熱海康介
「子持ち既婚者に許されるラッキースケベじゃない!
ちょっとエッチなマンガの主人公か!?
遊人のマンガか!?
この変態め!」と養観院。
「人聞きの悪い事を言うな!
医者は患者の身体を触診するモンだ!」と光秀。
利家が勤めから長屋に帰って来た時には外まで養観院と光秀の言い争いが聞こえてきていた。
義昭が伊賀で倒れたから「念のため診察をしよう」と光秀が言い出した事が切っ掛けらしい。
だから養観院とねねが羽交い締めにして光秀を止めていた。
ねねは「何で光秀を取り押さえなくてはいけないか?」全くわかっていなかったが、ノリで養観院と一緒に光秀を取り押さえた。
それを見て利家は「ああ、今日も清洲は平和だな」と感じた。
そして義昭はまたしても『遊人』という単語に過剰反応して「『遊人』とは何だろう?」としばらく眠れぬ夜を過ごした。
その晩、光秀は『今川義元を捕らえた経緯』を長屋で利家から聞いた。
「『石混じりの雨が降ってくる』『田楽窪方面に義元は逃げる』
養観院の『予言』は神がかっていた。
『予言』に従い、今川義元は捕らえられた」と。
光秀は知っている。
『それは予言じゃない』と。
『未来から来た養観院は起こる事がわかっていたのだ』と。
その知識に従い養観院は信長に助言した。
その結果、史実以上の大勝利を信長はおさめただけでなく、首を斬られるはずの今川義元を生け捕りにした。
そこで光秀は気付く。
時代は中々変えられないはずだ。
自分は斎藤道三の死がわかっていながら、その確定した未来を変えられなかった。
だから半ば諦めていたのだ。
「どうせ未来は変えられない」と。
なのに、武士ですらない養観院がこれだけ大きく未来を変えている。
自分にももしかしたら未来を変えられるんじゃないか!?
明智光秀の中に小さな『野望』の火が灯った瞬間だ。
これが『吉』と出るか『凶』と出るかは今はまだわからない。
光秀もまた『転移人』、『転生人』ではない。
『徳が足りない』のだ。
つまり光秀は聖人ではない。
医学生として『救命活動』はした。
それで『転移する権利』を得ただけの一般人なのだ。
光秀は自分では気付いていないが、充分に時代を変えるだけの『切っ掛け』を作っている。
元いた時代ではなかった『義昭陣営』と『義秋陣営』の対立構造を作り出したのだ。
「そうか。
藤林長門守殿は今川義元の手下だったのか。
そして、ようかんがたまに言ってた『ぱとらっしゅ』というのが『今川義元』の事だとはな・・・」と利家。
「元は残飯処理の方法を探して、清洲城の中をウロウロしてただけなんだよ。
・・・で偶然、今川義元を地下牢で見つけて餌付けが始まったんだよ」と養観院。
「『海道一の弓取り』と言われた男も今や残飯処理か・・・」としみじみ利家は言う。
「この件は信長様に俺から報告しておく。
光秀殿も同席してくれ」と利家。
正直助かる。
養観院から信長に言うと余計にこんがらがる。
「しかし、藤林殿は何でアッサリ引き下がったのかね?
忍者の忠義は『執念』を感じる凄まじいモノだと言う話だが。
『主を解放してくれ!』ぐらいは懇願すると思っていたが・・・」と利家。
「それは俺も思っていた事だ。
あまりにもアッサリ藤林殿が引き下がったから拍子抜けと言うか・・・。
もう新しい主の目星がついているのかも知れぬな」と光秀。
「『新しい主』か。
誰なのだろう?」と利家。
「俺は伊賀の会談の時にいた誰かだと睨んでいる。
誰かまではまだわからんが・・・」と光秀。
「しばらく要注意だな」と利家。
光秀の予想は良い線を行っている。
確かに藤林の『新しい主』は伊賀の会談にいた人物だ。
しかしそれが養観院だとは、あと10年予想しても正しい答えに辿り着かないだろう。
『何故、藤林長門守が今川義元の解放を望まなかったのか?』
今川義元の主、つまり養観院が『解放を望んでいないから』だ。
養観院は今川義元を地下牢で飼っている。
地下牢から解放しようとはしていない。
藤林長門守にとって、主の主の考えは絶対なのだ。
だから今川義元はそのまま地下牢に閉じ込めておこう、と。
今川義元がプライドを発揮しないで、あの場で黙っていなかったなら。
藤林長門守に一言『助けてくれ!』と泣きついていたら全然違う展開になっただろう。
だが全ては終わった話だ。
忍者達は今川義元よりも養観院を主として優先する判断をしてしまったのだ。
翌日、利家と光秀が信長に今川義元の事を報告する。
地下牢に養観院達や、忍者達が忍び込んだ事は伏せて。
報告したのは『実は藤林長門守は今川義元の配下だった』という話だけだ。
「だから何だ?
『今川義元を解放しろ』と?
それとも『藤林長門守を雇え』と?」と信長。
「いえ、そのような事は・・・。
ですが、藤林長門守は信長様の配下になる事を望んでいるようです」と利家。
「ふん、俺は忍は好かん。
だがキンカ頭と義昭様はあの忍らに一定の恩義を感じているのだろう?」と信長。
「はい、仰る通りでございます」と光秀。
「面倒臭いのう。
誰か我が配下であの者達を雇いたい者はおらんのか?
そうだ、滝川一益などはどうだ?
ヤツならば領地が伊賀からも近いし、忍者にも詳しかろう?」と信長。
「そのように手配はしますが、もしかしたら藤林が『滝川に仕えたくない』と言う事も考えられます」と利家。
「なら、アイツらを伊賀へ送り返せ。
こちらが『我が陣営にいてくれ』と頼んだ訳じゃない」と信長。
「「はっ畏まりました」」と利家と光秀。
「滝川一益に仕えろ」という信長からの命令を藤林長門守は断る。
「ならお前ら、伊賀に帰れ」という話なのだが・・・。
「藤林は何故か養観院を主と定めたようです」と利家。
「何でやねん」
そりゃ信長も思わず偽関西弁になる。
「如何しましょうか?」と光秀。
「面白いから放置の方向で」と信長。
こうして養観院は信長公認で忍者軍団の長になった。




