ごめん。やっぱり僕は、君を愛せない
「ごめん。やっぱり僕は、君を愛せない」
私の可愛い婚約者は、今日もまたその言葉を告げてくる。
でもね、先週も先々週も、なんなら毎週聞いてるわ、その言葉。
口から出る言葉は結構辛辣だというのに、言ってる本人の方が泣きそうで、まるで雨に打たれた子犬みたいに悲しそう。そして可愛い。
「大丈夫よ。毎週毎週言わなくたって分かってるって、そんなこと」
ぷるぷる震えてあんまり可哀想だから、私はことさらに明るい声でそう言った。すると余計に眉毛が歪んで、目にはみるみる涙が溜まっていく。
この国の王家らしい浅黒い肌に銀の短髪、金色に輝く気の強そうな瞳を持っているというのに、私の前ではいつだって泣きそうな苦しそうな顔ばっかり。レジャ様ったら、もう十五歳にもなったというのにいつまで経っても泣き虫ね。
剣技も乗馬も結構な腕前で王子としての資質は充分だと聞いてはいるけれど、私の前ではいつもこんな風にメソメソしてるから、いまひとつピンとこない。泣き顔を見ると可哀想で本当は慰めてあげたくなるんだけどな。
私の可愛い婚約者は、そんな気持ちも知らないで毎回判を押したようにこう言うんだ。
「こんな気持ちのままじゃ、君とは結婚出来そうもない。婚約を解消したいんだ」
ほら来た。
このセリフももう何百回と聞いたわ。
飽きる程度には聞いてるのに、意外と未だに悲しいもんだよね。
「うん、だよね。結婚したくないよね。でもそれは無理だってレジャ様だって知ってるでしょ? 私たちが婚姻を結ばないと国が滅ぶのよ」
「そんな呪い……!」
そう、私達は呪われている。
私も、王子も、なんなら国ごと呪われている。
「信じたくない気持ちは分かるけど、言い伝えを無下にして本当に滅んだらどうするの? どう滅ぶかなんてハッキリしてないのよ。戦争? 災害? 伝染病? なんにしたって、苦しむのは何の関係もない民だわ」
こう言うとレジャ様は決まって口籠る。今も昔も、民をとても大切にする良き王族なのだ。
「でも、貴方の言い分もわかるわ。このままいくと私たち、ニ、三年後には結婚しないといけないものね」
そう、タイムリミットは刻々と近づいてる。
「心配しないで。貴方がそうやって悩むから、私、もう随分と長いこと魔女の呪いを解く方法を研究してるの」
「えっ」
弾かれたように、私の婚約者……レジャ様が顔をあげる。そんなに驚かなくてもいいじゃない。
「私だってこのままじゃいけないと思っているのよ。少しだけ手がかりも掴めてきたわ。タイムリミットまでに間に合うかは分からないけど、結婚しなくて済むように、私だって頑張ってるのよ」
「……」
なによ、その驚愕の表情。ぬか喜びさせちゃ可哀想だから今まで言わなかっただけ。私だって、ちゃんと考えてる。
「だから、毎週わざわざ、愛せないって言いに来なくていいのよ。貴方は貴方の愛を育めばいい」
「僕は……!」
「呪いは、愛人を持っちゃいけない、なんて言ってないわ」
だって、私を苦しめるための呪いだもの。むしろ推奨されるくらいだろう。
本当にムカつく呪いだわ。