殺菌
~信長視点~
「これはこれは、信長殿。
こんな所で会えるとは思いませんでしたぞ」と義龍は挑発的に信長に言う。
「今回は妹『市』の浅井長政殿への輿入れの御披露目を兼ねた茶会、兄としては俺が参加しない訳にはいきますまい」
信長は浅井長政と義龍の間に割って入りながらも義龍を全く挑発している様子はない。
まるで「雑魚は相手にしない」とでもいう態度だ。
その態度が義龍の癇に障った。
「兄弟を討たれた方がそれを言うとは・・・あ、義理の弟になられる長政殿も安心は出来ませんなぁ」
「義龍殿、その言い草はあまりにも・・・」
長政は慌てながらフォローに入ろうとする。
しかし信長は怒るどころかどこか少し楽しそうだ。
「父上を討たれた義龍殿がそれをいわれるのか」
信長はニコニコしている。
しているが、その笑みにはどこか凄みを感じる。
「さ、斎藤家の問題に口を挟むな!」
義龍は簡単に顔を真っ赤にさせる。
「先に織田家の問題に口を挟んできたのは義龍殿ではなかったか?
しかも道三殿は妻の帰蝶の父親だ。
俺にとっても義理の父親。
無関係ではあるまい?」
楽しそうに信長は言う。
「し、失礼するっ!」
先に口喧嘩を吹っ掛けた義龍は逃げるように立ち去ろうとする。
しかし立ち去ると思われた義龍は振り向くと言った。
「長政殿、よくよく考えなされよ。
誰の味方をするのが賢いのかを・・・」
一触即発の空気は茶会を一瞬凍らせた。
凍っているはずなのに養観院だけが信長と義龍の会話を勝手に吹き替えして遊んでいる。
「オウ!バール持って来い!」と養観院。
「そんな事を信長様が言う訳がない!
そもそも『ばーる』とは何だ!?」と利家。
二人は全く空気を読まない。
養観院は何を考えているかわからんが、利家は肝に毛がはえている。
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小谷城の場を提供している浅井長政は空気を変えようと大声で言った。
「噂の清洲城の茶菓子を見たいのですが・・・」
長政の一言に乗った人々が『私も食べてみたい』『私も』『私も』『私も』と言い出した。
テメーら、清洲城の菓子なんて知らないだろうが!
テメーらのために菓子を持って来た訳じゃねーぞ!
・・・まぁ、お市様の未来の旦那に恥をかかせる訳にもいかんか。
少しだけ菓子を出すか。
でも少しだけだぞ?
本当はこの菓子は田中に食べてもらうために持って来たんだから。
僕はイヤイヤ持って来た『柿羊羹』を出す。
まぁ、これなら。
茶会の茶菓子として田中に食べてもらう予定だったし。
数もあるし、田中も食べてくれるなら。
「ほう、色鮮やかですなあ!
上に葉のような物がのっていますが?」と長政。
「それは『塩漬けにした柿の葉』
見た目のためだけに置いた訳じゃなく塩味が甘味を引き立たせる、って言うのと、柿の葉の『殺菌効果』を狙った物だよ・・・じゃなくて『です』」
偉いさんが揃ってるんだから言葉遣いをしっかりしなくては。
清洲城の看板を背負っているんだから信長とお市様に恥をかかせてしまう。
「『サッキン』?」
長政には伝わらない。
あ、そうか。
戦国時代の日本には『菌』の概念がないのか。
「えーっと『塩漬けの柿の葉』には長持ちさせる効果がある・・・のです」
何とか伝わったみたいで長政は「ほー!」と感心している。
「何とか伝わった・・・」と胸を撫で下ろしている僕を鋭い視線で見ている男がいる。
お市様が言っていた『キンカ頭』だ。
何なんだよ?
もしかして惚れたか?
勘弁してくれよ、今は色恋の事は忘れたいんだよ。
というか、どうも男とイチャイチャする気にならん。
女とはイチャイチャしてもしょうがない。
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~明智光秀視点~
『殺菌』!?
あの女、『殺菌』と言わなかったか!?
傷口の『消毒』という概念すらあまり定着していない、アルコールの代わりに酒を吹きかけているこの戦国であの女は確かに『殺菌』と言った。
何故、あの女は『菌』という概念に辿り着いたのか?
もしかしてあの女も未来から来たのか?
・・・まさかな。
そんな偶然が重なってたまるか。
戦国が未来人だらけなら時代が変わってしまう。
そう言えば『今川義元が捕虜として生きている』という噂があるな。
未来は既に変わっているのだろうか?
なら『織田信長は行方不明になる』という未来も変わるんだろうか?
女神は『時代は無限に枝分かれしている』と言った。
枝分かれしている未来からも過去に転移はもちろんする。
彦太郎と養観院は『ほぼ同時期』に転移した。
しかし彦太郎と養観院は同じ『世界』から来た訳ではない。
確かに『養観院のいた未来』と『彦太郎のいた未来』は似ている、というかほぼ同じだ。
しかし『信長が明智光秀に本能寺で殺された未来』と『信長が突然行方不明になった未来』という違いがある。
転移人や転生人は少なく、転移人が送り込まれ既に枝分かれしている過去に過去の記憶を有している転移人が送り込まれる確率はまさに天文学的だ。
だから転移人同士が過去で邂逅するなどというのは女神も想定していない。
彦太郎は高校時代から学業も優秀で日本史も『ほどほどに』理解している。
だが彦太郎が学校で習った日本史で明智光秀は教科書に乗らないレベルのマイナー武将だ。
どちらの未来にも『明智光秀』が関わっている事を彦太郎は現時点では知らない。




