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お出掛け

「――イズ。アイズ起きてっ!」


 ん……?

 あぁ、いつの間にか寝てしまっていたみたいだな。

 よっこいしょっと。


「おはようアイズ! さあ、出掛けるよ!」


 えっ、俺も?

 もしかして散歩にでも連れて行ってくれるのかな。

 そういうことなら。


『おう!』

「それじゃあ、アイズは僕の肩に乗っててね」


 俺を優しく持ち上げたカイルは、そのまま右肩に乗せてくれた。

 昨日の疲れが抜けきっていないし、これは助かるな。


「じゃあ母さん、出掛けてくるね」

「はーい、行ってらっしゃい!」


 カイルは玄関のドアノブに手を掛け、ゆっくりとドアを押し開けた。


 そして俺の目に飛び込んできたのはファンタジーな街並み。

 遠くには大きな城も見えて、まるで絵本やゲームの中に入り込んだかのような感覚を覚えた。


 これが異世界ってやつなのか……。

 当然なんだけど、日本とはまるで違うな。


 俺がそんなことを考えている間もカイルは歩き続けており、次第に犬や猫を連れた人間の姿がちらほらと目に入るようになった。


 やっぱり異世界と言っても、ペットといえば犬や猫が定番――って訳でもなさそうだな……。


 次々にすれ違う人がトラにゴリラ、ぶよぶよとしたジェル状の生物など多種多様な生き物を連れているのを見て、改めてここが異世界だということを実感させられた。


「おっ、カイルじゃねーかよ」


 その後、カイルの肩で揺られながら異世界の街並みを楽しんでいると、後ろから声が聞こえてきた。

 それに反応したカイルが振り返ると、そこには茶髪で小太りの少年が立っている。


 見たところ、カイルと同い年くらいだろうか。


「おい、何だその肩に乗っけているトカゲは」

「ドラゴンだよ、昨日テイムしたんだ」

「ぷっ。ハハハハハっ! そいつがドラゴンだって? 嘘つけよ、どう見てもトカゲじゃねーか! やっとテイムしたのがトカゲって、さすがは落ちこぼれだな」


 黙って聞いていれば、何とも失礼な奴だな。

 俺はもういい年だし、子供の言うことなんて気にもならないけど、カイルが落ち込まないか心配だ。


「僕のことを落ちこぼれと言うのは構わない。事実だからね。でも、そんな僕にテイムされてくれたアイズのことを悪く言うなら許さないよ」


 っと、そんな心配は要らなかったか。優しそうな見た目とは裏腹に強い子だ。

 それにしてもカイルが落ちこぼれか。そんな風には全く見えないけど。


「な、なんだよ、冗談だろ! マジになんじゃねーよ! ったく、俺はもう行くわ。優秀なテイマーは忙しいからな。じゃあな、落ちこぼれ君」


 そう言い残して、小太りの少年はどこかへ去っていった。

 最後まで嫌な奴だったな……。


「ごめんね、アイズ。あの子が言うことなんて、全然気にしないでいいからね」


 あそこまで酷いことを言われたのに、落ち込むどころか俺のことを気遣ってくれるなんて。

 本当に優しい子だ。


『おう! カイルも気にすんなよ!』


 カイルはニッコリと俺に微笑みかけた後、再び歩き始めた。


 そうして十分ほど経った頃、ひと際大きく、多くの人で賑わっている円形状の建物の前でカイルは立ち止まった。

 どうやらここに用があるようで、中に向かって歩いていく。


「あっ、カイル―!」


 すると、再びカイルを呼ぶ声が後ろから聞こえてきた。

 今度は女の子みたいだ。


 先ほどとは異なり、軽やかにカイルが振り返ると、赤髪のボブヘアーに大きな蒼い目の可愛らしい女の子が走りながら近づいてきていた。


「リリ! こんにちは!」


 あの子はリリっていうのか。

 何か見るからに、ザ・元気っ娘って感じだな。


「はぁはぁ……。こんにちは、カイル! ってあれ? その肩に乗せている子ってもしかしてドラゴン?」

「うん、昨日テイムしたんだ! 名前はアイズだよ」

「やったじゃないっ! おめでとう、カイル!」


 リリはカイルにそう言った後、俺に顔を近づけてくる。


「はじめまして、アイズ君! カイルのこと、よろしく頼むね!」


 そして明るい笑顔を浮かべながら、そう伝えてきた。

 さっきの少年とは正反対の良い子だな。


 その言葉に対し、俺は心を込めて『任せとけ!』と声を上げた。伝わってはいないだろうけど。

 するとリリは「ふふっ」と微笑んだ後、カイルに視線を戻して会話を再開した。


「従魔が出来て、ここに居るってことはもしかして?」

「うん、トーナメントに出場しようと思って!」

「やっぱりね! 私もエントリーしに来たの。丁度いいし、一緒に行きましょ! あっ、ちょっと待ってね」


 リリはそう言った後、すぅーっと息を吸い込んで、


「ピピっ! モモっ! ポポっ! 早くー!」


 大声で誰かに呼び掛けるように言葉を発した。


 他にも友達が来るのかな?

 そう思ってリリの視線の先を見ていると、建物の陰から見覚えのある巨大な動物が姿を現す。


 ……あれって熊だよな。

 その隣を走っているのはウサギと――何だ?


 なんか植物を擬人化したかのような、ゆるキャラみたいなのが居るぞ。

 あれか? アルラウネとかいう奴か?


 この世界ではほとんどの人がペットを連れていたし、多分あの三匹はリリのペットなんだろうな。

 トラやゴリラを連れている人を見たから今更驚きはしないけど、熊をペットにするって本当に凄い世界だ。


「こんにちは、ピピ、モモ、ポポ」

「もう遅―い! 私とカイルはトーナメントにエントリーしてくるから、みんなはここで良い子に待ってて」


 息を乱しながら駆け寄ってきた三匹に対し、二人がそれぞれ言葉を掛けた。


「あっ、じゃあアイズもここで一緒に待っててもらおうかな。リリの従魔達とも仲良くなってもらいたいし」

「そうね、それがいいわ! じゃあ、行きましょ!」


 カイルは俺を肩から地面に降ろして、リリと一緒に建物の中へ入っていった。


 お年頃の二人を邪魔する訳にもいかないし仕方ない。

 言われた通り、大人しくここで待っていよう。


 それにしても、トーナメントって何のトーナメントなんだ?

 二人とも何かスポーツでもしているのかな。

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