牡牛(おうし)のような、私の彼女
牡牛みたい、というのが私の、彼女への評だ。女性に対して、こんなに失礼な表現もないんだろうけど、彼女は標準より身体が大きくて。そして私は、そんな彼女の体型がたまらなく好きだった。
「体重がある程度を越えると、男は寄ってこないんだよ。私を怖がって」
そう言う彼女は獰猛な笑顔を見せた。私は車に詳しくないけど、世の中にはスポーツカーよりも大型トラックを好む人がいるそうで、その感覚は良く分かる。大きい存在に包まれると、自分が守られているような安心感を私は覚えるのだった。
休日は、家の中で彼女と過ごす。平日のオフィス街は息が詰まって、そして出不精の私たちは休日にも出かけたくないのだ。出不精という単語を私が口にすると、「誰がデブ症だよ」とボケて、彼女は私を追い詰めてくる。私は笑いながら逃げて、そして少しずつ彼女を誘い込んでいく。
ネット動画で見たけど、バッファローという牛はライオンよりも強いらしい。そんな風格さえある彼女の前で、私は闘牛士のように、ひらひらと動いて見せる。彼女の目に、欲望の炎が灯っていくのが分かった。
やがて私は手首を掴まれる。「細枝みたいな腕だよな」と彼女が言って、少し力を籠めれば私の腕は容易く折れるのだろう。私に恐怖は無い。彼女は肉食獣と違って、私に噛みついたりはしないのだから。牡牛は交尾の際に、圧し掛かってくるだけだ。
動画で見た、野生動物がいる草原を思い起こす。動物で言えば、私は細身のインパラだろうか。シカのような見た目で、しかし実際はウシ科らしい。だから私は、牡牛のような私の彼女に惹かれるのだろう。
目を閉じる。野生の匂いが近づいてきて、すっぽりと私は包まれる。「可愛がってやるよ」という耳元の声に、たまらなく心と身体を震わされる。大地と彼女の間に挟まれて、目を閉じたまま草原の中で青空を見上げた。
全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れ。その姿は美しく、大地は激しく揺れた。




