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ミスリード

 「俺は医術者です!

 今から義昭様の治療に入ります!

 隣の部屋には何人も立ち入らないで下さい!」と光秀。

 僕も隣の部屋には近付かないでおこう・・・とすると光秀に「君はここにいて!」と言われる。

 意味がわからない、何でだよ!?

 一番の無関係な人間じゃないか!

 お前らは全員、足利義昭とは利害関係がある人間かも知れない。

 でも僕は違うだろう!?

 信長の方を見ると信長が僕に向かって頷く。

 『光秀の言う通りにしろ。

 隣の部屋に行け』って事か?

 しかし何だ?この信長の変わり身は?

 さっきまでは光秀と話す事を邪魔する態度だったじゃないか。

 何かを信長は感じたんだろうか?

ーーーーーーーーーーーーーーー

~信長視点~

 藤林長門守(ガキ)は確かに口走った。

 「何で義昭殿が倒れるのか!?」と。

 『義昭殿が』とはどういう意味か?

 誰かが倒れるのは計算通りだったのか?

 他の人間が倒れる事は予想出来ていたのか?

 この忍は何を企んでいる?

 コイツからは目を離してはいけない。

 コイツが"誰か"に一服盛ったのかも知れない。

 だがコイツが盛ったつもりだった"誰か"は無事で代わりに足利義昭が倒れた、可能性がある。

 コイツが本来、一服盛ろうとしたのは誰か?

 浅井長政か?

 その可能性は高い。

 滝川一益に伊賀の周囲の調査をさせてある。

 そして『甲賀方面にも藤林長門守が勢力を伸ばしている』という話は聞いていた。

 だから藤林長門守が甲賀忍者と繋がっている可能性は元から考えてあった。

 甲賀と言えば足利義秋とも朝倉と癒着している可能性がある。

 同じ近江の『義昭陣営』についた浅井長政には報復があるかもと、思っておくべきだった。

 もっと警戒しておくべきだった!

 しかしこの後はどうしようか?

 配下の者に命じて浅井長政を護衛させる手もある。

 だが俺も狙われている可能性も捨てられない。

 うぬぼれる訳ではないが俺は『義昭陣営』の重要な鍵だ。

 配下達は俺を護衛してくれている。

 護衛されている立場でありながら、危険に首を突っ込むのは問題があるかも知れない・・・だが、何かを企んでる限り俺はこのガキから目を離す訳にはいかない。

 何にしろ、この屋敷のどこに敵が潜んでいるかはわからない。

 俺はこの先自由には動けない。

 ここにいる大名、武将達もどこまで信用出来るかわからないからだ。

 確実に信用出来るのは配下達と養観院だけだ。

 若干頼りないが義昭殿の事は養観院に任せよう。

ーーーーーーーーーーーーーー

 信長は思いっきりミスリードをした。

 義昭は養観院を狙った『女性にしか効かない媚薬の香』の過剰摂取(オーバードーズ)で倒れたのだ。

 香を炊いた保豊本人も『何で養観院には媚薬の効果が一切ないのか?』わかっていない。

 養観院には『男に惚れる』という感情が現時点で一切ないのだ。

 『惚れ薬』は女性の中の小さな『情欲』を数百倍にするモノだ。

 『1×100=100』にするようなモノだ。

 しかし養観院の女性としての『情欲』は『0』だ。

 『0×100=0』なのだ。

 香を嗅いでも何の変化もない。

 「何か甘い匂いがするね」としか思わない。

 「アレ?香が効いてない?

 もしかしてこの部屋の通気性が良い?

 香をもう少し炊いた方が良いかな?」と保豊は義昭がブッ倒れる量の香を炊いた。

 保豊は義昭が女性だとは思っていない。

 義昭自身が男装して『男性だ』と周囲に思わせているのだから。

 香を炊いた本人も含めて、誰一人この状況を正しく把握出来ていない。

ーーーーーーーーーーーーー

 襖が閉められて、灯りがともされる。

 光秀が義昭に触診する。

 「うわ、ベタベタ触ってやがる。

 いやらしい!」と僕。

 「俺は医者だ!

 患者には触るだろうが!」と光秀。

 「え、そうなの?」

 「俺は『転移する前は医学生だった』と言わなかったか?」

 「『医学生』って事は無免許だね。

 『闇医者』だ。

 『ブラックジャック』だ!」

 「うるさい!

 この世界で医者の免許にどれだけの意味があるんだよ!?

 ・・・というか診察中だ!

 静かにしてくれ!」

 怒られてしまった。

 少し静かにしていよう。

 つーか『賑やかす』以外に僕にやることないぞ?

 光秀が手術するなら汗拭いたり、やることあるかも知れんが。

 光秀が診察を終える。

 「わかった事がある。

 『完全に意識を失ってる訳じゃない』」

 「どういう事?」と僕。

 光秀が横になっている義昭の(まぶた)を指で開ける。

 「完全に目を閉じている状態なら瞼を開けた時、白目を剥くんだよ」

 瞼を開けられた義昭には黒目があった。

 「どういう事?

 目を瞑ってないって事?」

 「『目は閉じていない』という状態だ。

 何かが見えている状態じゃない。

 見えていたら指を目に近付けられたら反射で目を閉じてしまうだろう。

 黒目はあるが『瞳孔が開いている』状態だ」

 「よくわからん。

 つまりどういう事?」

 「中毒症状、つまり『ラリっている』状態だ。

 何者かに一服盛られたらしい」

 「だ、誰に!?

 何を!?」

 「わからん。

 義昭様は俺が見たところ、何にも口にはしていない」

 「それはおそらく間違いない。

 僕が点てたお茶もまだ飲んでなかったはずだよ?」

 僕と光秀が首をひねる。

 その時、義昭がムクリと上半身を起こす。

 「あ、義昭様目が覚めましたか?」と光秀は言ったが、瞬間的に義昭が正気でない事を見抜いた。

 起き上がった義昭は熱っぽい目と息を光秀に向けると、光秀にしなだれかかってきた。

 「御免」光秀は短く言うと、義昭の首筋に手刀をトンっと当てた。

 義昭は崩れるように昏倒し、意識を手放した。

 「何してるのさ!?」と僕。

 「義昭様は正気じゃなかった。

 十中八九、義昭様が盛られたのは"媚薬"だ。

 ・・・しかし面倒な事になった」

 「何が?

 義昭様がラリってる事?」

 「それはおそらく大丈夫。

 義昭様は『急性中毒』の状態だ。

 言ってみたら『急性アルコール中毒』で救急車で運ばれた者の様に正気に戻れば元通りのはずだ。

 そんな事より義昭様は『女性にしか効かない媚薬』を盛られた可能性が高い、という事だ。

 他の者は何ともないだろう?

 ・・・よく考えたら何でお前は大丈夫なんだ?

 お前も『女性』だろう?」

 「知らないよ。

 僕は一服盛られなかったんじゃない?」

 「だとしたら義昭様はピンポイントで盛られたのか?

 だとしたら『女性にしか効かない媚薬』じゃない可能性も・・・」


どいつもコイツも、ミスリードが止まらない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おもしろい 養観院はアレだけど、大人の女性にしか効かないっていう可能性も考えたほうがいいのでは
[良い点]  ミスリードが仕事しすぎー(^艸^)しかし彦太郎さんいろいろ読み違ってるけど「義昭さんがヤバい」ってのは瞬時に見抜き、その上で「手刀でトン落ち」させるとかめちゃくちゃ有能なの素直に凄い!我…
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