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第4話 お店、閉店しないといけないみたいです。

「……ん、あれ? アイナさん、アイナさん!?」


 無言のままコクリと頷くと、ラズマさんは私をぎゅっと抱き締めてくれました。

 束縛から解放されたラズマさん、本当なら一人でもあの男に勝てたでしょうに。

 私が人質に取られていたからでしょうか? ……もう、すっごい好きです。


「良かった、アイナさんにケガが無くて本当に……ん? どうしたの?」

「……助けて、ラズマさん」

「え? なに?」

「助けて、ラズマさん」

「う、うん、どうかしたの? 何かの魔法?」

「……違います。もういいです」


 私の声、覚えて欲しかっただけですから。

 知らない女の声を聞いて「アイナ」って叫ばれて、ちょっとショックだったんですからね。

 

「そ、そうか。あれ、でも、ここにアイナさんがいるという事は、今お店には一体誰が?」


 分かりません、そもそも本当にいるかも怪しいです。

 通念箱から声は聞こえてましたが、単なる演技の可能性もありますし。


「とりあえずいったん戻ろう、鉄も冷めちゃったし、今はお店が心配だ」


 コクコクと頷いて、二人の愛の巣でもあるクライオルド武具店へと向かいます。

 さて行こうかなと思ったら、ラズマさん、こちらを見て手を差し出しました。 


「さ、行こう、アイナさん」


 一瞬、何をしたいのか理解できませんでした。

 でも、理解した途端、全身が沸騰したみたいに熱いです。


 に、握ってもいいのですか? 私がこの手を、握っても?

 つ、妻ですものね、お嫁さんなんですから、手ぐらい握ってもいいんですよね。

  

「し、しつ、失礼しまっっ」

「あはは、そんな緊張しなくても」


 緊張だってします、結婚して三か月、まだ一度も一緒に寝てませんし、手だって全然つないでくれなんですもん。嫌われてるんじゃないのかって心配しちゃうくらいです……でも、この温かくて大きいゴツゴツとした手を握ると、そんな不安、どこかに飛んで行ってしまいますね。


 安心します、頬ずりしたくなります。

 ゆっくり行きましょうね、見ず知らずの女なんか、どうでもいいんですから。


 

「お店の周り、さっきの連中に囲まれてるな」


 あら本当、完全に囲まれちゃってますね。

 私が倒した男は、この集団のリーダーだったのかもしれません。


 なら、首の一つでも持ってくれば良かったでしょうか? 

 でももう、ハチミツつけて山に放置しちゃったんですよね。

 今頃、熊さんのお腹の中か、魔物に食されているか。


「しょうがない、アイナさんはここで待ってて下さいね」


 え、まさか、ラズマさん一人であの集団に立ち向かうのですか?

 全部で三十人ぐらいいますけど、本当に大丈夫ですの?


「僕の名はラズマ! お前たちのリーダーは誰だ! 話がしたい!」


 ラズマさん、集団を前に叫んでますが。

 多分、その集団にリーダーはいません。もう仕留めました。


「いないのか!? お前たちの名は知っている、銀砂のオクトパスだろ!?」


 あ、集団の一人、モヒカン頭の副リーダーっぽい人がラズマさんの前に現れましたね。


「確かにそうだが、俺たちのリーダーはお前の所に向かったはずだが?」  

「彼がそうだったのか? 彼は僕を残してどこかへ行ってしまった。女を追いかけていったみたいだが」


 ザワザワし始めましたね。

 その女が私であるとは気づいていないみたいです、良かった。


「マジかよ……リーダーならあり得る話だが。しかし生きているという事は、交渉は?」

「その前に、掴まえている僕の嫁を出せ。話はそれからだ」


 ラズマさん、ちゃんと掴まってる見知らぬ女を助けるつもりなんですね。

 そういえば、ラズマさんの名前呼んでましたよね。

 お知り合いなのでしょうか? 

 この三か月、ラズマさんの周囲に若い女はいなかったはずですけど。

 

 モヒカンさんが手を上げると、手下の数人が店内に入っていきましたね。

 そして中から連れ出された緑髪の女……全然知らない人です。


「……ルーシー」


 あれ、やっぱりお知り合いなのでしょうか。

 ルーシーさん……私の知らない女ですね。


「約束はちゃんと守ってるぜ、縛りはしたが、手出しは一切していない」

「そうみたいだな。しかしお前たち、一体誰を縛っているのか、理解しているのか?」


 むむ? 一体誰を縛っているのですか?

 

「その子は僕の嫁なんかじゃない、王都守護隊の隊員さんだぞ?」

「王都、守護隊……? 王都守護隊だとぉ!?」


 王都守護隊……王都全域を守る最強の守護兵団。

 どんな盗賊野盗も王都守護隊だけは手を出さないとお聞きします。

 彼らを敵に回したが最後、人海戦術により徹底的に潰される。


 お父様からも、王都守護隊にだけは手を出すなと言われておりました。

 まさか、そんな女性とラズマさんはお知り合いでしたのね。


「分かったか? ただでさえアクどい事をしているんだ、わざわざ王都守護隊にまで知らしめる必要はないだろう? 今ならまだ見逃してやる。それに武器も鎧も、材料と金を用意して、正規の手段で申し込む分には作成してやる。お前さん達のリーダーにもそう伝えるんだ!」


 モヒカンさん達は小声で語り合った後、素直に引き下がっていきました。

 永遠に戻ってこないリーダーへとどう伝えるのでしょうか? ……先手を打ちますか。


「ハゾ」

「はっ、ここに」

「彼ら、始末して。装備品はウチで買い取るわ」

「かしこまりました」


 ウチの人間を使えば、間違いなくあの程度なら瞬殺でしょう。

 それに彼らが所持していた通念箱、アレを辿ればどこの誰が首謀者か分かりそうなものです。


 ウチの旦那に手を出したこと、後悔させてやるのです。

 もう二度とガルド家に手を出さないよう、教え込まないといけません。


「ラズマー!」


 掴まっていた女が解放されて、ラズマさんのとこに駆け寄りましたね。

 そのままラズマさんを抱き締めて、その胸に顔をうずめておりますね。 


 ……は?


「ルーシー、まったく、どうして誰もいない店内に勝手に入ってたのさ」

「だって、だって、幼馴染が久しぶりに会いに来たんだよ? ちょっと驚かせてやろうかなって思うのは当然じゃない? だからお店の鍵を開けて中に入ろうとしたんだけど、それを見られてお店の人と勘違いされて、何か気づいたら縛られちゃってたんだ。……ああ、いい匂い、ラズマの匂いはいつも安心するなぁ」


 殺してしまいましょうか、そこは私の特等席なのですが。

 ちょうど良い剣をついさっき手に入れましたの。

 魔紫煙(マッシュルーム)ちゃんを鞘から抜けば、この女なんて毒ガスで一コロです。


「どうやってお店の鍵を開けたのさ? ルーシーはお店の鍵なんか持ってないだろうに」

「物理錠なんかあってない様なものだよ? 盗賊の小道具使えば簡単に開くし」


 おや? 少々、頭可哀想な子なのでしょうか?

 人様のお店に入るのに、なんの躊躇もなくピッキングツールをご利用になられるのですね。


「それにしてもだな」

「――んっ、うんっ!」


 ちょっとワザとらしく咳払いをば。

 一体いつまで私のラズマさんにくっ付いているのですか。


「あ、アイナさん、紹介します。僕の幼馴染のルーシー・ロンスローンです」

「……どうも。あの、ラズマ、この女の人は?」

「ルーシーにはまだ紹介してなかったっけ、僕のお嫁さん、アイナさんだよ」

  

 そうです、私がラズマさんに一番愛されているお嫁さんです。

 分かったら一秒でも早くそこを離れなさい。

 そろそろ私の愛刀魔紫煙(マッシュルーム)ちゃんが、鞘から勝手に飛び出してしまいそうです。


「えー! こんな綺麗な人がラズマのお嫁さんになったの!? 凄いじゃん! 私、ラズマの幼馴染のルーシーです! ラズマとは赤ちゃんの頃から一緒にこの街で育ってる仲ですので、ちょっと親し気にしたりしちゃいますが、恋愛感情は一切ありませんので安心して下さいね!」

 

 滅茶苦茶な笑顔で語りかけてくれますね、私には出来そうにありません。

 恋愛感情が無いままに肉体関係だけ持ってそうで、血管が切れそうです。


「ところで、今日は何の用があって来たんだ? 王都守護隊だって暇じゃないだろう?」

「あ、うん、ラズマ宛に手紙を預かってきたんだ。これ、王様から」


 王様から? 王様って、国王ギェレループ・ノッソ・アーチマイズ様のこと?

 あら、確かにこのシーリングスタンプは王家のモノですね。

 国王様直々にお手紙が来るだなんて、さすがラズマさんです。


「……参ったな」

「どうなさいました?」

「ウチの店、畳めってさ」

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