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第7話 嘘だらけでごめんなさい。

 ご近所さんたちに迷惑を掛けない様にと、私の連行は極秘裏に行われました。

 これでもし間違いがあったとしたら、王都守護隊といえどタダじゃ済まないですからね。

 豪商ガルド家とクライオルド家、二大商家を敵に回す事になるのですから、慎重にならざるを得ません。


 ウチの方は冷や汗ものでしょうけど。

 ばっちり全部私ですし、証拠の全ても私だと謳ってますし。


 暗幕が掛けられた馬車に乗らされて、何も見えないままに運ばれて行きます。

 馬車の揺れる速度から車輪の回転を計算、身体が揺れる回数と時間、距離。


 なるほど、街の北東に位置する空き家、そこを借りて詰め所にしているのですね。

 懐事情は本当に寂しいのでしょうね、守護隊の詰め所くらい建てておけばいいのに。


「さ、ついたぞ、到着して早速だが尋問を行う。ロッド、彼女の手枷を後ろに」

 

 手枷を外されたかと思えば、即で後ろ手にされてしまいました。

 もう、もっと優しく接して下さいね、女性の肌はデリケートなんですから。


 寂れた一軒家、尋問を行うのはキッチンですか。

 窓という窓を暗幕で塞がれ、周囲から見たら秘密組織のそれでしょうね。 

 一本の蠟燭に火がともされ、光源はその灯りのみ。

 なんでしょうか、このまま怖い話でもされそうで、ちょっと嫌ですね。


「率直に聞く、アイナさん、貴女はドルガ盗賊団の女首領、青の薔薇(ブルーローズ)で間違いないか?」

「いえ? 青い薔薇なんて言葉、ルーシーさんから初めてお聞きしました」

「……では、先も質問したが、魔紫煙(マッシュルーム)に関しては?」

「刺激臭とおっしゃいましたが、それはラズマさんからもしていたのではないでしょうか? ラズマさんは鍛冶場で、銀砂のオクトパスのリーダーさんに襲撃されました。リーダーさんが鍛冶場からいなくなった後、私もその場に駆けつけましたから……その時の臭いが残ってしまったのだと思いますよ」


 にっこりと微笑みながら伝えると、ルーシーさんは表情を強張らせましたね。

 

「なるほど……カウンター内に付着していた毒については?」

「護身用として毒剣を置いておいたのです。見ての通り非力な私が常時店番をしておりますから、力じゃ殿方に勝てません」

「その毒剣、今はどこに?」

「棚にありませんでしたか? もしかしたら銀砂のオクトパスに占拠された時に盗まれたのかもしれません。あまり触る物でもありませんので、常にどうだったか問われると、記憶が不鮮明になってしまいます」


 折れた、なんて伝えてしまうと、ラズマさんが何故直さないのか? という疑問が浮かんでしまいますからね。正直には言えない所ですが、盗まれるのが一番自然な処理の仕方でしょう。


「ちなみに調書が上がっていてね、ラズマはその毒剣について知らないみたいなんだけど」

「ええ、ガルド家に代々伝わる護身用具でしたから。私が独断で置いておりました」

「なるほど、常に質問の逃げ道を用意しているね。じゃあ質問の趣向を変えようか。店の運営資金についてだけど、確認しててため息が出てしまう程に、ギリギリの生活を送っているよね?」


 悲しいですけど、生活していくので精一杯でした。

 お店の土地代、鍛冶場の維持費、どれもこれも厳しくて泣きそうです。


「だけど、昨日今日で確認させてもらったけど、最近色々な物を購入しているよね? ラズマの鍛冶道具、必要以上の食料、店内の装飾。その資金は一体どこから出てきたのかな? この収益表とは数字が随分と合わないみたいだけど?」

「……お恥ずかしながら、おっしゃる通り生活が苦しくて。実家に援助を頼みました」

「いくら?」

「三百万メルほど」


 ルーシーさんの眉がピクっと反応しましたね。

 金額はアリューゼ伯爵家を強奪した時と同じ金額です。


「……なるほどね。そのお金の残りは?」

「秘密の場所に隠してあります。盗まれたら嫌ですので」

「状況分かってる? 隠し事は全て自分の犯罪を隠すためのものとして考えられるよ?」

「……しょうがないですね、私の部屋のベッドの下、下着類が入っている引き出しの裏に張り付けてあります。男性には触らせないで下さいね、女性限定でお願いします」

「配慮する、最後の質問になるんだけど」


 おや、もう最後ですか。

 もっといろいろな質問を想定したましたのに。

 

「湯あみの時に確認させてもらったアイナさんの裸体が、冒険者を襲った暗殺者と特徴が似ている。身長、体重、シルエット、太もも内側のホクロ、胸の大きさ、仕草。彼らもAランクの冒険者だからね、自分を襲った相手の特徴の全てを記録してたんだよ。最後に声も確認させたけど、アイナさんで間違いないと言う。アイナさん……彼らが店に来た時に、一言も喋らなかったそうだけど。それは何か理由があっての事かな?」


 あの時は、ほとんど下着姿でしたものね。

 見比べられたら、言い逃れ出来ないかも。


「あとね、その冒険者たち、こんな物も持ってたんだよ。折れた剣の刃の部分。これを調査した所、バイトキングの毒剣である事が判明した。棚にあった毒剣、なんて名前でしたっけ?」

「……」

「護身用の毒剣とはお伺いしてましたけど、名前までは確認できてませんよね? 盗まれた、でしたっけ? 実は折れてしまったのではありませんか? だから今は棚に存在せず、毒素だけが残ってしまっていた。違いますかアイナさん?」

 

 すぅ……と息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。

 うん、私が出来ることは少なかったですが、何とか間に合ったみたいですね。


「質問が多すぎて、どれから答えていいか悩みますが……言える事は一つです」

「……どうぞ」

「私は、青い薔薇(ブルーローズ)も、ドルガ盗賊団も、何も知りません」


 苦し紛れ? いいえ違います。

 この証言を続けるのが最良の選択肢なんです。

 そしてそれを続ける事で、この後の事象の全てがひっくり返りますから。


「ついに言い逃れが出来なくなりましたか。アイナさん、申し訳ないが嫌疑がより一層深まってしまいました。王都へと連行し、その身の潔白が証明されるまで投獄となります事を、ご了承願いたい。――――おい、ロッド!」

「はっ! 立て! 貴様の旦那にはこっぴどくやられたからな、丁重な案内は、ごほ、期待するごほっ、ごほ、ゴホっ! な、ごほっ、ごっ、こひー、いき、息が、こひーっ! ゴホっ!」


 始まりましたか、遅かったですね。


「なんだ、どうしたロッ――この刺激臭、魔紫煙(マッシュルーム)か!?」


 私がいる部屋を包み込むように、段々と薄い黄色の膜が張っていきます。

 お察しの通り、魔紫煙(マッシュルーム)ですよ。さすが中隊長さん。さ、演技しないと。

 

「けほ、けほ、ルーシーさん、けほ、私、苦しい……」

「いかん、この毒は吸い続けると肺に損傷を与え、呼吸が困難になる! アイナさん、ロッド、この煙を吸ってはいけない! 」

「ルーシー中隊長! 表に銀砂のオクトパスを名乗る男が!」

「シュバルツ……生きてたのか!? くそ、とりあえず私はアイナさんを避難させる! ロッドは表に出て、魔紫煙(マッシュルーム)の煙を吸うなと全隊員に伝えろ!」


 一気に室内がドタバタになりましたね。

 多分、外ではハゾがこう叫んでいるでしょう。


 「王都守護隊が俺ら銀砂のオクトパスを壊滅させやがった! 許さねぇ!」とね。

 街でハゾに依頼した時に、魔紫煙(マッシュルーム)を手渡しておいて良かったです。

 さて、もう一つのお話をしに参りましょうか。

 

「ルーシーさん」

「なんだ、今は尋問どころの話ではない!」

「いえ、二人きりになるのを私は待っていました。誰が裏切者なのか分からないのです」

「裏切者? ……一体、何の話をしているんだ」


 別に苦しくありませんけど、口に布を押し当ててそれっぽくしておきましょうか。

 

「ロッドさんの鎧の錆に、違和感を感じませんでしたか? 王都守護隊はその名を聞くだけで、野盗盗賊が逃げてしまう程の猛者の集まりだと、我が父ジュッディ・J・ガルドより教わりました。ましてやルーシーさんが指名した三十人、それなりの精鋭のはずなのに、あれだけラズマさんから指摘を受けている……おかしいと思いませんか?」

「ロッド隊員を疑っているのか? 彼は男爵家の出身だ、身元はしっかりとしている」

「いえ、彼だけではありません。もっと大きい組織の存在です。私は青い薔薇(ブルーローズ)は知りませんと答えましたが、青い砂(ブルーサンド)は知っています」

「青い砂? なんだそれは」


 話に乗ってきましたね、ルーシーさんが私を見る眼が変わりました。


「ありとあらゆる金属を錆させる、武具商からしたら恐怖の砂です。ラズマさんが手入れをするまでロッドさんが放置していたとは考えられません、ましてや貴族出身ならばそれはより一層です。誰かが王都守護隊に青い砂を練り込ませ、弱体化を図っているとしたら」

「だが、それだけでは裏切者かどうかなぞ」

「ドルガ盗賊団が何を恐れているか、貴女なら分かるはずです」

「……私が? ドルガ盗賊団が何を恐れているか?」


 ドルガ盗賊団が恐れているものなど何もありませんが、ここは嘘も方便です。


「……まさか、ラズマ隊長の復帰」

「ルーシーさんが隠していた目的まで、相手は見ぬいていたという事です」

「いや、でも、まさか……しかし、アイナさんも、そこまで把握していたというのか?」


 私は静かに首を横に振ります。

 ここで気付いている、なんて言ったら、むしろ疑われてしまいますからね。


「お店を畳むという事は、その人の人生を畳むのと同じ。そんな事を、ラズマさんの幼馴染であるルーシーさんが許すはずがありません。気づいたのはつい先ほどです、もしかしたら……の域を出ませんでしたけどね。でも、ウチの旦那様の過去を知れば、それもあり得るのかなって」


 ラズマさんの実力は相当なものです。

 それこそ、王都守護隊の隊員程度では太刀打ちする事も出来ません。


「青い砂を隊員の鎧にしみ込ませ、武具を錆びさせる。その現状を知ったラズマは隊員を叱咤激励し、私に自分の価値を再確認させた……と。確かにこのままいけば、ラズマは総合商社に斡旋され、店舗経営をそのままにしていく事だろう。しかし、それが相手の目的だったという事か? ロッド隊員の武具不備が無ければ、ラズマは職を失い、そこを私が王宮警護隊への復職を打診する事まで見抜いていただと? あり得るのか、そんなこと……」


 ルーシーさん、口元に手を当てて黙り込んじゃいました。

 色々と頭を働かせ始めた感じでしょうか? それでは、最後に仕上げをお願いしましょうか。


『――――、こち、薔薇、聞こえるか、シュバルツ』


「……? 何の音だ?」

「あ、すっかり忘れてました。そういえば私、鍛冶場でこんな物を拾っていたのです。って、あれ、手枷で取り出せません。ルーシーさん、私のスカートのポケットに入っているもの、取り出して頂けませんか?」


 手にした瞬間、ルーシーさんの表情が変わりました。

 

「こ、これは通念箱!? アイナさん、これを一体どこで!」

「え、で、ですから、鍛冶場ですけど」

「相手は誰だ、製造者と通話祈念元を調べれば……うん? まだ何か喋ってる?」


『こちら青い薔薇(ブルーローズ)。シュバルツよ、我らドルガ盗賊団は、拠点をダギガマフン山脈へと移転する。貴様も王都守護隊の殲滅が終了次第、我らと合流するがイイ。以上だ』


「ブ、青い薔薇(ブルーローズ)!? そうか、銀砂のオクトパスとドルガ盗賊団は繋がっていたのか! 武具を錆させラズマの復帰を阻止したのも奴等か! となると、急ぎ伝令を飛ばさないといけない! ダギガマフン山脈か、ここから西方へと一週間といった所だが……奴等め、まさか監獄塔を落とすつもりか!?」


 あはは、一生懸命に考えているルーシーさん、とっても可愛いですね。 

 ごめんなさいね、その情報、もちろん全部嘘ですから。

 声は予め録音しておいた物になります、監視中に熟睡しちゃダメですよ?


「ルーシー中隊長! シュバルツが逃走しました!」

「……逃走? ふふっ、どうせ行き場は分かっている。伝令を飛ばせ! 奴等はダギガマフン山脈へと向かっている! そこにはドルガ盗賊団もいる事が確定している! 王都守護隊本体を動員させるぞ! ロッド!」

 

 あらあら、あまり事を大きくさせてしまうと、後が大変ですよ?

 責任だけは、ルーシーさんに重くのしかかってしまいますからね。


「あの、ルーシーさん、私は」

「……考えてみれば、ラズマの復帰を阻止する為に青い薔薇が動いたのであれば、奴等が貴女を利用する事は真っ先に思いつかなければならなかった。無駄に多い状況証拠は、逆に貴女の無罪を証明している。ラズマに伝えといて欲しい。可愛い奥様を疑ってしまい、本当に申し訳なかったと」


 手枷を外しながら、ルーシーさんは深くお辞儀をされて行きました。

 そして疾風の如く飛びだしていきましたね。


 はぁ、ようやく手枷が外れてくれました。

 本当に捕まった感じがして、あまり良いものではありません。

 ラズマさんに捕まるのなら、一生つけて頂いても構いませんけど。


 ……さて、最後の締めまでしっかりとお仕事しましょうか。

 ポーネクロスの街が無くなってしまっては、元も子もありませんからね。


「ハゾ」

「……はっ、ここに」

「ドルガ盗賊団全団員に指令、本当の黒幕をあぶり出しますよ」

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