私なりの計画
「ええ。ベルガモットには物事を解き明かし、順調に運ぶための助けをしてくれると言われています。今の状況にぴったりでしょう?」
「本当ね。早く手がかりを掴んで、こんな忌々しい呪い解いてしまいたいわ」
ありがとう、と笑ってデイルにお礼を言う私の側で、レジャ様は本当に悲しそうに顔を歪めた。
「本当に……こんな呪い、早く解ければいいのに」
「大丈夫よ、任せておいて!」
「またもー! まだ解ける目処もたってないのに、お嬢はそうやってすぐ安請け合いするんだから!」
せっかくレジャ様を慰めようと思ったのに、可愛らしい声が私を咎める。声の方へ顔をあげたら、案の定デイルの後ろの使用人専用隠し扉から、ぴょこんとイルマが顔を出した。
その頭を軽くデイルが小突く。
「こら、言葉遣い!」
「はぁい」
「すみません、なかなか子供時代の癖が抜けなくて」
妹のイルマの代わりに兄であるデイルが謝るのはいつものこと。淡い紫の髪と瞳が特徴的なこの兄妹は、私専属の執事と侍女だ。子供の時から一緒に育って、いまだに幼馴染みたいに仲良くしてくれている。
もちろん前世の記憶もちの私からみたら、幼い頃は特に可愛い甥っ子、姪っ子のようにも思えていたのだけれど、今となってはこの二人の協力なくしては呪いの調査だってままならない。
今は控えているけれど、レジャ様がいないところでは、この二人が調査の主戦力。本当に頼もしい二人なのだ。
私は彼女の疑念を解くようにイルマに微笑みかける。
「安請け合いばかりでもないのよ。レジャ様が手伝ってくださったおかげで今週中にもこの書庫の書物は全て確認が済むでしょう? そうすれば次のフェーズに進めるわ」
まだまだやる気がありそうなレジャ様には書庫の本を読み込んで関係がありそうな部分を抜粋するという大切なところをお願いして、私は別な事に時間を割くつもりだ。
今もそのままに残してあるテールミオン様のお部屋。子供の頃にだいぶ真剣に探索してはいたけれど、今ならもっと違うところに気づけるかも知れない。
そして、テールミオン様が生涯を過ごしたといわれる公爵家所有の僻地の邸にも、足を伸ばしてみようと思っている。今は忌み地のように扱われて、管理する人すらいないらしいけれど、もしかしたら何か手がかりが残っているかも知れないもの。
まずは身近で調べられることから……と思ってやってきたけれど、レジャ様が書籍をあたってくれるなら、私は別の事を調べた方が効率的だ。
それに……これ以上、レジャ様と共に過ごすべきではないとも思っていた。
一緒にいる時間が長くなればなるほど、秘密を隠し通すのは難しくなる。私が前世の記憶をそっくりそのまま持っているだなんて、レジャ王子に知られたら、きっと彼は罪悪感を持ってしまうだろう。