予想外の共同作業
もしかしてレジャ様って、私と定期的に会わないといけないとか、そういうのも呪いに含まれているのかしら。
だとしたらますます陰湿な呪いだわ。嫌いな人と絶対に頻繁に顔を合わせなくちゃならないなんて、精神的ダメージが大きいに違いない。
そこまで考えて、ふと私は自嘲の笑いを漏らした。
呪いの全貌がよく分からないだけに、全部呪いの産物な気がしてしまうの、ちょっと被害妄想っぽいわね。考えても分からない事に費やしてる時間なんてない。とにかく、少しでも多く情報を得なくては。
そう思って私は書庫の棚を改めて見上げる。
子供の時から長い時間をかけて関係ありそうな本を探しては読んできた。もう手を触れた事がない棚は僅か。レジャ様も手伝ってくださっているから、もうあとニ、三日もあれば書庫の全ての本を仕分けできるだろう。
私が我が邸の書庫にこだわって書を探しているのにはそれなりにちゃんとしたワケがある。
なぜなら私が今世生まれた公爵家は、他でもないテールミオン様の生家だからだ。これが偶然なのか必然なのかは知らないけれど、テールミオン様の消息だの、彼女が読んだかも知れない書物だのを追うにはなんとも都合がいい。
レジャ様と二人して黙々と本を手に取っては中身を軽く確かめて、呪術やこの国、もしくは公爵家についての記述があったり書き込みや気になる点があるものだけを抜粋し、関係ないものは棚へと戻す。
そんな単純な作業を仮にも王子にさせて良いものかしらとは思ったけれど、本人がやる気なのだから仕方がない。
生真面目な顔でページを繰るレジャ様が視界の端に常に居るという状況がなんだか面白くて、私は知らず微笑んでいた。互いに言葉を交わすこともさほどないけれど、不思議と落ち着く。
そうよね、今でこそ顔を合わせれば悲しいやり取りばかりになってしまうけれど、三百年前は愛しい夫と子供達……この顔に囲まれて幸せに暮らしていたんだもの。落ち着くのも無理ないかも知れないわね。
……本当はレジャ様もそうであればいいのだけれど。
「お二人ともそろそろお茶になさいませんか? 根を詰めすぎですよ」
「デイル」
「ああ……君の執事か」
私付きの執事、デイルがティーセットを持って現れた。言われて窓から外を眺めてみれば、もうずいぶんと日が傾いている。
確かに夢中になり過ぎたみたいだわ。
「ありがとう、ああなんだか体がバキバキだわ」
「昔からお嬢様は何か始めると際限がないですからね」
レジャ様に紅茶を給じた後、デイルは私に小さく微笑んでそう囁いた。
「? あら珍しい。これは……ベルガモット?」






