プラグ
「ようかんちゃん、爺ちゃんと一緒に輿に乗らぬか?」と信玄。
「誰が『爺ちゃん』だ!
道頓堀川に放り込むぞ!
この武田信玄が!」と養観院。
周りの人々が青ざめるような態度を養観院は取っているが、信玄は気にしていないどころかトロけそうな笑顔を養観院に向けている。
「『輿には乗らない』って言っても昨日ほとんど寝てないんじゃない?
寝不足だと馬に酔うわよ?
ただでさえようかんちゃん、酔いやすいんでしょ?」と龍勝院。
龍勝院にとって、信玄は義理の父親になる可能性が高い。
だから龍勝院は信玄の味方をした。
そんな流れを養観院は感じていない。
「大丈夫!
僕は普段からショートスリーパーだから!
夜は十四時間寝ればスッキリだから!」と養観院。
「寝すぎだ!
子供か!
子供でもそんなに寝ないわ!」と光秀。
戦国時代に『1時間』という概念はない。
代わりに時間の単位を『刻』と言った。
だが『1時間=1刻』ではない。
おおよそ1刻は80分だ。
しかし昼の一刻と夜の一刻では長さが違う。
何故違ったか?
時間の基準を太陽や月の傾き方で判断したからだ。
だから春夏秋冬で一刻の長さが長くなったり短くなったりした。
養観院が言った『十四時間寝る』というのは光秀以外に伝わっていない。
結局、養観院は佐助の馬の後ろに乗る事になった。
別に養観院が佐助の後ろに乗りたがった訳じゃない。
信玄が『ようかんちゃんは佐助の後ろじゃなきゃダメ』と駄々をこねたのだ。
養観院を猫可愛がりしている信玄が『悪い虫がつかないように男に近付けさせない』というのはまだ理解出来る。
しかし佐助が女だと知っているのはこの場で信玄と養観院だけだ。
だから『何で佐助の後ろがOKなのか』他の人にはわからない。
佐助にとって『信玄の命令に従う事』は吝かじゃない。
でも忍者として『後ろを取られる事』は良い気持ちではない。
それがたとえ馬の後ろに乗られる事でも。
馬の後ろに乗られるのは嫌だが、信玄の望みじゃしょうがない。
そこで佐助は養観院に条件を出した。
『馬の後ろに乗る時は猫耳をつけろ』と。
「何でそんな事をしなきゃダメなんだよ!」と養観院。
「だったら信玄様の輿に一緒に乗って」と佐助。
「だったら龍勝院の輿に一緒に乗るよ!」と養観院。
「龍勝院様が貴女が猫耳をつける事を阻害する行動をすると思う?
そうじゃなくても、龍勝院様が今、味方をするのは信玄様でしょ?」と佐助。
仕方なく猫耳をつける養観院。
そこまで武田信玄と一緒に輿に乗るのが嫌なのか。
養観院が嫌々黒猫の猫耳カチューシャを装着すると
「次はこの尻尾をつけて」と黒猫の尻尾を渡す佐助。
「どさくさに紛れて、尻尾着けさせようとするんじゃねえ!
約束は『猫耳』だけだぞ!
絶対着けないからな!」と養観院。
「残念」と佐助。
男に変装している佐助の美しい声は違和感がある。
武田の家臣達も『佐助殿の声は初めて聞いた』と。
佐助は『声を作る』事も出来る。
ただ『養観院に黒猫猫耳を着けさせる』という事に異常に興奮してしまい『声を作る』事を忘れてしまったのだ。
それだけ養観院は黒猫っぽい。
黒猫猫耳と養観院に佐助はマリアージュを感じた。
「しかしこの尻尾、良く出来てるな。
着けないけど・・・」と養観院。
「力作。
もっと褒めて。
ちょっと着けて」
「どさくさで着けさせようとするんじゃねえ!
・・・でもコレ、どうやって着けるんだ?
固定するの無理じゃない?」と養観院。
「固定方法は突き刺す・・・」
「ぜってー着けないからな!
危ねーな!
一瞬『折角作ったんだから、ちょっとだけ着けてあげようか?』なんて思ったよ!」と養観院。
「残念・・・」と佐助。
佐助と養観院がやり取りしながら、一行は清洲へ出発する。
その時、光秀は考え事をしていた。
光秀の記憶が確かなら、山本勘助は『川中島の戦い』で命を落としているはずだ。
なのに山本勘助はこうして生きている。
これはどういう事だ?
山本勘助が生きている理由は養観院の予言での『桶狭間の戦い』の織田信長の奇跡的な大勝利と今川の必要以上の弱体化が関係ある。
今川氏と北条氏が武田信玄に対して行った嫌がらせを『塩止め』という。
海と領土が接していない甲斐は今川と北条に塩の輸入を止められた事で困窮した。
そして太平洋側ではなく日本海側に海、塩を求めて上杉と川中島で対峙したのだ。
それもこれも『今川氏に北条氏と共同で武田氏を陥れる作戦を行えるだけの力があった』と言う事だ。
そして今川氏は養観院の予言により徹底的に弱体化して、北条氏と共同で武田氏に『塩止め』するだけの力はなくなった。
つまり『塩止め』は一応行われたが、北条単独で行った中途半端なモノだった。
塩止めが中途半端だったので、武田も死に物狂いで『川中島の戦い』を続行する意味がなくなった。
養観院がいた時間軸じゃ、『川中島の戦い』は『第五次川中島の戦い』まで行われている。
この時間軸の『川中島の戦い』は一回のみ。
つまり山本勘助が戦死するまで『川中島の戦い』は行われていないのだ。
そして死期が迫っていたはずの武田信玄が、まるで孫娘を愛でる元気なジジイだ。
それだけじゃない。
本当ならこの後、信玄と信長は決別する。
その決別の手紙の中で信長は『第六天魔王』と名乗る。
それ以来『反信長』勢力が『魔王討伐』をスローガンにまとまるのだ。
なのに信長と信玄は衝突する雰囲気すらない。
信長が『魔王』と呼ばれる事もなさそうな雰囲気だ。
決裂どころか信玄の病気療養先が清洲なのだ。
大きく時代が変わりつつある。
だがその事に養観院はもちろん、明智光秀もハッキリとは気付いていない。
全てが信長の有利なようにシナリオが進んでいる。




