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26話 指導官

 一試合目開始前、指導官サラヤ・ホワイトは、戦闘エリアにいるロイドを見つめた。

 ロイドに会うのは今回が初めてではなかった。彼がもっと小さいときに、工業都市リヴァグルにて行われた子供向け治安講習で会ったことがある。サラヤは彼のことをよく覚えていた。「騎士団に入るにはどうしたらいい」と言って、幼いロイドはサラヤを睨んだ。単純なよくある質問には似合わない、騎士団に向ける異常なまでの執念が、瞳の中で暗く燃えていた。

 その頃目立っていたのは、目の色と赤い髪くらいなものだったが、今ではいろいろと、あまりに目立ちすぎている。

 背後で試合を観戦する者たちの中から、話し声が聞こえた。


「それにしても……すげえ魔力」

「ほんとにね。魔力制御も満足にできない人がこの場にふさわしいとは思えないな。あんなんじゃ暴発が恐ろしくって近づけないよ」


 指導官の耳の良さにも気づかない若者に、サラヤは呆れの微笑みを浮かべる。

 おそらくロイドのことを言っているのだろう。

 サラヤからしても、ロイドは何かと目を向けてしまう人物ではあった。

 彼が魔力を制御できていないのはもちろんそうなのだが、彼自身もそれを気にしていないように見える。むしろ、威圧のためにあえて放置しているようですらある。


「まあ、本当にふさわしくないのは、味方の人だけどね」


 背後の声がそう言った。

 サラヤもレアに目を向けた。

 確かにその通りではある。魔力はまずまず。筋力は平均。剣の構え方は素人くさい。この合同訓練の参加者と比べたら、かなり目立つくらいの実力不足だった。

 しかし、なぜだろう。考えながら、レアの目を見つめる。

 サラヤは自分のことを、強さには厳しい人間だと自負していた。この世にいる人間が誰でも強くなれるわけではないし、だから誰もが騎士団にふさわしいわけではない。そういった現実を隠さず伝えるのも、指導官たる自分の役割だと思っている。

 けれどレアには、それが必要だとは思えない。ロイドと同様、目を向けざるを得ない、好奇心に似た感覚を覚えた。

 なぜかはわからない。この大切な機会に呼ばれている事実があるからかもしれないし、そこに制服を忘れて来るというヤバさ故なのかもしれない。あるいは、同僚が彼女を連れてきた瞬間、緊張しつつもどこか呆れたその目を見て、サラヤの勘が何かを感じ取ったのかもしれない。


「でもあの人、味方の魔力に全然ビビってないよな」


 それもある。と、サラヤは思う。

 ロイドから漏れ出る魔力は、常人ならば強い恐れを抱いても仕方のない量だ。ほかの参加者でさえそうなのだから、実力の乏しいレアならば、平常心でいられなくなるのは当然のことのはずである。しかし、彼女は当然のようにロイドの横に立っている。実力差は自覚しているようなので、戦闘自体には多少の緊張をしているようだが、それでも冷静な表情で木剣を構えている。

 何を期待しているんだ、とサラヤは我に返る。

 仮に彼女が実はものすごい才能の持ち主だったとしても、「巡り合えてうれしい」くらいにしか思わないだろうに。指導官の仕事は、若者の実力を引き出すことであって、才能を見つけることではない。ただ教えられることを教えるだけだ。

 サラヤは戦闘者各員の様子を軽く確かめてから、言う。


「じゃあ、準備はいいね」


 空気を吸った時、胸の奥で熱くなるものを感じ取った。

 やはり期待をしているらしかった。

 まあどっちでもいっか、とサラヤは思う。

 試合を見ればわかることだ。


「よーい。はじめ」


 そうして、試合が始まった。観衆は結構な盛り上がりだったが、

 結論を言えば、試合が終わってもサラヤが何かを理解することはなかった。

 どころか、謎は深まるばかりであったわけで、サラヤにはそれが楽しかった。

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