フランク
信長に田中を紹介したのは滝川一益だ。
一益は河内の親戚の屋敷に居候していた時、親戚の妻を寝取ってしまう。
そして、激昂した親戚を斬り殺して堺へ逃げる。
まさにクズ男だ。
なにもしないで生きていけるほど世の中は甘くない。
仕方なく一益は堺で鉄砲の製造方法を学んでいた。
そこで一益は田中に会う。
田中は一益を見て『見まごうかたなきクズ男だ。これではいけない』と一益に茶の湯を教える。
その後一益は改心し淫蕩に傾けていた情熱を茶の湯に全力投球する。
『茶器狂い』の一益は昔、『全身性器』のような男だったのだ。
鉄砲製造に興味のあった織田信長は堺に来た際、一益の働いていた工房に顔を出した。
真人間に生まれ変わっていた一益を信長は気に入る。
そして信長は一益と個人的に会うようになる。
そこで一益は信長に田中を紹介する。
そして信長も一益につられて『茶器狂い』になった。
信長は一益に「ウチ来る?」と聞く。
「行く、行く!」と一益は応じる。
こうして滝川一益は織田信長の家臣となったのだ。
一益が生まれたのは近江の甲賀だ。
信長は一益にその周辺、伊勢の伊賀近辺を領土として与えた。
『東京生まれ、ヒップホップ育ち、悪そうなヤツは大体友達』みたいに言うと・・・
『甲賀生まれ、伊賀育ち、忍者っぽいヤツは大体友達』というのが滝川一益という男だ。
養観院が一益に懐いているのは、田中の話で意気投合したからだ。
一益は執拗に養観院に尻を狙われて、意気投合したことを死ぬほど後悔しているが。
甲賀にも伊賀にも詳しい一益は『藤林長門守(以下保豊)』と知り合いだ。
保豊は一益に信長を紹介してもらう気満々だ。
でも一益は『光秀が紹介するんじゃねーの?知らんけど』と思っている。
光秀は『一益が紹介するんじゃねーの?知らんけど』と思っている。
結果的に誰も保豊を信長に紹介していない。
『誰かがやるだろう』と思っていて『結果的に誰もやってない』
あるあるだ。
保豊としては「あれー?信長に紹介されないまま解散って話になっちゃったぞ?信長を紹介してくれるはずの一益は帰っちゃったし」と思っている。
このままじゃいけない。
保豊は意を決して養観院の前に立つ。
信長の前に直接行ったら『無礼者!』って斬られるかも知れない。
光秀に紹介してもらおうにも、光秀は義昭が倒れてからバタバタ忙しそうだ。
だったら『将を射んと欲すればまず馬を射よ』と言う。
先ずは、信長の周囲にいる女児を籠絡しよう。
何、女を籠絡するのは朝飯前だ。
女だったら年齢は関係ないはず。
過去に老女を籠絡した事もある。
女児を籠絡した事もある。
保豊は女であれば必ず落ちる(はず)の左斜め45度からの流し目を養観院に送る。
「・・・なんだ?
便所か?」と女児が言う。
「い、いや。
便所の場所ならこちらの方が詳しい。
何せこの屋敷は俺が手配したのだからな」と保豊。
(あれー?
何でこの女児は俺に落ちないんだ?)
保豊は軽くパニックだ。
こうなりゃ正面から言うしかない。
保豊は養観院に言う。
「お嬢さん、俺は織田信長様に挨拶したいんだ」
「すれば良いじゃねーか」
「い、いや。
でもなかなか話しかけられなくてさ・・・」
「何で?
恥ずかしいから?
人見知りしてるの?」
このガキ!
織田信長に気軽に話しかけられる訳ないだろうが!
「ははは、お嬢さん、面白い事言うね」
「何が笑えるんだか。
フランクに話しかければ良いんだよ」
「ふ、ふらんく?」
「なんだ?
『フランク』の意味も知らないのか?
『フランク』っていうはな、『フランクフルト』って言うだろう?
・・・『フランクフルト』ってどういう意味だ?
そもそも『フランク』と関係あるのか?」
女児が首をひねる。
知るか!
何を言ってるのか全く理解が出来ない。
「どうしたのだ?」
声をかけてくる男がいる。
声をかけてきた男の顔を見てビックリする。
織田信長だ。
女児は信長に言う。
「信長様。
『フランク』ってどんな意味だったっけ?」
「『ふらんく』?
そうだな。
『腐乱』『食う』
つまり『腐った物を食う』という意味ではないか?」と信長。
「なるほど。
つまりアンタは『腐った物を食いながら信長様に話しかけるべき』という事か。
・・・何でそんな事をしたいの?」
知るか!
・・・と怒鳴りたいが取り敢えず信長と話す切欠をくれた女児には感謝だ。




