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レスバしてた相手がメンヘラ地雷系Vチューバーだった話  作者: 武藤一光


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第二十六話 田舎に行こう 

 祖父母の家は山奥の田舎にある。

 そしてそのさらに奥には祖父の所有する小さな山がある。

 そこには最低限生活できるだけの小屋があり、夏休みの間友人と泊まるからしばらくの間貸して欲しいと頼んだところ、許可が出た。

 虫は出るし不便なところもあるものの、夏でも比較的涼しく、なにより空気が美味しい。

 滞在は数日ほどになるだろう。その間、バイトは休むと店長には伝えてきた。

 ガタゴトと小気味の良い音を立て、列車は揺れる。

 のっけから麻玲衣さんはテンションが高かった。

 ふと鞄から一冊の本を取り出しかと思うと、ドヤ顔で見せ付けてきた。


「じゃーん。ほら、山に生えてる植物の図鑑だよ。この中のやつ、どれだけ見れるかな」

「それはわかりませんが、毒があるやつかちゃんと見極められるようになるのは確かに大事ですね」

「間違って食べて一緒にあの世行っちゃうかもね」

「怖いこと言わないでください」

「冗談だよっ」


 麻玲衣さんは食い入るように本を読んでいる。

 まるで遠足前の小学生だ。


「でも思った以上に楽しみにしてくれてるみたいで良かったです」

「だってワクワクするじゃん。陽くんが有無を言わせず私を田舎に連れ込んだんだよ」

「その言い方には語弊があります。有無は言わせましたよ」

「はは、それを抜きにしても普通に楽しみだよ。山の中って言ったら軽く別世界だよね」


 確かにそれは言い得て妙だ。

 俺自身、過去にネットでいざこざがあってイライラしていたとき、たった半日帰省しただけですべてがどうでもよくなった覚えがある。今回彼女を連れてくることを思いついたのにも、背景にその経験があったからだとも言える。

 そもそも、あそこでは物理的にネットが繋がらない。

 ただし、あまり舐めた認識でいると大変な思いをするのが山での暮らしだ。


「麻玲衣さん、山での生活の経験は?」

「もちろんないよ」

「随分あっけらかんと答えますね。不安とかはないんですか」

「全然。だってなんかあったら陽くんが守ってくれるでしょ」

「頼られるのはありがたいですが。……まあ誘ったのは僕ですし、努力はします」


 麻玲衣さんは顔を上げ、にんまりとした表情で見つめてきた。


「ふふーん♪」

「なんですか。もしかして顔になんかついてます?」

「いやいや。なんていうかその背伸びしてる感じ、いいなって」

「茶化さないでください」


 こちらから言い出した立場とはいえ、この人としばらく生活を共にすることに不安がないと言えば噓になる。

 しかもなにかがあったときに責任取る立場にあるのは、間違いなく俺だ。


「ふふ、やっぱりいい男だよ陽くんは。過去私が会って来た男たちのなかで断トツにね」

「いやだから麻玲衣さんの過去知り合ってきた男性たち、どれだけダメ人間なんですか」

「山奥の小屋に男女二人きり。なにも起きないわけもなく」

「言っときますが、俺はただ麻玲衣さんにリフレッシュして欲しいだけですからね。寝るところもちゃんと敷居作って別々にしてもらいますし」

「はいはい、真面目なんだから。まあいつ襲われるか楽しみにしてるよ」

「だから襲いませんって」


『まもなく、白牛山に到着いたします。お降りの客様は、お忘れ物のないよう、お注意ください』


 低く、抑揚のある車掌の声により、降車予定の駅名がアナウンスされる。

 ひっきりなしに会話をしていたからか、過去に一人で帰省した時よりも乗車時間は短く感じた。


「次だよね、降りるの」

「そうですね」

「ねぇ、さっきからスマホばっか見てなにしてるの?」

「向こうに着いたらしばらくエタクラはプレイできませんからね。ギルドのみんなに挨拶しとかないとその間にクビにされかねませんし」

 

 駅に降り立つと、早速都会では聞き慣れないセミの鳴き声が迎えてくれた。

 そこからバスへと乗り換え、田園風景を横切りながら山の方へと向かっていく。

 その間も麻玲衣さんは相も変わらずはしゃいでいた。

 祖父母宅は降りたバス停から目と鼻の先にある。

 呼び鈴を押すと、出てきた祖父は麻玲衣さんの姿を見るなり目を丸くした。


「あれま、驚いた。友達ってのはその女の人かい?」


 この反応は想定済みだ。

 友人を連れてくるとは言ったが、それが大人の女性だとは伝えていない。

 麻玲衣さんは軽くお辞儀をすると、聞いたこともないような愛想の良い声を発した。


「常坂麻玲衣といいます。どうもお世話になります」

「ほほぅ。陽翔も隅におけんの」

「いやいや。そんなんじゃないから」

「まあ、もう子供じゃないんだから何事も人生経験は大事だな。なにか困ったことがあったら遠慮せず相談しに来いよ」

「うん、そのつもりでいるよ」


 祖父はあまりこちらの事情に干渉してこないタイプだ。だからこそ、今回の計画を立てられたとも言える。

 宿泊予定の小屋はここから徒歩でさらに山奥に入ったところにある。

 途中断崖絶壁の箇所であったり、倒木が道を塞いでいたりする場所があるのでそういうところは慎重に通らなくてはならない。


「はぁはぁ……陽くんってば。ねえ、そろそろ休まない?」

「もうすぐ着きますよ」

「そうなんだ。ところでこの辺ってさ、熊とか出るの?」

「さあ、熊はあまり聞かないですけど十分気を付けていきましょう。でも猿とか猪は出ますよ。あ、着きました」

「わぁっ、いいじゃん! 雰囲気あるぅ!」


 一見喜んでいるようなセリフだが、麻玲衣さんの口元は若干引き攣っていた。

 なにせ築何十年かわからない、くたびれた木造建築の小屋である。彼女の住む高級タワーマンションと比べれば、凄まじい落差に思えることは想像に難くない。

 一応俺たちが来るにあたって、周囲の雑草を刈ってくれていたり、軽い掃除はしてくれていたようだが、もう少しばかり自分たちでもしたほうがよさそうだ。


「とりあえずご飯にでもして、今日は早めに休みましょうか」

「いいねいいね。そうしよう」

「ここに材料は持ってきました。麻玲衣さん料理は……以前作ってくれたカレーは美味しかったですけど」

「こんな山小屋の設備でキャンプ料理みたいなのはしたことないよ」

「ですよね。俺も未経験ですが、なんとか作れそうなレシピを用意しました。手伝ってくれると幸いです」

「もちろん。ふふ、はじめての共同作業だね」

「それ、言い方がなんか」

「まあまあ。で、なにをすればいいの」

「まずはたき火の準備からですね。薪はあらかじめ用意してあるので……」


 このときはまだこれからこの生活がどのようになるのか、想像すらもつかなかった。


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