第二十話 バチバチのファンファンパーク
『皆さまご機嫌よう。今日は告知してありました通り、あるゲストの方とともにファンファンパークのほうに来ております』
白菊菜乃花の妖艶な声から配信は始まった。
入場口を背景にして映像では首から下のみが映っているが、視聴者があの美人過ぎる顔面を拝めないというのはシンプルに残念だ。
『はーい。ときわ坂舞香だぴょろ~。今日は大物Vチューバーの白菊菜乃花さんにこんな素敵な遊園地にご招待いただけて大変光栄ぴょろ~!』
麻玲衣さんは白菊の中の人の方へと体を寄せ、ノリノリでピースサインを決めてみせた。
この時点では、実に仲良さげである。
『えー、現在ファンファンパークは私の財力により貸し切りにしております。さらに園内を取り囲むようにして五十メートル間隔でボディガードを設置しておりますので、身の安全はバッチリ確保しておりますわ。どうか無用な心配はなさらずに、わたくし達の優雅なひと時をお楽しみください』
白菊の背後には、黒服にサングラスを着用した体格の良い男がでかでかと映り込んでいた。
人気Vチューバーによる遊園地オフコラボ企画ともなれば変な輩に凸されるリスクも当然あるだろうが、なるほどこれなら大丈夫そうである。
しかしこれほど金に物を言わせるやり口、どうやら白菊菜乃花がリアル大企業の社長令嬢であるという話は本当らしい。
麻玲衣さん曰く、高級外車を乗り回し、ファーストフードを食べた事ないなどと宣う嫌味ったらしい女だったそうで、金と権力を駆使し他者にできない企画をやることでどんどん人気を獲得していったという。
白菊菜乃花は、園内をゆったりと歩きながら語りを始めた。
『皆さまご存じの方もいらっしゃるようですが、舞香さんとわたくしはある筋で知り合ったお友達ですの。とっても仲良しさんですのよ』
コメント欄ではときわ坂舞香の前世を示唆する内容がちらほら湧き出ている。
『前世? はてなんのことぴょろ? 偶然知り合ったお友達ぴょろ。はぁ~、それにしてもリアル白菊さんはお金の匂いがして眩暈がするぴょろね。緊張して今日の舞香は若干よそ行きモードぴょろ』
『舞香さん。聞くところによると先日、ご自身の配信でくたばれ白菊などとおっしゃってらしたとか』
『き、気のせいぴょろ。言ってたとしても別人のことぴょろ。やだなあ、舞香が白菊さんにそんな暴言吐くわけないぴょろよ』
麻玲衣さんは漫才師のツッコミのようなノリで、白菊の背中を強打した。
『おや、なにやら面白そうな場所がありますわよ舞香さん。エタクラコラボカフェですって。そういえば舞香さんもエタクラ、プレイしてましたわよね』
『別に白菊さんの真似して始めたんじゃないぴょろけどね』
以前、なぜエタクラの掲示板を荒らしていたのか、麻玲衣さんに尋ねたことがある。そこで返ってきた答えというものが白菊がエタクラの配信で人気を出していてムカついたから、というものだった。
後に案件が舞い込んで自身もプレイし始めたことで荒らしからは足を洗ったとのことだが、もしこの事実が世間に知れ渡っていたら今頃社会的に抹殺されていたことだろう。
『エタクラに関しては白菊さんより後から始めたぴょろけど、舞香の方が確実にやり込んでる自信があるぴょろ。はっきり言って白菊さんはエタクラの本当の魅力がわかってない! だから今日は舞香がこのエタクラカフェで、そこんとこをみっちり教えてやるぴょろよ』
『あらあら、それは楽しみですわね。では早速、お店の方に入っていきましょうか』
『その前に! ちょっと待ったぴょろ!』
『あらなんですの』
『お色直しぴょろ! じゃじゃーん! 烈火の姫騎士・リアンヌ、参上!』
麻玲衣さんは先日やったときのように上着を脱ぎ去り、胸元のぱっくり開いたビキニアーマーを着用した、エタクラキャラのコスプレ姿へと変身した。
確かに、本番はもっと面白いネタを用意していると豪語していただけのことはある。
しかし、これを爆乳キャラで知られるリアンヌと言い張るには圧倒的な胸部のボリューム不足が否めない。
『ふっ、そうきましたか。……ほう! リアンヌか。ひさしいのう!』
白菊はリアンヌの旧友にしてライバルキャラである、占い師タオメイのセリフを言い放った。
服装こそ普段着のままだが、声色、イントネーションおよび飄々とした雰囲気は、ゲームの中からそのまま出てきたと言っても過言ではない再現度だ。
そのあまりのクオリティに、コメント欄は大盛り上がりを見せている。
誰がどう見ても、物真似勝負の勝敗は明白だった。
『ぐぬぬ。なんという完成度、ぴょろ……』
『さ、店に入ろうぞ』
店内に入るなり麻玲衣さんは借りてきた猫のようにおとなしくなり、以降、キャラのセリフを口走ることはなくなった。
『いやあ、どのお料理も庶民的なお味がして美味しかったですわね。店員さんも皆コスプレをしてらして、舞香さんの恰好が悪目立ちしない楽しい空間でしたわ』
『そ、そう、ぴょろね……』
『さて、腹ごしらえも済んだことですし、これから二人でファンファンパークのアトラクションを遊び尽くしましょうか』
『そ、そうぴょろ! こっからが本番ぴょろ! ここの絶叫マシンはかなり怖いと噂ぴょろけど白菊さん、そのすかした態度を貫けるぴょろか? ちなみに舞香はこの手の乗り物大得意ぴょろ』
息を吹き返したかのように、ときわ坂舞香の声に威勢が戻る。
絶叫マシンということはつまり、あのとき意気揚々とメモに書き込まれた作戦の出番ということである。
『それではまず手始めに、まずはあのジャイアントスインガーから行きましょうかしら』
『甘いぴょろ! そうやって比較的マイルドなやつから徐々に慣らしていく魂胆だろうがそうはいかないぴょろ。初っ端から、あれに行くぴょろ』
麻玲衣さんが指さしたのは、この間は結局最後まで乘らず仕舞いだった、あの怪物級コースターだった。
『ドラゴンダイブコースターですか。いいでしょう。構いませんわよ』
『くー! 少しはビビればいいのに、可愛げがないぴょろね。だけど白菊さん、舞香はドラゴンダイブコースターの恐怖を増大させる恐ろしい作戦を考えてきたぴょろ。付き合ってもらうぴょろ』
『あら、なにかしら』
『途中で横から手で目隠しをするぴょろ。落下中にいきなり目の前が真っ暗になったら怖いに決まってるぴょろ』
『……思うのだけど、なにも見えなければ怖いもなにもないのでは』
『あっ』
そしてコースターは二人を乗せ、おぞましい起動音とともに動き出した。
『あああああああああ! ひぃぎゃぁあああああ!』
『あらあら、舞香さん。わたくしに目隠しをしてくださるんじゃありませんの? もうすぐ終わりますわよ』
『あああああ! おおおおお! ぐぅぉおおおおおお!』
恐ろしい光景だ。他の絶叫マシンでは俺の横で散々余裕をこいていたあの麻玲衣さんが、情けない声を出して叫んでいる。
しかしそんな中でも白菊菜乃花はまるでティータイム中の談笑であるかのように、平然と状況をレビューしてのけた。
『はぁはぁ、安全バーから手を離す余裕なんてなかったぴょろ。白菊さんはなんでそんなに余裕があるぴょろ』
『普段からサーキットで自家用レーシングカーを乗り回したりしておりますので、これくらいのGでは恐怖を感じませんわ』
『ぐぬぬ、ぐぬぬぬぬ……』
その後も麻玲衣さんは白菊のペースを乱すべく、あの手この手でちょっかいを出し続けたが、そのどれもが悉く華麗にいなされ、逆に彼女の株を上げる羽目になった。




