四万十川
佐助の仮面の素材だが『ゴムの木』の樹液のような素材だ。
熱を加えると様々な形に変形し、顔にペタペタ塗ると特殊メイクのように仮面になる。
でも綺麗に彩色しないと『作り物感』は拭えずパーティーグッズみたいな仮面になる。
結局、佐助のような完全な変装は難しいという事だ。
令和でも『特殊メイク』には専門家がいて、誰にでも出来る訳じゃなかったのと同じか。
注射器を沢山作って竹の棒が余っていたから、暇潰しにカチューシャを作った。
数色作って龍勝院につけさせてみたら無茶苦茶似合ったが、龍勝院に『ようかんちゃんも着けてみて!』と無理矢理カチューシャを着けさせられて、不愉快だから作るのを止めた。
そして制作途中だったカチューシャに仮面の素材で『猫耳』『犬耳』をつけてみる。
何でそんな事をするのか?
岡崎城には清洲城と違い『菓子工房』はない。
厨房は暇な時間は貸してもらえるとは言え、いつでも使える訳じゃない。
囲炉裏があれば水飴は作れるが、勝頼が「何故か水飴を見ると震えが止まらなくなる。頼むから作らないでくれ!」とわがままを言ったので岡崎城では『水飴作り禁止』になったのだ、全く迷惑な話だ!
・・・という訳で、武田信玄の治療が一段落つくまで養観院は暇な時間を持て余していた。
養観院がカチューシャに猫耳をつけていると佐助が来て『再現性が足りない』とダメ出しをした。
カチンときて「だったら佐助さんが作ってみなよ!」と言う。
「わかった」と佐助はカチューシャを幾つか持っていく。
そんな事をすっかり忘れていた3日後。
カチューシャブームは過ぎ去って、自分の中で『今、竹とんぼ作りが熱い!』とマイブームが移り変わっていた時に、佐助が養観院の所に来た。
もう日が落ちていて、城内の人通りが全くないせいか、佐助は珍しく兄に変装していない。
本来の女性の格好だ。
「ホラ、約束の品だ」と佐助は猫耳カチューシャを装着する。
「なんちゅうもんを作ってくれたんや・・・この猫耳カチューシャと比べたら僕が作った猫耳カチューシャはカスや」と養観院は涙を流し『美味しんぼ』の京極さんのような事を言う。
まず耳が『モッフモフ』なのだ。
『モフモフ』ではない、『モッフモフ』だ。
そして耳の大きさが絶妙だ。
決してリアリティを追及した大きさではない。
実際の猫と比べたら耳は大きすぎる。
しかし『黄金比』とでも言うのだろうか?
まるで佐助の頭にあたかも「元からついていた」かのように、猫耳がジャストフィットしている。
その作りのジャストフィットぶりたるや『パルテノン神殿』や『ピラミッド』の部品ですら「不揃いだ」と思うほどだ。
「猫耳はこう・・・でしょう?」と佐助。
その姿を見せられてしまったら養観院は「僕が間違えておりました!」と土下座して、床に頭を擦り付けて謝罪するしかなかった。
佐助は「猫耳に合う格好で来ただけ」との事だった。
つまり『男の格好で猫耳は美しくない』と。
まさに『美の怪物』である。
佐助は『猫耳』や『犬耳』のカチューシャを数種類用意していた。
あと、頼んでもいないのに『ウサ耳カチューシャ』まで。
全く武田勝頼に興味を示さない龍勝院ではあったが、養観院が縁談の席に養観院を連れて行った際に、養観院が勝頼になんとなく『猫耳カチューシャ』を着けた時に態度が変わった。
養観院としては『全然面白くない。笑えるかと思ったけど思ったより可愛いじゃん。イケメン無罪か?"ただしイケメンに限る"か?やってらんねー!』とやさぐれていたが、どうも龍勝院には勝頼の猫耳カチューシャ姿が琴線に触れたようだ。
それ以来、どうやら縁談がトントン拍子に進んでいるらしい。
信玄の肺結核の治療も順調に進んでいるようだ。
武田家臣に光秀は静脈注射のやり方を教えている。
最初はおっかなびっくりだった家臣達も信玄に注射を打てるようになった。
問題は薬の抗生物質の保管方法だ。
この時代に本来、抗生物質はない。
光秀のチート能力で生産しているだけなのだ。
どうしたものか。
いつまでも光秀が岡崎城にとどまる訳にもいかない。
甲斐に治療のためについて行くなど問題外だ。
光秀はまだ京都から奈良に避難していた妻や子供達を清洲に呼び寄せたばかりなのだ。
「やめろ!武田信玄!」
養観院は信玄に頭を撫でられて、それを迷惑そうにはね除けていた。
信玄は養観院の事が気に入っていた。
切っ掛けは「信玄公を治療出来るのは養観院が注射器を製造したからなんですよ?」と光秀が信玄に話した事だった。
礼を一言言おうと、中庭で子狼達と戯れているところまで来た信玄の事を知らない養観院は、信玄の事を『ケンタッキーの人』と呼んだ。
信玄の家臣達は意味がわからないし、あまりの無礼な態度に青くなったが、信玄は気にしていないどころか養観院の事を孫娘のように可愛がった。
ある日、撫でたい信玄と撫でられたくなくて迷惑そうに「頭に触るな!この武田信玄!」といつもの攻防が繰り広げられている昼下がりの事。
「そろそろ清洲に帰ろうと思う。注射器も作ったし、もう岡崎には用がないよ」と養観院。
「え・・・」とショックを受ける信玄。
「武田信玄も清洲にくれば?
清洲で治療受ければ良いじゃん」と気軽に養観院が信玄を誘う。
養観院の悪い癖だ。
『誰でも家に気軽に呼んでしまう』
令和にいた時にも無茶苦茶狭い団地に住んでたクセに、友達が家に入り浸っていた。
酷い時には六畳一間の団地に8人の友達を招いた。
『ウチ来る?』と聞かれた信玄は『行く行く!』と応じる。
『知らぬは信長ばかりなり』だ。