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ファーストコンタクト

 「松永殿、義輝様主宰の茶会で問題を起こされて三好長慶様の顔に泥を塗られるおつもりか?」

 僕が松永久秀に手首を掴まれて困っていた時、助け舟が出る。

 「貴方は・・・『キンカ頭』様!」

 目の前の男がズッこける。

 「お前は将軍様と一緒にいた・・・これにて失礼する!」

 そそくさと松永久秀は茶会場へ逃げ戻る。

 その場には僕と『キンカ頭』だけが残る。

 「『キンカ頭』様、助けてくれてありがとうございました!」

 僕は精一杯の感謝を伝えたが『キンカ頭』はまた何故かズッこけた。

ーーーーーーーーーーーーー

~明智光秀視点~

 この女は当たり前のように俺の事を『キンカ頭』と呼ぶよな。

 信長に聞いたのか?

 そんな事より確認したい事がある。

 『お前も転移者なのか?』

 しかしそれにこの女がまともに答える訳がない。

 茶を点てていた男と少し話をした時に言っていた。

 『この菓子の数々を作ったのは娘として育てた少女です。

 娘には記憶がない』と。

 『少女』『娘』とはこの女の事だよな?

 本当に記憶がないのかはわからない。

 でも父親代わりの男にも『記憶がない』と言っている女が俺にだけ本当の事を打ち明けるとは思えない。

 本当に記憶がないのかも知れないし。


 「君に聞きたい事がある。

 俺は『医術者』だ。

 君は『殺菌』と言ったな?」

 「い、言ったかな?」

 少女はとぼけている。

 「いや、君を責めている訳ではない。

 『食べ物の傷み』を気にするのは素晴らしい事だ。

 しかし君の用意した菓子全てが『食べ物の傷み』対策がされていたとは思えないが」

 「それなら大丈夫。

 『この季節なら大丈夫』『製造後三日以内なら大丈夫』そういった物を選んでるから」

 (温度管理、消費期限管理・・・)

 「菓子を作る時は指は綺麗に洗ったあと酢に付けてるからね。

 ・・・で指には傷がつかないように手荒れには気をつかってる」

 (衛生管理・・・)

 「それに痛みが早い食材には薄めた酢を入れてるからね。

 食材の味が落ちるから量は最低限にしてるけど」

 (酢酸ナトリウムによる滅菌処理・・・)

 「まぁそこまで考えなくて良いと思うよ?

 この時代の人らお腹強いからね」

 (『この時代』・・・決定的だ。

 この女は未来から来ている!)

 『日本人は海外で水を飲むな』『日本人は海外の屋台で食事をするな』これはよく元いた時代で言われていた話だ。

 現地の人間は食中毒にならないのに日本人だけがお腹を壊す、それは『菌への耐性』が大きく関係している。

 衛生環境が低くても、冷蔵庫が普及していなくても菌に耐性がある人々はお腹を壊しにくい。

 それは令和の時代でも言われていた事だ。

 そんな事は今はどうでもかまわない。

 この女は『この時代』と言った!

 俺も転移者であることを打ち明けよう!

 「実は俺も・・・」

 「こんなところにいた。

 『一人でどこか行くな』って言ってるだろ?」

 おれの独白は大男に邪魔される。

 確か織田信長の小姓の前田犬千代だったか?

 今は元服して名前が変わったのだったか?

 「一人にする利家(ロリコン)が悪い」

 「そう言うなって。

 養観院が作った菓子の残りを確保しておこうと思って会場へ戻ってたんだよ。

 ・・・と言ってもこの菓子だけしか残ってなかったけどな」

 大男は懐から小箱を取り出す。

 中にはこげ茶色の割れた欠片のような物が入っている。

 「あ、チョコレート・・・」少女の顔がパッと明るくなる。

 「これしか取り戻せなくてごめんな」大男が申し訳なさそうに少女に言う。

 「・・・今回だけは許してやろう!」少女が薄い胸を張る。

 「じゃあ茶会場に戻ろうか!」

 「うん!」

 二人が彦太郎を残して茶会場へ戻って行く。

 そのまま立ち去ると思った少女がこちらを振り返り「助けてくれてありがとう!」と手を振った。

 「まぁ、真相を告げるのは次の機会で良いか!」

 今、彼女の生活を乱すような事を言うべきではないかも知れない。

 彼女は今の生活を楽しんでいるようだ。

 俺も今の生活に大きな不満はない。

 結婚して、可愛い娘もいる。

 真相を告げたところで元の時代に戻れる訳でもない。

 戻りたいと強く願っている訳でもない。

ーーーーーーーーーーーー

 茶会場に戻ると信長が不機嫌になっていた。

 何でも『平蜘蛛』という茶釜を見ようとしたら、『近くに斎藤義龍がいるから』と周りの人間に妨害されたらしい。

 「義龍許すまじ・・・」信長は拗ねている。

 この一件以降、信長の『平蜘蛛』に対する執念は凄まじいモノとなる。

 茶会も終わりに近づきようやく田中(オヤジ)も仕事から解放された。

 「田中(オヤジ)、これ、食べてよ。

 田中(オヤジ)のために作った菓子なんだよ」

 僕はチョコレートの入った箱を田中(オヤジ)に渡す。

 「ようかん・・・ありがとう」

 感動の場面に水を差すように使者が飛び込んで来て信長に耳打ちしている。

 「なに?

 藤吉郎が?」信長は確かにそう言った。

 「悪いが急遽清洲に戻らなくてはいけなくなった。

 市、利家、養観院、すぐに出発の準備をしろ!」と信長。

 何だよ、田中(オヤジ)とゆっくり話す時間もないのかよ?

 「田中(オヤジ)、清洲に遊びに来てね!」

 「あぁ」

 「堺にも機会があれば行くからね!」

 「あぁ」

 「では急いで出発するぞ!」と信長。


 行きは一泊したのに帰りは直行。

 うーん、尻が痛い。

 清洲に帰った僕が見たのは建物が8割方なくなってガランとしている中庭だった。

 「な、何事!?」

 どうせ建物の中身(カラ)で使ってなかったから良いんだけどさ。

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点]  こーゆーいろんな人々が影響し合う群像劇で他者視点は主人公の主観で知らぬ間に歪んだ認知を浮かび上がらせるから大好きだけど(^◡^;)彦太郎さんが読者が思ってた以上に人の良い人物なのだとわか…
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