残響
ーーーーー音が、聞こえる。
遠く遠く鳴り響く、中央広場の鐘の音。
軽やかに流れる楽器の音。
軽快に踏み鳴る足の音。
遠く近くさざめくように、歌い笑いあう声。
ああ、そうだ。
今日は楽しみに待っていた豊穣祭。
一年の実りに感謝して、冬を迎える前の大切なお祭り。
今年は隣のリルちゃんと二人で遊びに行っていいよって、お母さんが許してくれて。
リルちゃんと何を見ようかって、わくわくしながら話してた。
早くリルちゃんを誘っていかなくちゃ。
痛みが全身を駆け抜けた。
混乱する思考を押しのけて何とか現状を認識しようとする。
私はーーーリリスレイド魔導学園4期生。
今は臨時編成リリスレイド西部方面第3防衛部隊所属。
目前まで迫った侵略者から国土を守るべく、志願した生徒たちで編成された部隊。
ーー痛みが走って思考が途切れる。
何で痛いんだっけ。
そうだ。放った直後の魔法に、飛んできた矢が触れて魔法が暴発した衝撃で。
なんとか現状を認識しながら魔力を循環させる。
五感を早く復活させないと。
もどかしく焦れながらも戻ってくる感覚の中、右手に断続的に伝わる感触。
一緒に配属されたリルが頑張って魔法を撃ち続けてくれてる。
気力を振り絞っているのか、叫んでいるような声がかすかに聞こえる。
早くリルを助けなきゃ。
かすかな違和感がありながら、全身に魔力が循環する。
五感が戻りはじめ、耳が音を認識しはじめる。
打ち鳴らす金属の音。
場違いに軽やかに聞こえる伝令ラッパ。
戦場を踏み鳴らす、人や馬の足音。
遠く近く、絶え間なく響く怒号や悲鳴。
瞼に感じるお昼過ぎの光。
霧が晴れるようにはっきり見えてくる視界にうつって き たの は
赤 く染 まった 制服 を 着た リル に
馬乗り になっ た
長いナ イフ を持っ た兵士が
狂っ たように 叫 びながら
何 度 も何 度も
リルに ナ イフを 振 り下 ろし て
体の中で何かが爆ぜた。
全身に魔力が駆け巡る。
あれほど授業でも出来なかったのに、思考と変わらない速さで術式が構築される。
だけど注ぎ込まれていく魔力が止められない。
暴走。
そんな言葉が頭をよぎる。
ーーーーーつまり感情を制御することが何よりも重要ですが、それを教えられないまま皆さんを送り出さなければいけません。
ーーーーー今から配るのは魔力を制御するためのリミッターとなる魔導具です。
ーーーーー私たちから贈るせめてもの、お守りとなることを祈っています。
ああ、先生ごめんなさい。
せっかく渡してくださったのに、あのお守りは私の左手と一緒にどこかにいってしまいました。
視界が白く染まる。
目の前の兵士も、もう動くことのないリルも。
皆の笑顔も、笑いあった日々も。
遠く遠く響く鐘の音も。
あの日の記憶も何もかもが。
白い光の中に消えた。