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勝鬨

 「して義秋公、どんな用事ですかな?」遅れて来た信長が言う。

 「(それがし)と義昭は兄弟、互いに仏門に入る前に仲良くしていたのだ」と義秋。

 『ホンマかい』と言う顔で信長は義昭の顔を見る。

 義昭は何と説明して良いかわからない。

 確かに義秋が『足利義晴』の子供ならば、2人は兄弟だ。

 だが側室が何人もいる時代の兄弟なんて、会った事がないのも普通の事だ。

 『兄弟』というのはおそらく本当。

 『仲が良い』というのはおそらく口から出任せ。

 ・・・だとしたらまだわかりやすい。

 おそらく義秋は他の誰かと『義昭』を勘違いしている。

 その事に勘づいているのは『明智光秀』ただ一人。

 他の人物は『全く訳がわからん』『豪快に勘違いしている』『ふーんそうなんだ、と今起こっている事に疑問を感じていない』『こちらが性別を偽っている事を義秋は気付いていてそれを脅しの材料にしようとしている、と思っている』『何か甘いモノを食べたい』と様々に想いを巡らせている。

 光秀も『まさか義昭が仏門に入っていた周高だと思われている』とまでは考えが及んでいない。

 だが義秋が何気なく言った「今日は男の格好をしているのか」という一言に周囲は大パニックになった。

 絶対この時点では誰にも知られてはいけない『義昭は女』というトップシークレットが義秋陣営に漏れているぞ、と。

 ほぼ誰もが認識している、『義秋陣営=朝倉義景陣営』だ。

 朝倉義景は織田信長にとって不倶戴天の敵、『水と油』『犬と猿』・・・・・。

 その陣営だけには今の時点では知られてはいけない。

 信長は「女が将軍なんて面白いじゃないか!」とは考えていたが、それを世間に発表するのは今ではない。

 『足利義栄』陣営、『足利義秋』陣営が弱くなってきてからの話だ。

 信長は中国の故事『天下三分の計』からヒントを得て、『三竦み』『三つ巴』の状況の中に自ら飛び込もうとした。

 そうすれば『京からもっとも遠い陣営』である『義昭陣営』でも時代の流れに取り残されない、と考えたのだ。

 中国の三國時代でも『呉』と『蜀』が組んで『魏』と戦ったりと『義栄陣営』を『義昭陣営』と『義秋陣営』が組んで攻め滅ぼす事も考えていた。

 だが『義秋陣営』で思ったより、朝倉義景の力が強く「これ、下手したら『義秋陣営』と『義栄陣営』が組んで『義昭陣営』が攻め滅ぼされるかも知れないな」などと信長は考えていた。

 にも関わらず義秋が訳の分からないタイミングで陣中見舞いに来た。

 信長もパニックだ。

 その場で平常心の者が2人だけいる。

 足利義秋と養観院だけだ。


 義秋はかつて女装する周高の唯一の理解者だった。

 理解者というより「ついているから素晴らしいんじゃないか!」という『男の娘好き』だった。 

 『女装する周高』

 『そんな周高を愛でる男の娘好きの覚慶』

 2人は秘密を共有する仲間だった。

 義昭には周高の面影が奇跡的にある。

 父親が同じなのだから元々似ていたし、女装していた周高と男装している義昭は幸か不幸かジャストフィットする。

 なので義秋は『義昭は周高だ』と信じて疑わない。

 『義昭にはついている』

 『ついているからこそ魅力的なのだ』

 と義秋は変態丸出しだ。

 ついでに言うなら義秋は義昭の事を『変態仲間』だと思っている。

 違和感に気付いた明智光秀は、『その違和感の正体』を探る事にした。

 しかしどうやって探れば良いのやら。

 ・・・そうだ、養観院を使おう!

 養観院の無遠慮は時々肝が冷えるが『何故か偉いさんを怒らせない』無礼さは、ある意味才能だ。

 普段であれば『偉い人らに無礼を働かないように』養観院はこういった場合、首根っこを抑えられている。

 だが、光秀は敢えて養観院をフリーにした。

 

 「義昭、久しぶりに顔を見せてくれまいか?

近こう寄れ」と義秋が義昭と肩を組む。

 その咄嗟の行動に光秀も慌てるが、それにいち速く反応したのが養観院だった。

 「変態、テメー許されると思ってんのか?

 いきなり肩組むとか・・・」養観院は義秋の顎めがけてシャイニングウィザードを放った。

 分かりやすく言えば、普通の膝蹴りだ。

 「やりやがった!」その場にいた誰もが真っ青になる。

 しかし義秋は養観院の膝をガッチリと自分の顔の前で受け止めた。

 義秋、義昭の兄『足利義輝』は『剣豪将軍』と呼ばれ『剣の天才』と呼ばれた。

 義秋もその血を受け継ぎ、格闘に優れた才能を見せた・・・が、残念かな、義秋は『男の娘』以外に興味を示さなかった。


 その場にいた男全てが『この男、やる!』と身構えた。

 それを見て義秋も満足したのか、最低限の防御をも解いた。

 「もうこの場に自分に歯向かうモノはいないだろう」と。

 しかし『その場にいる男達が歯向わなくなった』なんて養観院には関係ない。

 「触るな!

 変態!」

 完全に無防備になった義秋の延髄に養観院は猪木ばりの『延髄斬り』を食らわせて、勢いがついた義秋は顔から囲炉裏に突っ込んだ。

 まだ囲炉裏に火を入れる前で良かった。

 真っ青になる周囲の人々を尻目に『ッシャコラー!!!!!』と勝鬨(かちどき)をあげる養観院だった。




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― 新着の感想 ―
やはりこの物語はヨウカンが無茶苦茶しないと始まらんな
最後のシーンが、容易に想像できるのが、なんとも笑えるwww
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