表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

第2話 下着姿の女強盗が現れたらしいです。

 武具店を営む私達夫婦には、閉店後にもお仕事があります。

 お店の商品でもある剣と弓、それに拗ね当てと手指を守るガントレット。

 鎖帷子も着込んで、まるで冒険者みたいな恰好になるラズマさん。好き。 


「静寂の洞窟に行ってくる。そろそろ宝箱の中身を入れ替えないとだから」


 私達が住まう街、ポーネクロスには周辺に幾つかのダンジョンが存在します。

 自然に魔物が生成されるダンジョンには、同様に宝箱も生成される事が多いのです。


 そしてその中身こそ、ウチの武具店の売り上げを下げる原因にもなってしまうのです。


 店売りの武器よりも強力な剣が、宝箱から無料で手に入ると知れ渡ってしまったら?

 誰も買わない武具店なんて、一か月ももちません。


 だからこうして危険なダンジョンに一人向かい、宝箱の中身を入れ替えに行くのです。

 こんな事してるなんて知りませんでした、お店で販売している姿しか見たことなかったから。


 涙ぐましい営業努力……なのでしょうか? 盗賊の端っこみたいな仕事な気もしますけど。

 でも、入れ替えた後の宝箱にも、ウチで引き取った武器を代わりに入れているらしいのです。

 

 それを手に入れた冒険者さんがウチに売却に来て、新品の切れ味鋭い武器を購入していく。

 先行投資ということなのでしょうか?

 その分、危険な洞窟に行かないとですら、大変なんですけどね。


「……心配」


 鏡みたいに磨かれたバスターソードには、不安を露わにした私が映りこみます。


 いつもラズマさんは一人で行って一人で帰ってきますけど、最近この辺りは冒険者ランクAに上がってしまいましたし、もし凶悪な魔物とかいたらどうしましょう? それだけじゃありません、ランクAの魔物を狙った冒険者を狩る、冒険者狩りだって存在すると最近耳にしました。


 もう……なぜランクAに上がってしまったのでしょうか?

 ランクBでないと、ラズマさんが襲われないか心配してしまいます。


 鍛えているのは知っていますけど、もしラズマさんが命を落としてしまったら。

 ううん、それだけじゃありません。

 ないと思いますけど、もし浮気なんかしてたら。


「…………心配」


 見に行こう、絶対ないと思いますけど、もし他の女がいたらソイツ殺さないといけません。

 私の幸せを奪うなんて絶対に許せないから、一番苦しむ場所に猛毒剣を突き立てないと。


 防具は別にいりませんね、静寂の洞窟に行くだけですし。

 カランカラン音が鳴る扉を開けると、物陰にお腹ぽよんのマッケニーさんがいました。


「おや、こんばんは、まさか閉店後に会うとは奇遇ですね。このマッケニーの想いがアイナさんに届いたのでしょうか? これは奇跡としか言いようがない、是非とも私の申し出を受け入れて頂ければと存じ上げます」


 危ない、危うく不審者と勘違いして刺し殺してしまう所でした。


「五十メルになります」

「……は?」

「私が、ビックリしたから」

「……なるほど、致し方ありませんね」


 小銭でもきちんと貰うものは貰いますし。

 無駄な時間でしたけど、稼げたから良しとしましょう。



「うぁ、危なかったー、これ魔法剣じゃないか。こんなの手に入れられてたら、ウチの剣なんて誰も買わなくなっちゃうよ。これは回収して、代わりはショートソードと薬草でいいかな」


 あ、いました。

 良かった、ラズマさん一人です。

 宝箱の前にしゃがみ込んで、中身の入れ替えしてるみたいですね。

 

「さてと……次の宝箱はどこに生成されたのかな」


 偉いですね、ちゃんと一人で宝箱の中身を全部入れ替えてます。

 元々ランクBのダンジョンとはいえ、一人となると難易度はかなり上がるのに。

 全てはお店の売り上げの為ですか……私も頑張ってお店を繁盛させないと。


 ラズマさんは一人でも大丈夫そうですし、帰って温かい紅茶でもご用意いたしましょうか。

 その方がきっと喜びます、『いいお嫁さんとは』という著書にも、そう書いてありましたし。


「おかしいぞ、また宝箱の中身がクズみたいな武器と薬草だ」


 おや……? どこからか声が聞こえてきますね。 

 ラズマさんは奥へと向かったみたいですし、ちょっと様子を見に行きますか。


「ランクAに設定されたダンジョンは中身もグレードアップするはずだろ? これじゃC以下だぜ? ショートソードと薬草って、どこに売ってもはした金にもならねぇ」

「……これは、誰かが中身を入れ替えてるな」

「中身の入れ替え?」


 冒険者風の男が二人、宝箱の前で何かを語らっていますね。


「噂にゃ聞いてたが、アコギな商売してる奴がいるって本当だったんだな。道具屋とか武器屋とか、そこら辺の商人が先にダンジョンに潜って、中身を入れ替えちまうんだと。ロクに戦いもしねぇで魔物から逃げて、中身だけ回収すんだから質が悪い」

「そんで、俺たちにはこんなゴミを押し付けて、洞窟で死ねってか? 酷い話だな」

「増えすぎた魔物を狩る為に来てるっつーのに……おい、このショーソード、刻印があるぞ?」

「なになに……クライオルド武具店? これって近くの街の武器屋じゃねぇの?」

「じゃあ犯人はそこの店主か? ふざけたことしやがって」


 バレてしまいましたの? ラズマさん、お店の商品そのまま入れてしまったんですね。

 バカ正直な人ですね……致し方ありません、私が後始末しておきますか。


「……ん? 誰だ?」

「女か? しかも露出狂の?」


 顔を隠す布がありませんでしたから、スカートを切るしか方法がありませんでした。

 あまりジロジロ見ないで欲しいですね、ラズマさんにも見せたことありませんのに。


「おい、武器構えてるぜ」

「そういや、冒険者狩りがいるって噂だもんな」

「ってことは何か? この女、俺達の好きにして良いってことか!?」


 ランクAを基準にしてる冒険者だからでしょうか、結構な腕前っぽいですね。

 片方は筋肉バカの大剣ですし、もう片方は半月に曲がったショーテルを手にしてます。

 カモフラージュに獣の皮とか織り込んでありますけど、鎧だって結構立派ですね。


「いくぞハム!」

「あいよゾゾ! 連携で行くぜ!」


 狭い洞窟の中で大剣を天井にぶつけずに繰り出すには、突きしかありません。

 それをかわしても、ショーテルが逃げ道を塞いでいる。

 頬を掠めるレベルで避け続けていますけど、この二人、やっぱり結構強いですね。

 

「おらぁ!」


 飛んでかわした私へと、突いた大剣を足で蹴り上げる。

 凄い剣圧、でも、それならむしろそれを利用して――


「おっと、そうはいかねぇぜ!」


 手元で大剣を回転させた? 剣の面に靴が引っ掛かっちゃって、天井に持ってかれる。

 

「その可愛いお顔、拝見させてもらうぜ!」


 ショーテルが迫る、いけない、避けないと。

 靴を脱いで足を脱出させて、ギリギリでかわす――


「残念、俺も出来るんだよ!」


 クルリ回転したショーテルの刃が、私の顔を隠していた布へと引っ掛かりました。

 嘘、こんな奴等の攻撃ごときで私が苦戦するなんて。

 

 ビリリリリリリッ! って、ヤダ、顔を隠してる布が!

 布が取れたらダメ、顔を見られたら殺さないといけない!


 でも、この人達は冒険者ギルドに加入した冒険者の可能性が高い。

 ギルド加入の冒険者が殺されたとなると、大変な事になる。

 現場調査で洞窟閉鎖は免れない……そうしたら冒険者が減って、ウチの売り上げが減る!


「おい、コイツ」

「洋服全部、顔に持っていったぞ」


 どうせ顔は見えてないんですから、気にすることじゃありません!


「相当に良い身体してんじゃねぇか」

「たまんねぇな……ハム、全開で行くぞ」

「あいよ、今夜は寝かせねぇからなぁ⁉」


 ――――ふぅ…………呼吸を整えて、相手の気の流れを読み切る。

 師匠の教えをしっかりと守って、後がない時こそ冷静に。


 繰り出してきた大剣の突き、もう、これしか能がないのでしょうね。

 どうせ蹴り上げるのでしょう? でしたら、こっちから先に蹴ってしまえばいい!


「い、なんだこの女の蹴り! 剣が持ってかれ――」

「大丈夫だゾゾ! 俺が抑える!」


 持ち上がった剣を足場にして、ハムって小柄な男がショーテルと共に突っ込んできました。

 読みやすい一直線の動き、だけど貴方はその弱点を見抜いて刃を回転させるのでしょう?

 なら、そこに私の剣を叩きこめばいい! 


「な、俺の剣に絡めた!? ちょ、ま!」

 

 待ちません! その剣ともども、地面に叩きつけて折るんですから!

 ガギィン――――、って音がして、折れたショーテルの刃が空中を舞う。


「あああああああああぁ! 俺のショーテルがああああぁ!」


 ハムって男が叫んでる、ここら辺じゃあまり見ない形でしたからね。

 でも残念、その刃には徹底的に仕事してもらいますから。


 飛び上がり足の指で空中の刃を挟んで、筋肉バカの大剣へと勢いよく投げつける。

 切れ味鋭かったですからね、思惑通り、綺麗にその刃は大剣の面に突き刺さってくれました。


「はあああああああぁ!」


 天井を蹴って一気に加速して! その大剣を、折る!


 ――ガゴオオオオオォッン!!!!


 まるで鍛冶場の鉄槌みたいな爆音と共に、私の短剣が大剣に食い込んだ刃を穿ちました。

 砕け散る刃、真っ二つに折れる大剣、これで相手も戦意喪失……って、え?


「うそ、私の剣も、折れてる」


 あ、いけない、思わず声に出してしまいました。

 でも、なぜ? 私の剣は猛毒剣ですけど、簡単には折れないはずなのに。


「おい、ゾゾ! 大丈夫か!」

「うぐっ、ぐぐ……あ、ああ、大丈夫だ。懐にこれ、入れてあったから」


 え、その剣、ウチのお店の。

 それに当たってしまったから、私の剣が折れたということですか?

 やだ……ラズマさん、凄い。

 

「すげぇな、こんなの奇跡じゃねぇか!」

「……流石は、ランクAの宝箱ってとこか」


 もう戦えるだけの武器もありませんし、本当はあの剣の回収がしたかったのですが。

 さすがに無手で戦える相手ではありません……ごめんねラズマさん、明日お店廃業かも。


「あ、あの女、逃げるぞ!」

「ちくしょう、はえぇ! 追いつかねぇぞ!」


 夜逃げの準備もしないとかしら、でも、ラズマさんになんて伝えれば?

 黙ってついて来た事は言えませんし、戦った事も言えません。

 失敗しちゃった……ぐすん、ラズマさんともっと一緒に居たかったな。


 お店閉店の前に、ラズマさんと二人でしっぽりとした夜を過ごしましょう。

 まだ手も握った事もないけど、でも、私はいつだって受け入れられますから。


 ――翌日。


「この店の剣がすげぇんだよ!」

「俺の持ってた大剣でさえもぶっ壊れちまう攻撃だったのに、この剣折れてねぇんだ!」


 あの二人組、なぜか冒険者仲間を引き連れてウチにやってきましたね。 

 頼んでもいないのに宣伝までしてくれてますし、なんか、良かったのかも?


「奥さん、ここら辺の武器、全部売ってくれよ!」


 無言の笑顔で過ごしておきましょう。

 声で正体バレたら大変な事になりますし。


 ――この店の奥さん、氷の令嬢って本当だったんだな。

 ――豪商ガルド家の三女か……どうりで質が良い訳だぜ。

 ――綺麗だよなぁ、あんなの美人を奥さんに貰う人生とか、俺も味わいたかったぜ。


 昔の噂が功を奏したのでしょうか? 

 お店の売り上げも順調ですし、頑張って良かったです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ