チョコレート
1500年代初頭頃、コロンブスがインド航路を探すのに躍起になっていた。
インドに躍起になりすぎていたのでコロンブスはマヤ人の大事にしている物を見逃していた。
それが『カカオ豆』『アーモンド』だ。
当時、その価値に気付いていたヨーロッパ人はスペイン、イスパニア人だけだった。
だがイスパニア人は『カカオ豆』を使った『ココア』の製法を国外に伝える事を禁じた。
だから一度ヨーロッパから『カカオ豆』を使った菓子は姿を消す。
つまり『ココア』はイスパニアだけにあり『チョコレート』という物はどこにもなかった。
信長の謁見に外国人宣教師達が清洲城に来る。
宣教師達は南蛮渡来の珍しい物を信長に献上する。
献上品とは別に売り物もある。
信長は最新式の火縄銃にご執心だ。
『性能の良い銃をなんとか自分達で作れないか』と。
もう実際に銃の生産は行っている。
しかしもう少し銃の性能を向上させたい。
信長が『軍備の向上』にしか興味を示さないように、僕は『甘味』にしか興味がない。
交易品の中に埋もれるように置いてあったのが『カカオ豆』だ。
この時代、チョコレートは影も形もない。
だが、イスパニアには何故か『カカオ豆』はそこそこ高値で売れる。
ポルトガル人にとって『カカオ豆』は「自分らは要らないけど、商売品としてはそこそこ金になる物」だった。
だから僕が『カカオ豆』を欲しがった時「そこそこ高いよ?何でそんな物が欲しいの?」という態度だった。
『金はない。だが菓子なら腐るほどある』という僕はポルトガル人達と『菓子とカカオ豆』で物々交換した。
『カカオ豆』自体が貴重な物で少なかったし、あんまり手に入らなかったからカカオ豆を使った菓子は人にあげる程作れなかった。
しかし田中に会えるとなれば話は別だ。
貴重なカカオを使ったチョコレート菓子を田中に食べてもらいたい。
僕はなけなしの『カカオ豆』を使ってチョコレート菓子を作る。
これがまだ世界のどこにも存在しない、日本には明治時代に初めて誕生する『チョコレート』だ。
(ミルクチョコレートを食べたら田中は驚くかな?喜ぶかな?)
僕は板の上に熱したミルクチョコレートを広げる。
冷えて固まったチョコレートを砕いて一欠片口に入れる。
うん、美味しい!
間違いなくミルクチョコレートだ!
これはお市様にも味見させていない。
田中のためだけに作った菓子だ。
茶会の設営が進んで人が増えて来た。
どうやら茶会に集まった偉いさん達らしい。
あそこにいるのは室町幕府の将軍らしい。
その隣にいるのは・・・誰だ?
「あの人がお兄様が『キンカ頭』って呼んでる連歌の達人よ。
名前は・・・えーと・・・ごめんなさい、少し思い出せないわ」とお市様。
ふーん、特に興味ねーや。
僕がなんとなく『キンカ頭』を見ていると向こうも僕の視線に気付いたのか目と目が合う。
僕は何となく気まずくなり軽く会釈する。
すると『キンカ頭』も軽く会釈する。
「あそこにいるのが『朝倉義景』様です」と浅井長政が言う。
『様』をつけているのが、『浅井』と『朝倉』の力関係なんだろう。
朝倉義景が信長に視線を送っているが、お世辞にも友好的とは思えない。
「朝倉義景は斎藤義龍寄りの立場で、浅井長政様が織田と婚姻を結ぶ事を良く思っていないのだろう。
でも朝倉義景は室町幕府に仕えている立場だから信長様が室町幕府と友好的な態度を取る限り文句は
言えないのさ。
室町将軍が織田家と斎藤家に『お前らこれを機会に仲良くしろ』っていうのが今回の茶会な訳だ。
まぁ、これで手打ちが成立したら世話はないんだが」と利家。
ひー、思った以上にバチバチの雰囲気だ。
田中、よく平気な顔して茶会を取り仕切れるな!
そいつら以外にも偉いさんが沢山お市様と浅井長政のところに挨拶に来る。
これ、アレだ。
結婚披露宴みたいなモンだ。
長政のところに一人の男が来る。
でもお市様と長政の婚姻を祝う雰囲気じゃない。
ヤンキーみたいに長政にガンくれている。
長政も萎縮とまではいかないまでも、どうして良いか悩んでいる様子だ。
利家が僕に耳打ちする。
「アイツが斎藤義龍だ」と。
「『何で俺の味方しねーの?
何で織田から嫁もらっちゃってるの?
オメー、斎藤家ゼッテーかよ?
"爆音小僧"なめてんのかよ!?』って事?」
「『バクオンコゾウ』?
後半何を言ってるのかわからなかったがおおよそそんな意図だろう」と利家。
すると義龍と長政の間に信長が割り込む。
「『上等だよ・・・。
俺ら死ぬまで"狂乱麗舞"だぞ、コラ?』って信長様は言ってるんだね」と僕。
「いや、絶対言ってない」と利家。




