閑話 NTR
~5年前の駿府~
「・・・決めた!
ボク、今川義元様に仕官するよ!」と山本勘助(以下勘助)。
「ふーん、何で?」と藤林長門守(以下保豊)。
「駿府で大切にしたい娘に出会ったんだ。
ボクは彼女のためなら何も惜しくはない!
駿府に骨を埋める!」と勘助。
「じゃあ俺も駿府で仕官しようかなー?」と保豊。
「相変わらず良い加減だな・・・でもそうなったら同じ主に仕える事になるんだな!
これからもよろしく!」と勘助。
~話は岡崎城へ戻る~
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・久しぶりだな」沈黙に耐えきれず保豊が口を開く。
「あぁ。
・・・やっちゃんは元気か?」と勘助。
「『やっちゃん』?
誰?」と保豊。
「ボクから寝取った女の子『やす子』だよ!」と勘助。
「そうだ、思い出した!
でも今どうしてるんだろうな、知らないよ」と保豊。
「知らない、って。
ボクはあの子の幸せを願って、身を引いて駿府から出て放浪して、武田でやっと仕官先を見つけたんだぞ!?
お前は駿府で仕官しなかったのか!?」と勘助。
「したした、したよ。
今川義元様に仕官したよ。
でも募集は『若干名』だったぜ?
俺は別に軍師を目指してた訳でもないし、俺が仕官したからって競合はしなかったとおもうぜ?
何で『勘ちゃん』も駿府で仕官しなかったんだよ?」と保豊。
「だから言っただろうが!
ボクは身を引いたんだよ!
『やっちゃん』と君が上手くいくように!」と勘助。
「あ、それ、勘ちゃんの勘違い。
『勘助』なのに『勘違い』ってか。
ハハハ上手いね、どうも」
「全然上手くないし、面白くもない!」
「つーか、俺はあの娘の事、特に何とも思ってなかったよ?」と保豊。
「コイツ・・・相変わらず最低な男だ!
女は寝取るわ、金は返さないわ、足は臭いわ・・・」と勘助。
「足の臭いは関係ないだろ?」と保豊。
「あるんだよ!
嫌いになると次々に欠点が見えて来るんだよ!」と勘助。
「・・・まぁ良い。
君のおかげで放浪して、甲斐で『武田信玄様』と出会えたからな。
君には感謝しないといけないかも知れない。
対して君は駿府で主を失ったんだろう?」と勘助。
「?
失ってないが?」
「じゃあ何故『織田信長公』に仕えているのだ?」
「勘違いをしているようだから言うが、俺は信長様に仕えてはいない。
信長様は『主の主の主』だから、仕える事は吝かじゃないんだが信長様本人が『仕えてくれるな。忍は好かん』と仰っているのだ」
「?
訳がわからん。
では今も君の主は『今川義元』なのか?」
「その通りだ」
「亡くなった主をいまだに『主』と呼ぶのは素晴らしい事だ。
主をコロコロかえるヤツより信用出来る。
しかし君は信長公について、岡崎城くんだりまで来たのだよな?
言ってみれば信長公は『主の仇』だ。
君の言っている事と矛盾しないか?」
「勘ちゃんは何か誤解をしているみたいだ。
俺が岡崎に来たのは『主の主』に従って、だ。
信長様に従ってではない。
本来、主に真っ先に従うべきなのだろう。
しかし『主の主』曰く、『主は室内飼い』だそうだ。
つまり外に出ない主に従っていても、やることがないのだ」と保豊。
「?????」勘助は保豊の言っている事がまるでわからない。
「・・・まあ良い。
ボクが君に頼ったのは他でもない。
ボクには『男女の機微』がイマイチ理解出来ない。
だから君に女を寝取られた訳だが・・・。
今はそんな話はどうでも良い。
君に頼りたいのはまさに『男女の機微』という部分だ。
どうやら勝頼様は現実の女性には興味を示さないらしい」
「『現実の』?」と保豊。
「そうだ。
勝頼様はあろうことか『描かれた女性』のみに興味を抱くのだ」
「訳がわからんな」
「バカだからな。
・・・じゃなくて少しかわっているからな」と勘助。
「聞いた話では今回の勝頼様の縁談のお相手もあまり男性に興味を示さないらしい。
そこで『穴が開いていれば木のウロでも良い』と噂された『発情の達人』である君の出番だ」と勘助。
「何か憎しみがこもってないか?」と保豊。
「憎しみがこもってないわけが・・・いや、気のせいだろう。
お二人を何とか『その気にさせる方法』はないだろうか?」と勘助。
「本来なら手を貸す事は出来ない。
『忍は主以外の命令は聞かない』からだ。
しかし今回は『山本勘助の力になってやれ』と指令を受けている。
力になるぞ!」と保豊。
「ありがとう!
・・・で、具体的にどう力になってくれるのだ?」
「任せておけ!
この『媚薬香』があれば、どんな貞淑な淑女でも遊女のように大胆になる」
「そんなに効果があるのか?」
「効果は勘ちゃんの彼女で実証済みだ!
『やっちゃん』だっけ?」
「テメーだきゃあコノヤロウ!!!!
・・・失礼した。
今はそれどころじゃない。
勝頼様は常日頃から『淫乱な女は嫌いだ。自分だけに乱れる女が良い』などと言われている」
「何、都合の良い事言ってるんだ?
狂ってるんじゃないか?」と保豊。
「本当に・・・ではない!
勝頼様は純粋なのだ!」
「何か本音が滲んでなかったか?」
「とにかく!
それはダメだ。
勝頼様は性に奔放な女性を何より嫌う」
「だったらしょうがないな。
『媚薬香』ほどの効果はないが、男性にだけ効果を示す『絶倫香』を使おう。
勝頼殿が『その気』になれば良いのだろう?」
「若干の不安は残るがそれで行こう!」と勘助。
この『勘助の不安』は的中する。