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レスバしてた相手がメンヘラ地雷系Vチューバーだった話  作者: 武藤一光


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第六話 呆気のない幕切れ 

 大学、バイト、エタクラ、Vチューバーの配信視聴。そして奴とのしょうもないレスバトルが、最近の俺の生活における五本柱と言っても過言ではない。

 ある日ある時、例によっていつもの掲示板で、奴は突然こんなことを言ってきた。


《お前らなんてどうせVとか観て喜んでるキモい豚だろww》


 親の顔ほどに見た、テンプレートなオタク煽りだ。

 かつての俺であれば気にも留めなかっただろうが、残念なことにこの時の俺には効いてしまっていた。


《観ていたとして何か問題でも? こんなところに張り付いてアンチコメントを連投しているVアレルギーのほうがよほどキモいと思うが》


 自分でも安い挑発に乗せられているのが分かりながらも、お気持ちを書く手は止められなかった。

 それに対する返事は、わりとすぐに返ってきた。


《きっしょ。ガチ恋とかしてそう。やっぱお前らって終わってるわw》


 端から話し合う気などない、攻撃を攻撃で返しただけのレス。

 すなわち、宣戦布告だ。

 こうなってしまった以上、勝利の二文字を手にするまでは引くことは許されない。


《別にしてないし。それに例えガチ恋したとしても、迷惑行為をせず心の中に止めているだけなら問題ないだろ》


 このように返してみると、次のレスはものの数十秒で来た。

 

《どうせお前らあれだろ。白菊菜乃花とかにブヒブヒ言ってんだろ。非モテのお前らに特別に良いことを教えてやるが、ああいう女の素性は清楚でもお嬢様でもなんでもなく、お前らのことを養分としか思ってないぞw》


 真っ向から否定している割にはやけに詳しいじゃないか、という突っ込みはひとまず置いておく。

 「白菊菜乃花」といえば、誰でも一度は耳にしたことがある、超有名Vチューバーである。エタクラの配信も度々しているらしく、まあ気にならないわけではないが、俺自身はまだ配信を一度も観たことがない。

 なので、こう書くしかなかった。

 

《白菊菜乃花のことはよくわからんが、俺のよく観る女性Vチューバーはそんな媚びた感じじゃないぞ》


 すると次のレスは光のごとき速さで返って来た。


《どうせ視聴者数の少ない底辺Vだろw 雑魚はお呼びじゃねえんだよ》


 やはり薄々感づいていた通り、奴はVチューバーのアンチというよりかはどちらかというと厄介オタクに近い存在らしい。

 ときわ坂舞香の顔を思い浮かべながら、俺は続けた。 


《いやトップクラスとは言えないが、それなりに人気はあるぞ。そいつは媚びてる感じとかじゃなく破天荒なキャラクターの面白さで売ってるな》


 するとすかさずレスが来て、


《そんなのわざとらしく狂人を演じてるだけに決まってるだろ。ていうかピュア過ぎて草なんだが。怪しい壺とか買ってそうw》


 それならばと、即座に返す。


《演技なようには見えないけどな。料理が得意とイキッておいて自作料理のあまりの不味さにゲロ吐きながら視聴者に慰めてもらうとか、逆に演技だったら凄いだろ。知ってるか? 「ときわ坂舞香」ってやつなんだが》

 

 と、一旦向こうからのレスがピタリと止まった。

 だが俺にはわかっていた。これで終わりなはずが無いと。

 これはきっと、これから想像を絶するほど猛烈な罵倒がやってくる前の、嵐の前の静けさだ。

 少し間を置いて、更新ボタンを押す。


《は? なに? ときわ坂舞香? お前そいつのファンなの》


 少しばかり予想外の返しが来ていた。

 奴も彼女のファンなのだろうか。

 いや、そんなはずはない。おそらくファンであると答えさせた後に、馬鹿にしてダメージを増幅させるつもりだろう。


《別にファンとかではないかな。たまにラジオ感覚で流し見してるだけ。エタクラを周回しながらな》 


 このように書き込み、俺は次なる罵倒に身構えた。

 しかし、相手からの返答はそれ以上なかった。

 三十分待っても、一時間待っても、なにかが返ってくることはなかった。

 繰り返すが、俺はレスバトルの定義において、必ずしも最後に書き込んだ者が勝ちとは思っていない。

 この幕切れの仕方は、到底勝った気にはなれないものだった。



 

 そしてその夜の、ときわ坂舞香の配信のことである。


『はいはーい。今日も舞香の配信が始まるぴょろよー!』


 その日のテンションは、妙に上機嫌だったように思う。

 いや、正確には精神がいつもよりも安定していたというべきだろうか。まあ、彼女の場合は情緒不安定な方が面白かったりするので、そのことについては特に朗報でもなかったが、ひとつ、俺にとって大きな出来事があった。


『今日は、いまさらだけど人気のゲーム、エターナル・クライシスをはじめてみたいと思うぴょろ』


 そう、ときわ坂舞香がエタクラを始めたのだ。

 このことに関しては、昨日までなんの前触れもなかった。

 配信者が話題性のある新しいゲームをやることはよくあるが、エタクラはリリースから時間の経過したゲームであり、このような事態は夢にも思っていなかった。


『うわー、オープニングの映像すごいぴょろ! てか世界観がめちゃくちゃ作り込まれてるぴょろねぇ! あっ、このキャラ可愛いー!』


 突然案件でも舞い込んできたのか、あるいは単なる気まぐれか。

 とにかくお気に入りのVチューバーがエタクラのオープニング映像を見てはしゃいでいる。

 頬をつねってみたが、紛れもなく夢ではないらしい。


『んー、どうしようぴょろかな。そうだ、とりあえずガチャをやるぴょろ! 詳しい人! どれが強いとか色々教えて欲しいぴょろ』


 俺はこのとき初めて、配信の中でコメントというものを書き込んでいた。

 無論、アドバイスも度が過ぎれば指示厨といって煙たがられることは知っている。だが彼女が何も知らないのをいいことに、騙して嵌めたいのか、わざと間違った情報を言っている輩がいたのは見過ごせなかった。

 当然俺のコメントは読まれることなく流されたが、そんなことはもはや二の次だった。


『それでは最初の10連ガチャ! 行くぴょろ! えいっ。うおおおっ、なんだこのオッサン! み、三ツ星銃士ガンテーツ? なんか知らなけどめちゃくちゃ渋くてかっこいいぴょろ!』


 俺にとってガチャというものは、もうSRが当たった程度ではなんの感動もない。しかし画面の向こうの彼女はなにが当たっても絵柄がカッコいいだの可愛いだので、一々歓喜に打ち震えていた。

 ファンというほどではないが、よく見る配信者が自分の好きなゲームを全力で楽しんでくれる。

 まさかこんな形で初心の楽しみ方をあらためて思い知ることになるとは、今日の今日まで思いもしていなかった。

 

 そして、良いことというものは重なるものである。

 ときわ坂舞香がエタクラを始めたのと入れ替わるようにして、「奴」こと「腐った甘ゴリラ」もまた、ネットの世界から何故か忽然と姿を消したのだった。


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