第7話
感想、ブクマ、評価よろしくお願いします。
「キエエエエエエエエエエェェッ!」
「ひえっ!」
奴が声をあげなければ、呆気なくやられていたかもしれない。大きな鳴き声に意識を取り戻した俺は視界の隅に映った迫りくる鋏に、ブラックバレットが抉られる瞬間に気が付いた。ブースターを全力展開して既の所で避ける、それと同時に鋏を警棒で殴り付けた。だがしかし、損傷はゼロ。まるで綿毛が肌にくっついた程度の感触しか与えられていないようだった。マザーバンガードは、レベル差などお構い無しの様子で、眼球からレーザービームを放った。多分、擦りでもしたら即死コースの光の線は真っ直ぐに俺の方へと向かってくる。
「やべえ、やべえ、やべえって!」
ローラーダッシュに切り替えて広場を駆け巡る。
追ってくるビームをギリギリ避けながら出口を探すが、どうやら封鎖されてしまっているようだった。つまり、コイツを倒さなければ出ることはできない、ということだ。
最悪だ、なんてことだ、どうしてこんなことに。
そんなことを考えながらもひたすらに避けていく。
マザーバンガードは無遠慮にもビームを撃ちまくってくるものだから、壁や天井は既にボロボロ、俺の精神状態もボロボロだ。どうしたら勝てる? レベル2の俺が、レベル999の化け物に。ふと思い付いたのが、先程手に入れた特殊スキル、一撃必殺だ。この最悪な状況を打破できる術であってほしい、そう願いつつ高速移動を続けながらステータス画面を開いて、スキルを確認する。
「ええと、なんだなんだ。特殊スキル、一撃必殺……どんな敵でも一撃で倒すことができる、使用回数1……これだ!」
これしかない。この状況下ではこれが頼りだ。
足や鋏に当てても倒せるのか、部位破壊といった扱いになる可能性を考えると、胴体に攻撃をするべきだろう。
レーザービームの弾幕と、鋏による攻撃を避けながら懐に入って胴体に一撃入れるだなんて、とてもじゃないが馬鹿馬鹿しくてやってられない、こちらだって1発貰えば撃破されるだろう。リスポーンしてもステータスの低下でより勝率は減るし、やはり、一発本番でやるしかない。
「ッシャ! 気合入れろ! 行くぜ、行くぜ、行くぜ!」
ブラックバレットを反転。マザーバンガードに突撃。
警棒を構えて、ビームの弾幕をジグザグに避けて擦り抜ける。
光の束が横を、上を通っていく。
このどれかが直撃すれば即死だ、心臓の鼓動が速くなる。
「これで、決めるッ! スキル発動! 一撃必殺!」
スキルを選択、ブラックバレットが紫色の光に包まれた。
左右から繰り出される鋏をジャンプして避ける。
このまま警棒を振り下ろせば、俺の勝ちだ。
──だが、警棒がマザーバンガードの胴体に当たる直前に、ビームが警棒を直撃し、粉砕した。
武器損壊、だが、機体ダメージはゼロ。ならば!
「パイルバンカーだッ!」
右腕に装着された杭が後退し、金切り音を上げる。
そして、爆発音共に発射された鋭利な杭がマザーバンガードの胴体に炸裂した。
一瞬の硬直のあと、マザーバンガードはゆっくりと倒れ、そして動かなくなった。
「はあ、はあ、はあ、勝った……?」
呆けていると、軽快な音楽が流れた。
マザーバンガード レベル999 撃破
ジンロウ レベルアップ レベルが777に上がりました。
「えええっ!?」
急にレベルがインフレしたぞ!
ステータスを確認すると、目眩がするような光景が並んでいた。全ての値が500を超えていたのだ。格闘に至ってはレベルを超えて999になってしまっている。
スキルポイントも凄まじい数になっていた。
これは酷い。
地道にレベル上げするなんて馬鹿馬鹿しくなる。
「こんな一気にレベルが上がるとゲームの寿命縮むんだよなぁ〜!」
制限された中でやりくりするのが楽しいのに、こんなに最初から強くなってしまっては台無しではないか。
少し落ち込む、こんなことになってしまうなんて。
さらにステータス画面を見てみると、お金がカンストしていた。あのマザーバンガードとかいう蟹を倒したことで得られたものだ。この世界の通貨はGで、いま俺の手元には999999Gもの大金が懐に入っていることになる。とりあえずそれを自分の口座に全額投げ入れた。お金はいくらあっても良い、とはいえ限度があるだろう。
それに加えてレベルアップによって得られたスキルがあまりにも多すぎてログを圧迫していた。これを一つ一つ見ていくのはちょっといまはシンドすぎる。
「とりあえず、ダンジョンから脱出しねえとな……スキル検索、脱出っと……あるかな、うん、あるな、便利すぎる」
ステータス画面からスキルの検索を行う。これだけ大量のスキルを手に入れられたのだから脱出スキルぐらいあるだろうと踏んでいたら案の定だった。そのスキルにポイントを割り振って会得、スキルを発動させるとブラックバレットが緑色に光り──。
いつのまにか俺とブラックバレットは、荒野に佇んでいたのだった。