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料理

 菓子については女神からチート能力を与えられた養観院も料理に関しては大した事はない。

 こと表現力はミミズ以下だ。

 『味の素入れとけば大概のモンは美味しくなる』

 料理人に意見を求められてもそんな事しか言わない。

 当然『味の素』なんて言われても料理人は何の事やらわからない。

 菓子であれば材料の準備の仕方から細かく説明出来るのだが。


 足利義昭が倒れた事もあり、伊賀を出発したのは夕方近くだった。

 本来であれば伊賀で一泊するところだが『義昭が一服盛られた。ここにいたら誰に命を狙われるかわからない』と思っている一行は日が傾いてから伊賀を出発せざるを得なかった。

 なのですぐに夜になる。

 「夜中に馬を走らせる」という事も考えられるが、病み上がりの足利義昭は輿に乗ってチンタラしている。

 ・・・と言う訳で今日は道中の寺に一泊する事になった。


 「味がまるでない。

 鼻クソの方がまだ塩味がして美味しい」義昭の連れている料理人に振る舞われた汁物に対して養観院は感想を述べた。

 「ぶっちゃけすぎだ!山岡さんでももう少しオブラートに包んで言うぞ!

 少しはお世辞を言う事を覚えろ!」と明智光秀が養観院を叱っていたが「じゃあ、これ美味しいと思う?」と養観院に聞かれた光秀は言葉につまっていた。

 「山岡殿とはどこの誰だ?」と利家(ロリコン)

 「山岡とは・・・何ともうしましょうか。

 架空の存在です」と困りながら光秀が言う。

 「何と!

 『山岡』とは麒麟や鳳凰のような存在ですか!?」と松永久秀。

 養観院はそのやり取りが面白くてしょうがなくてケタケタ笑う。


 そんなどうしようもないやり取りをしながら晩御飯を食べていると、カランカランという音が鳴る。

 「ん?

 お客さん?」と僕。

 「招かれざる・・・な!」と利益が僕に覆い被さる。

 利益が言うには、どうやらあの音は忍者が仕掛ける『防犯ベル』みたいなモンで『鳴子(なるこ)』と言うらしい。

 鳴子か鳴ったら侵入者が来た、と思えと。

 違う事も多いけれど。

 「『違う事』って何よ?」と僕。

 「獣が鳴らす事もあるし、厠へ行こうとした人が間違えて鳴らす事も多いのだ」と保豊。

 「やっぱりセコムの方が優秀だね」と僕。

 「そんなもんこの時代にあるか!」と光秀。

 僕と光秀のやり取りは他の人にはわかっていない。

 「どうやら猪か鹿が鳴子を鳴らしたようだ。

 近くに怪しい影はなかった」と外をパトロールしてきた道順が言う。

 「こんな夜に影もクソもないもんだよね」とコソっと呟いた僕を光秀が制す。

 「クソはあったぞ。

 猪のクソが!」と半分キレながら道順が言う。

 「どこにあったの?」そう言う意味じゃないんだが、取り敢えず聞いてみる。

 「暗くて見えなかったから踏んでしまった・・・」と道順。

 どうやら道順はあんまり夜目が効かないらしい。

 だから寺の周りの獣道に行き、猪の糞を踏んでしまったのだ。

 道順は狙撃のスペシャリストだ。

 闇夜に紛れるスペシャリストは『風魔の小太郎』など別にいる。

 得意分野じゃないけど、保豊に「行け!」と言われたら乗り気じゃなくても命令に従うしかない。

 結果、ウンコを踏んで帰って来たのだ。


 「何だ、イノシシか。人騒がせな」が結論になって、『くせ者はいない』と判断された。

 しかし実は曲者はいた。

 北畠具教の差し向けた者がいたのだ。

 曲者が任務としていたのは、あくまでも監視だった。

 何故監視していたのか?

 織田信長一行が泊まっていた寺が北畠具教の領地だったからだ。

 本来なら北畠の許しもなく勝手に入って来た敵対勢力は、攻撃されて然るべきだ。

 しかし具教は信長にビビりまくっている。

 だから今回も監視にとどめているのだ。

 しかも具教には鳴子を踏んでしまうくらい質の低い間者しか雇えない。

 でも質の低い間者は充分仕事をした。

 鳴子を踏んで、キチンと逃げ切ったのだ。

 織田と北畠の全面衝突を防いだのだ。

 現時点で北畠と織田の戦力差は『チワワとピットブル』といった感じだが、北畠が織田に滅ぼされた時には『うまい棒とティラノサウルス』ぐらいの差になっている。


 寺で数部屋に別れて寝る事になる。

 当然足利義昭は別室だ。

 身分が高いからじゃない。

 『女性だと内緒だから』だ。

 明智光秀も同室だ。

 明智光秀だけは『足利義昭が女だ』と知っているから同室を許可されている。

 そこまではわかる。

 他の者は「身分が高いから別室なんだ。光秀は唯一の付き添いとして同室なんだ」と。

 意味がわからないのが養観院の同室だ。

 元々『養観院を連れて来い』という話ではあったから、『何か養観院を使うんだな』と信長の配下達は思っていた。

 しかし信長の配下ではない人にとっては「何で!?」だ。


 光秀はすだれの外にいる。

 何ですだれなんてモノが寺にあるのか?

 この寺は北畠の領地で、領主が年に一回視察で寺に訪れる。

 公家である領主の要求は高い。

 だからすだれが準備されているのだ。

 『下々の者共と顔を合わせたくない』と。

 実は僧侶達もすかした領主を良く思っていない。

 だから織田信長一行が来た時も『どうぞ、どうぞ』と歓迎ムードだった。

 『僧侶への態度が鬼だ』と散々聞かされていた信長は、無愛想ではあるが僧侶に対し『世話になるな』とわずかではあるが金を渡した。

 その上、食べる物も自分達で準備する、と言う。

 食べ物の自己調達は『暗殺を防ぐため』なのだが僧侶達はそれを好意的に受け取った。

 「何だ、北畠具教よりマシじゃん」と僧侶達は胸を撫でおろした。

 『坊主は皆殺しだ』などの信長の発言ばかりが有名ではあるが寺に対して無礼を働くだけ、という訳でもなく寺に対して最低限の礼儀を持って接している。

 現に『信長は京都を訪れた時には妙覚寺を常宿としていた』という記述が残されている。

 いつも妙覚寺を常宿としていたのに、たまたま本能寺に泊まったタイミングで暗殺されたのは単なる不運なのか・・・。

 その話は今はどうでも良い。


 光秀からはすだれの中の義昭はあまり見えない。

 すだれの中にいるのは義昭と養観院だ。

 服を脱いだ義昭が寝間着姿になる。

 「薄着出来る唯一の時ね。

 男装してる時はいつも厚着してるから」と義昭。

 そんな義昭に僕は何て言ったら良いのかわからない。

 「どうして男のフリをしてるんですか?」とか聞きたくない、と言ったら嘘になる。

 でも信長と市の兄妹(きょうだい)を見ていると「この時代に生まれた身分の高い男と身分の高い女の宿命」のようなモノをイヤというくらい感じる。

 きっと義昭は女でありながら、男としての宿命を背負わなくてはいけない『何か』があったんだろう。

 僕は「清洲に来るなら、信長様だけには本当の事を話して下さいね」とだけ言った。

 後の小難しい話は知らない。

 「・・・わかったわ」

 義昭は小声ではあるが、決意のこもったハッキリした声で言った。

 僕が「信長に打ち明けろ」と義昭に言ったタイミングですだれがガサッと動いた。

 あ、テメー光秀!

 コッソリ聞いてやがったな!

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