第23話 元大賢者は、神に出会った事を後悔する (下)
「まぁ〈人亜連合〉の事はどうでもいいかな。一国がどう足掻いたって覆る物でも無いし。主立った各国位階もシルフェンド王国が一番下でアレネリア宗主国が一番上に位置するし」
「だな。そもそも我が国も従属国だから、それに異を唱えたところで懲罰部隊が編成されて下手すれば王国が滅びる事になるな。彼のノルンハイド王国のように」
「私もそれがあるから面倒の温床に関わるのは正直止めたいんだよね。思っていても口には出さない。それだけでも充分に回避出来るから」
それは嘗ての祖国。
ドワーフ国家・ノルンハイド王国は魔道具・武器輸出量で世界一位だった。しかしそれを良しとしないアレネリア宗主国が魔道具・武器輸出を全面禁止し、魔術一本の流れを構築した事が、この世界の混沌の始まりだった。
その後〈人亜連合〉の当時の議長国であったソイオンス公国が、増える民に対応するために【国土拡張】と題して魔族大陸の植民地化を提案し、その事に猛反対したノルンハイド王国に対して懲罰部隊を編成し王家と反対派に準ずる民達を総じて虐殺したのだ。
当時の私はノルンハイド王城から離れ兄妹国家のエルリア首長国・魔術学院に所属していたが、この一報を聞きアレネリア宗主国を深く恨んだ。
しかし、私独りが恨んだところで大国が覆る事はなく、その時点から亜人達を除く周りの人間達の視線が気持ち悪い物となり、事ある毎に「裏切り国家の末裔」と呼ばれる事となった。
それから数年後、先代・大賢者が私の未来を予見し賢者だった私を強引に己が地位に就け、
『最終試験として何らかの術陣を構築せよ!』
と命じた事で賢者だった頃からの研究テーマを完成型へと持っていった事で神が顕現し魔眼を授けたという話に繋がるのだ。
「とまぁ昔の話ならこんな感じだけどね? その直後から掌くるりんぱ! って感じでアレネリア宗主国やら人間達が『神が認めた大賢者』って祭り上げ、私の心は知らんふりしてね。私としても祖国を潰した輩に祭り上げられるとか反吐が出たから、こいつらに関わるのは止そうとあちらこちらに隠遁するように尽力したの。だけど、その度に何故か調べ上げられて居場所がバレていったの」
「それはアレじゃないか? お主が何処ぞで残念行為に及んでバレたという事では?」
「いや、それは無いよ? 新術発表時も場所は秘匿して一方的に送りつけてたからね? それに当時は弟子も居なかったしゴライアスのバカも私の居場所を知らなかったから」
過去の事を話せばキリがないけど逃げても追い掛けてくるから未発表の偽装魔術を行使しつつ隠れたからね?
茶髪であるドワーフの身形から黒髪・蒼髪・桃髪・銀髪・白髪・赤髪・金髪と経て逃げて回ったのだ。
すると殿下は私の否定を聞き思案する。
(あ、ビスケットがもう無いね)
後でリーナに頼んでおかないと。
そしてある結論に辿りつく。
「だとするなら教えていた者は一人しか居るまい? 常に争いの渦中に落とし、お主を手駒としたい者、神とかな?」
「いや、この場合は宗主国の〈託宣巫女〉と〈教皇〉かな? 神は何処までも中立だから請われれば教えるし魔族に対してでも救いの手を差し伸べるから」
「確かに。我らも救われたな」
そう、この世界には二つの宗教国家がある。
それは人類国家であるアレネリア宗主国が〈創術神ミュアクラン〉を奉る〈ミクラ教〉と亜人国家であるアイドリア創主国が〈創魔神フュメカクラン〉を奉る〈カクラ教〉である。
この二つの神名は七柱ある世界の神の〈統合神名〉であり、私に魔眼を授けたのは、その内の一柱だったのだ。真名は知らないけどね?
「この場で議論しても仕方ない話だけどね?」
「そうだな。今じゃ逃げるに逃げられない立場に居る故、如何に隠れるかが鍵となるか」
「そうね。とりあえず紅茶もう一杯飲む?」
「うむ。戴こう」
本当に改善出来るなら関わるけど改善出来る見込みの無い者に時間を割くとか無駄の局地だからね?
今はただ関わる場所を秘するだけでいいよ。
そう、殿下と紅茶を飲みながら今後の方針を纏めた。
◆◇◆
それから数日後。
今日も今日とて落第クラスは大騒ぎ。
授業に出ても面倒だからと定期的に〈身代わり〉を置いてサボってたのだけど、どうも今日に限っては「サボるの禁止」と殿下から指示が出て仕方なく出席したの。
「えー、本日は魔力測定を行う。これは試験ではないが、現在の君達を把握するために行う物で各クラス合同で行うため全員大講堂へと移動するように!」
担任教師がホームルームにて言った。
(なるほど、そういう事か!)
っと私は思った。
それは〈身代わりゴーレムちゃん〉には少なからず魔力がある。それが測定されれば魔力無しでは居られず即座に面倒が降ってくると予測されたからだ。だから殿下も今日は仕方なく授業に出ていたのね。
「それと本日の検査には殿下の御婚約者殿も来られるとの事で対応には十分に注意する事!」
「どうした? 無印?」
「いえ、何でもありません」
私はその言葉を聞いて立ち上がってしまった。流石に教師も一同も怪訝な顔で私を見るのでそそくさと座ったのだけど周囲の学徒は口々に文句を言った。
「お前には関係ないだろう?」
「魔力測定の不要な者なんだから、帰れば?」
「そうだ、そうだ! 帰れ帰れ!」
「静かに! こんな無能でも参加必須と言われている! これは上からの指示だから否定した者は退学となるが良いのか?」
「「「!? す、すみませんでした!」」」
しかし、教師の仕方ないというような注意により文句を垂れる者は総じて静かになった。
(また無理難題を押しつけてくる…)
一体、私はどうすればいいのさ?
そう、入学当初は二重学籍問題で頭を抱える事になるとは露とも思わなかったのだから。
数年ぶりの改稿で申し訳ございません。
改稿を行いつつ続編を書いていきます。
〈改稿日:2022年12月17日〉