、もうしばらくいたい。だから、みんなは、先に銀河原へ出発して欲しい」

 翔はそう言い残すと、さっさと食器の盆を片づけ、隣の部屋に引っ込んだ。三人は、言い争いをする気もないので、翔の件は、しばらく放っておいた。コウタたちにとっては、マンジを見つけることが、最優先だったからだ。

「手がかりが、あるはずなんだ」

 コウタたちは、人無月荘のくれたヒントを信じていた。午前中いっぱいかけて、三人は、部屋から部屋へと移動しながら、押入れの隅々まで調べ上げた。

 身軽な亮平は、もう一度、屋根に登り、冷たい風が吹く中を、煙突や雨樋の裏まで調べ上げた。豪快なくしゃみが、屋根からあたりの丘にこだまし、それに続いて、鼻をすする音が聞こえてきた。そこまでしても、手がかりになるものは、まったく見出せない。

 三人が、寒い中を懸命に探し廻っているのに、翔は、見晴らしのいい隣の部屋から、冬色に染まっていく丘を、飽きもせず眺めるばかりだった。

 お昼過ぎ、疲れ切った三人は、奥の部屋で厚手の掛布団にくるまり、ぐったりしていた。そこへ翔が、ふらりと姿を現した。

「体力を無駄に使うなよ。ありもしないマンジを探すより、冬ごもりの支度をする方が、よっぽど賢いぞ。また、雪が降ってきたし」

 すると、亮平は、布団から顔だけを出して、翔を下からにらんだ。そして、鼻水をすすりながら、軽蔑をこめて言い返した。

「君が手伝ってくれたなら、マンジはとっくに見つかっていたかもね。おれたちが鼻水垂らして頑張っているのに、翔ときたら、丘をうっとり見ているばかりで、手伝おうともしない」

 翔は、両手を腰にあてて、亮平を見下ろした。

「無意味なことは、しない主義なんでね。だいたい、この旅に参加するのも、しないのも、おれの自由だろう?参加したい奴が、この旅を続ければいいじゃないか。おれは、降りるね。それに、オー君はクラスメートだけど、おれの友だちじゃない。だから、銀河原に連れて行きたいのなら、お前たちがオー君の面倒をみたらいいのさ。おれは、赤の他人の面倒まで看るのは、ごめんだね」

「おい、翔」

 翔の暴言にたまりかねたコウタが、布団から出て体を起こしかけた。

 その時、ふと、視界の端に気を取られた。

 奥の天井の角隅に、青い影が浮かび上がり、ゆっくり回転を始めている。ゆらゆらした青い影は、少しずつ回転を早め、輝きが強くなっていった。やがて影は、四本の腕となり、マンジの形に変化していった。

「マンジだ!」

 次に気づいたオー君が、元気よく叫んだ。

 こんなマンジは、初めてだ。四人は、疲れや寒さや苛立ちも、一気に吹き飛び、回転するマンジに見とれた。青い幻のようなマンジは、くるくると軽快に廻りながら、次第に力強く、生命あふれる光となっていく。まるで、ここだと言わんばかりに、自分を主張しているではないか。

 マンジの形は、すぐに溶けてなくなり、その代わり、青白い光が、揺らめき出した。それは、深い海の中から眺める、煌めく海面にも似ている。

「…行かなくちゃ…」

 誰かが、そう言った。四人全員が、不思議と同じ気持ちだったので、誰が言っても、自分が言ったように感じていた。

 これこそが、天上界への入口に違いない。コウタは確信した。あれほど、ここに残ると言い張っていた翔も、天井の輝きを見た瞬間、今までとは違う顔つきに変わった。

 キキョケ、キキョケ、キキョキキョケ…

 姿を見せない夜鳴鳥(よなきどり)の声が、久々に聞こえてきた。とても遠いところで鳴いているのに、頭の中で大きく響き渡っている。時を告げる鐘の音みたいだ。

(ああ、夜鳴鳥が呼んでいるんだ)

 コウタは、光に誘われ、角の天井の真下に立った。

 見上げると、天井は、青白い輝きが揺らめきながら、どんどん透明になっていく。青く透明なゼリーのようだ。天井の片隅は、今や、不可思議な空間に変化し、そこから、向こう側の世界が姿を現そうとしていた。

 そして、コウタは見た。明るい満月が、いとも楽しげに、上からコウタを覗き込んでいるではないか。満月は、コウタの心を、魂を、体を、全力で誘った。すっかり嬉しくなったコウタは、自分も、この月光に溶け込みたいと、強く願った。

 その瞬間、コウタは青い光に包まれ、上へと吸い上げられていった。吸い上げられている自分は、もはやコウタではなく、光そのものだ。コウタの体は、光となって上昇し、天井を突き抜けると、あっという間に屋根の上へ飛び出していた。

 コウタは、屋根から見た光景に絶句した。

 初めて幻惑が丘を見た時、美しいと感じたが、今、屋根から見渡す光景は、それを遥かにしのいでいた。単に美しいだけではない。コウタは言葉にできない、気持ちで胸がいっぱいになった。泣きそうなくらいだ。

 下にいる三人のことも、すっかり忘れ、しばらくの間、屋根の上で、独り感動の時空を味わっていた。

 コウタの姿が消え、物音一つしないので、亮平たちはさすがに心配になった。ややあって、下からコウタの名前を呼んだ。

 三度目の呼びかけに、ようやくコウタは気づいた。コウタからは三人の姿が見えず、下から響く声もひどく、くぐもっていたので、なかなか気づかなかったのだ。

 コウタは、遥か下界に向かって叫んだ。

「早く上がって来いよ。とんでもない世界が待っているぞ」

 コウタの楽しげな声は、力強くこだました。

 下にいる三人は、居ても立ってもいられず、先を争って、次々と屋根に舞い上がってきた。あれほどここに残りたいと断言していた翔も、今ではすっかり変わってしまった。屋根に上がるなり、全員が感動で言葉を失った。

 屋根から見えたのは、まさに、信じがたい光景だった。

 上空には、ぽっかり口を開けた、巨大な満月が広がり、そこに続く銀色の道がうねうねと、夜空に浮かび上がっていた。長大な銀の道には、行き交う人々の姿が、大勢、映し出されている。

 そして、うねる銀の道を中心に、街や、こんもりとした森、河や海や山々が続き、広がっている。それらは、恐ろしいほど遠いはずなのに、どういうわけか、手に取るようにわかるのだ。

 特に、四人の目を引いたのは、銀の道の入口だ。薄っすらとした銀の道は、夜空に浮かぶ、奇妙な彩雲のあたりから、突然始まっている。彩雲は、巨大な満月を遮るように、堂々と、浮かんでいるのだ。

 その彩雲には、重々しく壮大な門がそびえ立ち、下界を見下ろしている。威厳たっぷりの、近寄りがたい雰囲気ではあるものの、銀の道の入口、いや、天上界への入口にふさわしい姿だ。

 けし粒みたいに見える人々が、その大門のある彩雲を目指して、地上から次々と舞い上がっている。大門の前は、人々で大にぎわいだ。

 四人は感動のあまり、首が痛いのも忘れ、見上げたまま固まった。

 突如として、オー君が叫んだ。

「下を見て!」

 上ばかり見つめていた四人は、まったく気づかなかったが、自分たちのいる下界もまた、大変な光景になっていた。

 四人は、青く輝く大海のまん中にいた。周りは、どこを見ても、青く輝く美しい海だった。その色合いは、美しい幻惑が丘と同じではあるが、どう見ても、今は、丘ではなく、どっしり構えた大海原だ。波の音が静かに、しっかりと聞こえてくる。

 信じられない光景だが、四人がいるのは、一隻の船の上だった。船の中に建っている人無月荘の屋根に、四人はいる。人無月荘の敷地が、船そのものだった。船は、大海原にぽつんと、孤独に浮かんでいたのだ。

「まいったな。おれたちは、すっかり騙されていたんだね」

 翔が、大きなため息をついた。

「ああ、ずい分と大がかりな幻だったな。居心地のいい幻でもあったけど」コウタも、両手を腰にあてて、一語一語噛みしめながら言った。「そして、僕たちは、きっとあの銀の道を行くんだね」

 全員が、心の中で、大きくうなずいた。

 オー君のメガネには、新たな希望に輝く小さな目と共に、壮大な月が一緒に映り込んでいる。

 しばらくしてから、亮平がうなった。

「だけど、どうやって、入口の彩雲まで行くのだろう。みんな、ふわふわ飛んでいるけど、羽根でも生えているのかな。もしかして、おれたちも、あんな風に飛べるんじゃないか?」

 亮平は嬉しそうに言うと、屋根の上で軽く飛び跳ねてみた。いつもより多少体は軽いものの、すぐに下へと体が引き戻された。結局、いつもと変わらず、たった十センチほど、飛び上がっただけだった。

 四人は、各々で試してみたが、どうやっても宙に浮き上れない。がっかりすると同時に、またしても焦りさえ感じ始めてきた。

「思いきって、屋根から飛び降りたらどうかな」

 翔が、無責任につぶやいた。とは言え、さすがに、誰も実行できない。人無月荘の庭の地面までは、少なくとも、七メートルはあるのだ。失敗したら、骨折は免れないだろう。下手をすれば、死んでしまうかもしれない。

 四人は、その場で思案に暮れた。

 キキョケ、キキョケ、キキョキキョ、キキョケ…

「あれ、また夜鳴鳥(よなきどり)が鳴いている」

 コウタは、夜鳴鳥の声を耳にして、声の主を探した。

「えっ?」他の三人は、耳を澄ませ、それから首を傾げた。「波の音しか、聞こえないよ。気のせいじゃないか?」

 コウタは、そうかもしれないと、自分の耳を疑った。しかし、夜鳴鳥の声を聞いたとたん、自分の中に変化を感じた。熱いものが、コウタの中に点火された。小さく熱い炎は、すぐさまコウタの体を駆け巡り、全身に力がみなぎった。

 今の自分なら、何だってできるし、どこへだって行ける。体中を駆け巡っている力は、強くそう訴えている。時間も、場所も関係ない。自分が本当に願えば、宇宙の果てにも、行けるに違いない。ここは、そんな世界なのだから。自由が実現できる世界なのだから。

 だからこそ、強く望み、強く願うのだ。そうだ、向久井先生が言ったように。

 コウタの腹の底から、マグマに負けない熱い力が、一直線に駆け上り、それはやがて、勇気となってコウタから産み出された。

「そうさ。今の僕らなら、できるはず」

 コウタは、そう言うが早いか、思いっきり屋根を蹴り、空中へ飛び出した。


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