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レスバしてた相手がメンヘラ地雷系Vチューバーだった話  作者: 武藤一光


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第二十五話 偽りの処刑場から連れだして

「いきなり来るんだもん。びっくりしたよ。家の前まで来ちゃったらさ、もう帰ってもらうわけにもいかないじゃん」


 口調は明るいが、麻玲衣さんの声は少し掠れている。


「すみません、急に来て」

「お茶とか全然用意できてないんだけど」

「構いません。こっちもなにもお土産持ってきてないですし。少しだけ話がしたかっただけですから」

「そっか。まあ、上がってよ」

「失礼します」

 

 靴を脱いで部屋に上がる。そこには相変わらずのゴミ屋敷が広がっていた。

 だが以前にも増して散らかり具合は酷くなっているような気はした。


「部屋、汚いよね。片付ける気とか起きなくてさ」

「部屋が汚いのは前からでしょう。別に驚きませんよ」

「はは、そうだね」


 見つめ合い、作り笑いを返す。

 最初の一言目がなかなか出てこない。

 そんななか、先に声を発したのは麻玲衣さんの方だった。


「……ヤバいよね、今の私。その、あんまりエゴサとかしない方がいいんだろうけどさ、見れば見るたび批判の数エグくなってて、もうどうしたらいいのやら」

「今はそんな状況ですが、大多数の人はそのうち飽きますよ」

「そうかな?」

「そうですよ」

「私っていつもそうなんだよね。社会人時代から、いつも余計なトラブル起こして全部ダメにしちゃうんだ」

「このまま辞めないですよね、ときわ坂舞香」


 返答はすぐには来なかった。

 少し間を置き、麻玲衣さんはまるで考えを纏めながら喋っているかのように口を動かした。


「配信をやめてさ、ある程度時間が経って少し自分を見つめ直してみたんだ。なんていうか、やっぱりどっかで無理してたんだなって思う」

「俺の気持ちは辞めて欲しくないです。ときわ坂舞香の配信がないと寂しいです」

「ありがとね。そう言ってくれると心から嬉しいよ」


 感謝の言葉とは裏腹に、声からは覇気がまったく感じられない。


「そんな風に気にかけてくれるのは陽くんだけだよ。前の事務所の仲間の連中なんて酷いんだよ。メールの一つも寄こさないんだから。別れるときまでは友達ごっこしてたけど、どうせ心の内ではライバルが一人減ったとほくそえんでるんだろうね」

「さすがにそんなことはないんじゃないですか」

「いいや。そんなことあるね、絶対」


 いつぞやのずぃーカンパニーの集まりが目に浮かぶ。

 正直、それについてはあながち被害妄想とは言い切れないのかもしれない。


「でも心配してるのは俺だけじゃないですよ。ときわ坂舞香の復活を待ち望んでいるファンは他にも大勢居ます」

「そうだよね……」

 

 もちろんそのことについては本人も知っているはずだ。

 応援コメントの中には俺が見ていても心温まるものが多い。

 しかし彼女が浮かべたのは、ただ力のない笑みのみだった。


「視聴者さんたちには悪いけど、今はちょっと復活させる自信ないかな」

「辞めてどうするんです? これから」

「なにもしたくない。このまま、静かに朽ちてしまいたいかな」


 膝を抱える痩せ細ったその手は小さく震えていた。

 なにか励ましの言葉の一つでもかけるべき場面なのだろうが、何を言えばいいのか分からない。

 まったく、こんなところで対人経験のなさが足を引っ張るとは今まで生きてきて思いもしなかった。


「陽くん、こないだ言ってたよね。ファミレスで私の性格ならいつか大炎上やらかす可能性あるって」

「いや、あれは……」

「ほんとにそうなっちゃったね」

「あのときはその、冗談のつもりで。マジで思って言ってはいないです」

「この仕事ならって思ったんだけどなあ。私、生きることそのものが向いてないのかな」

 

 なにかを言わなくてはマズい気がする。

 たとえ魔法の言葉は出なくても、少しでも前向きにさせるなにかを。

 なにか、なにか――。

 考えども考えども、その一言が出てこない。


「でも最後に陽くんに会えてよかったな。舞香をやれなくなった以上、もうここの家賃払えないからさ。近いうちに出て行こうと思ってたんだ」

「麻玲衣さん」

「もし私がいなくなっても、私の顔は三日に一度くらいは思い出して」

「あの、麻玲衣さん」

「なに? 愛の告白とかだったらちょっと感動して泣いちゃうよ?」

「俺と田舎に行きましょう」

「えっ?」

「大学がちょうどこれから夏休みに入るんです。俺と一緒に世間から離れた山奥の田舎に行って、しばらくの間暮らしましょう」

「えっ! いや、えっ!?!」

「ネットの世界の炎上なんて、所詮は偽りの処刑場なんです。大自然と戯れているうちに、きっと嫌なことは綺麗さっぱり忘れられるはずです」


 単なる思いつき以外の、なにものでもなかった。

 一度ネットから離れて長閑な田舎の暮らしに目を向ければ、なにかしら気分転換になるかも知れない。

 そんな根拠もない単純なロジックで、咄嗟に口から出た言葉だった。

 麻玲衣さんは口を大きく開け、パチパチと瞬きをした。


「陽くん……」

「な、なんですか」

「もう、強引なんだから。それってつまり、……愛の逃避行(そういうこと)、だよね」

「あ、いや。別に変な意味はないですよ。それに、気が進まなければ無理にとは言いませんし」

「行く。絶対く!」

「そうですか。良かったです」


 食い気味に返事をした麻玲衣さんの目は爛々と輝いていた。

 もっと上手い言い方があったのかも知れないが、なんにせよ、少しは元気が出てくれたようで幸いである。


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