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レスバしてた相手がメンヘラ地雷系Vチューバーだった話  作者: 武藤一光


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第三十三話 悶々スパイラル 

 夜、手元でエタクラのクエストをこなしながら俺は舞香の配信が始まるのを待っていた。

 あれ以来、麻玲衣さんとは会っていない。

 連絡のやり取りすらもしていない。

 当然だ。

 Vチューバーとしての活動を日々続けながら婚活もするとなれば、俺なんかに構っている暇などないだろう。


『はーい! どーもどーも! お前らのアイドルときわ坂舞香ぴょろよー! 今日も元気に配信始めていくぴょろよー!』


 いつものことではあるものの、今日の挨拶はなんとなくテンションが高いような気がする。

 仮にだが麻玲衣さんに彼氏が出来た場合、俺との関係性はなくなるだろう。

 つまり配信の中でしか、この声を聞くことが出来なくなるというわけだ。


『今日はこないだのヒゲ狸戦記の続き、やっていきたいと思うぴょろ! 前回は落とし穴にハマって這い上がろうともがいてたら隠しダンジョンが出てきたんだったぴょろね。今日はどんな冒険が待っているのか楽しみぴょろ』


 俺にも麻玲衣さんのように、新たな人間関係を築くことが出来るだろうか。 

 今更なんらかのコミュニティに首を突っ込んでも、上手くやれる自信などあるはずがない。

 とすれば必然的にぼっちに逆戻りだが、なにも恐れることはないはずだ。

 元来誰とも関わらず一人で生きてきた。

 人は最初から一人で生まれ、一人で死んでいく。

 たとえ寂しくなったからといって、無様に連絡を送って彼女の幸せの足を引っ張るような格好悪い真似はしたくない。


『え、なんか今日はいつにも増して声が元気だってぴょろか? ふふふ。実は今日、ちょっといいことがあったぴょろ。まあ大したことじゃないぴょろけどね』


 いいこと、というのはそれはつまり、いい男が見つかったということではないだろうか。

 元々気合を入れた時の麻玲衣さんの容姿は悪くない。それに加えて最近は自信に裏打ちされた余裕というか、そういった人間的魅力のようなものがある。

 婚活現場でモテていてもなんら不思議ではない。

 だがしかし、あの男を見る目のない麻玲衣さんだ。

 表面を取り繕っただけの悪い男につかまっていなければいいのだが。


『――ということで今日はこの辺で配信を閉じたいと思うぴょろ。お前ら今日も観てくれてありがとうぴょろ。楽しかったぴょろ。おやすみぴょろ~』


 配信が終わるまでの間ずっと、あらゆる発言が匂わせに聞こえてしまった。

 ゆえに内容がほとんど頭に入って来ず、ただ心の中のモヤモヤと格闘していただけの時間にしかならなかったのが残念だ。

 最近はこんなことばかりが続いている。いっそのこと視聴自体をやめてしまおうか。

 いや、彼女を応援すると決めた以上、それではさすがに格好がつかない。

 結局この状況に対する碌な解決策も見出せぬまま、とりあえず布団にくるまることにした。


 ――翌朝。

 少し肌寒くなった風に吹かれながら、いつものように通学路を歩く。

 すると突然、視界の中に見覚えのある女性のシルエットが舞い込んできた。

 眠気の残る目をこすりしっかりと見直すと、それは麻玲衣さんで間違いない。

 しかしボサボサの髪と眼鏡の奥の荒んだ瞳は、前回会ったときとはまるで別人のようだった。


「麻玲衣さん。どうしたんですか」

「……陽くんさ。ちょっと、お話しない?」

「えっと、これから学校ですよ」

「いつ終わるかな。それまで待ってるか」


 こうして生の声を聞くのは凄く久しぶりだ。

 配信中のときわ坂舞香は相変わらずの明るさだが、今目の前にいる麻玲衣さんはなんというか、今にも消え入りそうな感じである。


「話ってなんの話ですか」

「近況報告とか、色々」

「今すぐ行きます。学校はサボることにします」

「いいの?」

「切羽詰ってそうな感じですし。一日くらい休んだって平気です」

「じゃあうち、行こ」


 言われるがまま、懐かしさすら覚える道を辿り、麻玲衣さん宅へと向かう。

 近況報告というからにはおそらく婚活についての進捗の話だろう。

 素直に表情から察するとあまり芳しくはなさそうだが、そう思わせるためのブラフの可能性もある。

 とにかく、どちらに転んでも受け入れる覚悟をする必要はありそうである。


「そう言えば、こないだの配信面白かったです。あの、モノマネのやつ」

「そっか。ちゃんと観てくれてるんだ」

「はい…………」


 道中の会話は一言二言でぶつ切りに終わり、それを幾度か繰り返した後に完全な沈黙となった。


「言っとくけど部屋、汚いからね」

「いつものことじゃないですか。むしろ綺麗に片付いてたら逆に腰抜かしますよ」

「それもそうだね」


 ガチャ。

 ゆっくりとドアが開かれると同時に、この部屋特有の匂いがぶわっと立ち込める。

 前に来たときと基本的に風景は変わっていない。

 しかし目についたのは最初に訪れたとき以上に盛られていた、ビール缶の山だった。


「陽くん。あのさ」

「はい」

「お酒、飲む?」

「いえ、いりませんけど」

「じゃあ私だけ飲んでもいい?」

「どうぞ、ご自由に」

 

 冷蔵庫から新たなビール缶を取り出し、麻玲衣さんは豪快な一口を決め込んだ。


「ぷはーーーっ!!」

「麻玲衣さん?」

「…………陽くん」

「はい」

「あのね、実は――」


 ふるふると、麻玲衣さんの肩が震えている。

 この時点で、なんとなく察することができた。


「ゔぇぇぇーーん!!! 婚活上手くいかないよぅーー!!!」


 悲しき叫びとともに、麻玲衣さんは子供のように泣きじゃくった。

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