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鉄砲

 「しかし面倒臭い事になったな」と田中(オヤジ)

 「何が?」僕は呑気に作ったカステラを頬張りながら言う。

 「松永久秀様が三好長慶様にすり寄ってる事だ」

 「そうなの?

 でもそんなの町人には関係ないんじゃないの?」

 「そんな事はない。

 特にここ、堺に住む者に関係ないなどという事はないのだ」

 「何でよ?」

 「三好長慶様がおられる『飯盛山城』から本拠地である阿波の国へはどうやって行く?」

 「知らない」

 「少しは考えろ!

 ここ、堺を突っ切って行くのだ!」

 「ふーん。

 だから何だよ?」

 「だから堺の町で奉行をやっている松永久秀様でも相手にされるのだ!

 今まで堺は中立を守ってきた。

 だが奉行が三好長慶様寄りになったら最早中立とは言えない。

 我々町人もどの大名につくのか考えねばならん。

 既に豪商『正直屋』は三好方についた」

 「小難しい話だね。

 魚屋(ととや)は三好方にはつかないの?」

 「ついてしまえばこれまで友好関係を築いてきた諸大名との関係を捨てる事になる」

 僕は三好がどうなるかなんて知らない。

 真面目に授業を受けていたら多少はわかったんだろうけど、少なくとも三好が天下を取らない事はわかっている。

 「三好に肩入れすべきじゃない」

 僕はボソッと呟いた。

 「・・・何でそう思うんだ?」

 「三好長慶は天下を取れないよ。

 信念が気に入ってるならありと言えばありだけど、勝ち馬に乗らないのは愚かだよ」

 「・・・ようかんは大名の何を知っているのだ?」

 そうだった。

 僕は何にも知らない。

 知っているのは未来の結末だけだ。

 三好がダメだと思うのは結末を知っているからだ。

 実際天下など他人事だ。

 でも堺に危険が迫るのなら知らんぷりはしてられない。

 自分の身は自分で守らなくてはならないのだ。


 「勘でしかないけど・・・」

 僕はそういうしかなかった。

 「ようかんの勘は馬鹿には出来ん。

 ようかんは菓子作りだけじゃなく、勘だけで生きているようなモノだからな。

 しかも、その勘は大きな間違いがない。

 参考までに聞く。

 ようかんの言う『勝ち馬』とはどの大名の事だ?」

 「織田信長」

 僕の言葉はすんなり出た。

 「信長様か。

 信長様の大名としての実力を侮っている訳ではない。

 確かに信長様には『先見の明』があり、古き慣習には囚われない柔軟さがある。

 賢さもある。

 しかし賢いが故にまだまだ畿内には力は伸ばして来ないだろう」

 「それは何で?」

 「戦力の分散を嫌っているからだ。

 信長様が妹のお市様を浅井家に嫁がせようとした理由がわかるか?」

 「わからない」

 「信長様は東へ進軍する事を考え、西とは親和路線を敷いているのだ。

 理由は伊勢の国が割拠しており、大きな脅威にならない事があげられる。

 西は放置していても東に専念出来る、と考えているのだ」

 田中(オヤジ)は読み違いをしている。

 信長は西で戦をしないんじゃない。

 確か、最後の足利将軍を擁立して戦をするはずだ。

 だけどそれがどんな戦だったか思い出せない。

 くそう、授業を真面目に受けておけば!

 「話が脱線したな。

 畿内に勢力を置かない大名に我々がついても利がないのだ」

 『三好につくのは悪手だ。

 それは沈没船だ』と言いたい。

 でも僕は未来から来た、って話を田中(オヤジ)が信じてくれるかどうかはわからない、おそらく信じてくれないだろう。


 「三好を嫌うなら、お姉ちゃん、逃げた方が良いぜ?」いつの間にか後ろに立っていたイケメンが言う。

 誰だよ?

 長身ではあるがヒョロっとしている印象はない。

 色黒でガッシリしている印象的だ。

 「戻っていたのか。

 ようかんは知らなかったな。

 コイツは紀州の地侍、鈴木重秀だ」

 うん、知らん。

 つーか『地侍』って何だよ?

 町人が侍に「コイツ」呼ばわりして良いのかよ?

 後で知ったんだが『地侍』というのは『傭兵』『隠密』『ボディガード』の事みたいだ。

 この時代、身分が本当にハッキリしない。

 ハッキリしないからこそ薬売りから大名の斎藤道三や、農民から天下人の豊臣秀吉みたいな大出世があるのかも知れない。

 「鈴木重秀だ。

 紀州の雑賀衆だ。

 『雑賀の孫市』と呼ばれている」

 「雑賀孫市!?」僕は思わず叫んだ。

 「知っておるのか?」と田中(オヤジ)

 「い、いやよくは知らない。

 鉄砲の名手だ、という噂を知っているだけ 」

 「何で俺が鉄砲の訓練をしている事を知っているんだ?」

 マズい!

 鉄砲伝来からそんなに時間は経ってない。

 まだ名手なんて生まれる訳がないんだ。

 胡散臭いモノを見るような目で鈴木重秀は僕を見た。

 「まぁ、いいや。

 三好での情報集めの結果を言うぜ?

 本格的に松永久秀は三好長慶の配下になるみたいだぜ?

 外様ではあるけれど、長慶は松永久秀がえらいお気に入りみたいだ。

 あとお姉ちゃん、アンタ松永久秀を通じて竹筒に入った乳の菓子を三好長慶に渡したよな?

 三好長慶は大層その菓子が気に入って『この菓子を作った者を連れて来い!』と言っている。

 一足先に俺は帰って来たけど、松永久秀が帰って来たらお姉ちゃんを拐うつもりみたいだぜ?

 大人しく拐われて長慶に可愛がってもらうのも手だろう。

 お姉ちゃんは器量も良いし、長慶を手玉に取って生きて行くのも一つの道だ。

 でもお姉ちゃんは長慶の仲間になりたくないんだろう?

 いらんお節介かも知らんが、ここから逃げた方が良いんじゃないか?

 猶予はおそらく明日の昼まで、用事を済ませた松永久秀が飯盛山城を明日の早朝出発したとして摂津の芥川山城に寄るだろうな。

 ここ、堺に到着するのは明日の昼頃。

 明日の朝には堺を出た方が良いだろうな」

 「教えてくれるのはありがたいけど、一体どこに逃げれば良いんだ!?」と僕は泣き言を言う。

 「俺なら東へ逃げるね。

 北は摂津の方角だ。

 西は三好の本拠地、阿波の方角だ。

 南は海で逃げる場所がない。

 消去法で東しかない」

 僕は途方に暮れてしまった。

 こういう時に『身寄りがない』『頼るアテがない』というのは何と心細い事か。

 「重秀、逃げるようかんの警備をお願い出来ないか?」と田中(オヤジ)

 「良いが条件は付けさせてもらう。

 報酬は手付けで先に半分もらうぞ?

 あと報酬は二人分だ。

 もう一人、お姉ちゃんが逃げるのを手伝ってもらう」と重秀。

 「その『もう一人』とは誰だ?」

 「逃げる事に関しては専門家だ。

 『伊賀の抜け忍』だと本人は言っていた」

 「信用出来るのか?

 名は何と言う?」

 「腕は確かだ。

 信用出来るかどうかはわからん。

 ただヤツが加わる事で任務の成功率が跳ね上がる。

 名は『石川五右衛門』という。

 本名かどうかはわからん。

 飯盛山城への潜入を俺と共にこなした男で今、堺にいる」

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[良い点]  このまま堺でほのぼのお菓子作りしてても悪くなかった流れが急転直下動き始めてしまった!しかも自作のお菓子がピンチを招き寄せる読者の予想の斜め上にドラッグシュート!!しかし波瀾万丈こそ戦国の…
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