インテリ
寺を一行は出発する。
目的地は『津』だ。
『津』から荒子の『舟入』まで船で向かう。
荒子は前田の生家があり、利益とはここで別れる事になりそうだ。
津までは大した距離ではない。
義昭は馬で向かう事になりそうだ。
・・・義昭様って馬乗れるのかな?
なんとか乗れるっぽい。
僕は乗れないのに・・・。
しかし義昭様は何でか目の下にクマ作ってるし寝不足っぽい。
何でだろ?良く寝てたじゃん。
津の港には九鬼嘉隆が軍勢を率いて来ていた。
伊勢周辺は群雄が割拠していて、織田信長がフラフラしていて良い環境ではない。
でも今回の遊説は信長の示威行動も兼ねている。
『やれるものならやってみろ、こちらに手を出したらお前らは終わりだぞ』と喉元に刃物を突き付けているようなモノだから、反抗勢力もおいそれとは手を出せない。
だから九鬼嘉隆による信長の護衛も『余計なお世話』と言えなくもない。
「コイツら海賊だよね?
前に伊勢の港に入ろうとした時に、九鬼の海賊にエラい目にあいそうになって、三島まで漂流したんだよね。
死ぬかと思ったよ」
「・・・って事は九鬼がいなかったら俺らは出会わなかった、って事か?」と利家。
「いや、それはない。
僕は元々清洲に行こうとしてたし。
三河まで行かなくても結局会ってたんじゃないかな?」と僕。
(いや、養観院がいたからこそ俺らは桶狭間から生きて戻れたんだ。
ある意味、俺らは九鬼に助けられたんだ)と利家は思ったが口にしなかった。
「君は九鬼を海賊って言うけど、九鬼って確か明治時代に爵位与えられて華族になってるぞ?」と光秀。
「え、ウソ?
でも下っ端はヒャッハーで世紀末な感じだったよ?」と僕。
「『村上水軍』なんかもそうだけど『水軍』を『海賊』って表現するのは微妙に違うんだよなー。
九鬼も上層部は豪族の出だぞ?
そりゃ海の男達の末端は上品じゃないかも知れないけど、九鬼自体は結構名門だぞ?」と光秀。
「『海賊王に俺はなる!』みたいなノリじゃないの?
片手が鉤爪で骨付き肉をかじってるような酒焼けした浅黒い男じゃないの?」と僕。
「どこの『カリブの海賊』だよ!」と光秀。
「それはどんなノリだよ?
王になろうとしてるなら信長様の下につく訳がないだろ?」と利家が口を挟む。
どうやら利家に少年漫画のノリは理解出来ないらしい。
「そうか。
九鬼は単なるならず者じゃないのか。
『インテリヤクザ』みたいな感じか」
「何か凄い勘違いをしてる気がする・・・」と光秀が僕を見ながら言う。
そんな僕らの一団に九鬼嘉隆が近付いて来る。
確かにならず者には見えない。
「でもインテリヤクザのクセに縁なしメガネをかけてないよ?」と僕は光秀に耳打ちする。
「君のインテリヤクザのイメージが『ウシジマくん』みたいな感じな事はわかった。
でもこの時代にメガネないからな!
そもそも『インテリヤクザ』じゃないし!」と光秀。
信長一行は『九鬼水軍』に護衛されながら、舟入を目指した。
船に弱い僕と寝不足の足利義昭は船酔いでグロッキーになった事は言うまでもない。
切りがいいところで終わると今回はとても短くなりました。
申し訳ありません。




