ファンタジー
実は義秋、ファンタジー世界なら勇者だ。
厳密に言うと『勇者の血を引く者』だ。
ドラクエⅢの主人公ではなく、ロトの血を引くドラクエⅠの主人公、といった感じだ。
仏門に入っていた時に暗殺者の手により毒殺されかけた。
が、『勇者に毒は無効だ』ということでピンピンしていた。
特大の牡牛でも数秒で昏倒させてしまう猛毒でも義秋には全く効かない。
室町幕府の開祖『足利尊氏』が勇者だったのだ。
その勇者の血を義秋は濃く受け継いでいる。
そして炎耐性がある。
だから熱には滅法強い。
だから、消えているとは言え囲炉裏に顔から突っ込んでも何ともない。
炎耐性は少し役には立つが、燃え盛る炎を無効化出来るほど強いモノではなく戦ではほとんど役に立たない。
元々戦で表に立った事はないし、『男の娘』以外に興味はないので『勇者の血、引き損』な残念な男でしかない。
それに戦国時代の日本はそこまでファンタジー要素が強くない。
義秋は巷で『ちょっと丈夫な人』ぐらいの扱いだ。
『ちょっと丈夫』とは言え、囲炉裏に顔から突っ込んで無傷な義秋は若干引かれている。
全く予備知識がない信長陣営の者と違い、浅井長政は多少は義秋の事を知っていた。
しかし長政は居心地が悪い。
前回は伊賀での『義昭陣営』の会合に顔を出しておきながら、今回は『義秋の護衛』として『義昭陣営』に陣中見舞いで顔を出している。
「お前、どの面下げて・・・」と文句を言われてもしょうがない。
言われるモノだと思っていた。
だが、その前に養観院が義秋を囲炉裏に叩き込んだ。
場が混沌に支配される。
(いかん、いかん!
何とか『義秋陣営』と『義昭陣営』で和平を結ばねば!)と長政は気持ちを奮い立たせる。
近江にいる限りは朝倉義景には逆らえない。
だが愛妻の兄にも逆らいたくない。
何で義秋が紀伊の『義昭陣営』を訪れようと思ったかはわからない。
きっと気が違ったのだろう。
だが、これは自分にとっては千載一遇のチャンスだ。
義景がいない今、『義秋』と『義昭』が仲良くなって勝手に同盟を組んでしまったら?
義景も義秋に指図は出来ない。
形だけとは言え、義秋は義景の主人なのだ。
義景はイヤでも義秋の事を『未来の天下人』として崇めなくてはいけない。
だから義秋が組んだ同盟なら「そんな同盟認めない」とも簡単には言えないだろう。
長政はこのチャンスに賭けよう、と思った。
とにかくこの会合は穏やかにやり過ごそう・・・。
「菓子はもうないのか?」と義秋。
「ガメつい野郎だな。
食いたきゃいくらでも食え!」と養観院が義秋の口の中にラスクを大量に捩じ込む。
「や、やめてくれ~」と長政が止めに入る。
信長はいつもニコニコしている長政の情けない声をこの時に始めて聞いた。
――――――――――――――――――
~近江~
「義秋様がいません!」
「騒ぐな。
義秋様の居室に置き手紙があった。
『久しぶりに義昭に会って来る』との事だ。
どうやら義秋様は、謎につつまれた『足利義昭』という人物を知っているようだ。
そんな事は一言も言わなかったクセに!」
顔を真っ赤にして朝倉義景がワナワナと震える。
「しかし、本当に『足利義昭』を名乗る人物が将軍家の血統を引く者なのでしょうか?」
「それを疑う余地はない。
『足利義昭』に仕えている『明智光秀』という男は元々『足利義輝』に仕えていた専属の医師でもある男だ。
その男が『義昭は義輝と兄弟で間違いない』と太鼓判を捺している。
それを疑うなら義秋様の血統も疑われてしまう。
それに『義昭』は父親である『義晴』、兄である『義輝』の遺品を持っていると聞く。
物的証拠だけで言えば最も足利将軍に近い。
その上、義秋様の知り合いともなれば血筋は最早疑うべくもなかろう」
朝倉義景はギリギリと歯噛みしながら答える。
「しかしよろしいのですか?
義秋様が勝手に義昭殿と和平を結んでも。
十中八九義秋様は和平を結ぶおつもりでしょう。
で、なければ警備をほとんど付けずに敵陣に乗り込む訳がございません」
「・・・・・。
策ならある。
紀伊の一向衆が信長に襲いかかるのだ。
我々はそれを知らない」
「いや、でも・・・」
「良いか?
何も知らぬのだ。
農民達が自主的に蜂起するのだ。
別に我々は石山本願寺にも、本願寺顕如にも働きかけない。
義秋様が和平を組んだと同時に、農民達が蜂起したとしてもそれは偶然だ」と義景は壮絶にニヤリと笑う。
 




