第21話 元大賢者は、周囲に喜悦を与えてしまう。
『お主は、それほどの魔力を一体何処で手に入れたのだ?』
◆◇◆
ある年、ソイオンス公国にて魔王討伐のための勇者召喚の儀が行われた。それは異世界に住まう者を魔王討伐の名目で、拉致という事実を隠して行われた自分勝手な行為だった。
その時に召喚されてきた勇者達は、
『はぁ? 知るかよ! お前等の都合に乗せられてたまるか!』
『そうだそうだ! 帰せよ! 元の世界に!』
『君達には商談を潰した損害賠償を求める!』
『結婚式前だったのに、彼の元へ帰してよ!』
言いなりとなる事はなく総じて魔王討伐に参加しないままソイオンス公国の民と共に魔王の撃ち出した〈極大始原魔術:アブソリュート・グラヴィティ〉の巻き添えに遭い、死滅した。
それから数年後、紆余曲折を経て魔王討伐に巻き込まれた〈大賢者:アリステア・ノルンハイド〉に対し魔王は問う。
『お主は、それほどの魔力を一体何処で手に入れたのだ?』
『知るか! アンタに教える義理はないわよ』
『ほう。我が問いに答えぬ者は初めてだ。大概は我が〈言命〉に逆らえず、ボロボロと口を割るというのに。いやはや世界は余程広いと見える。うむ、これはとても愉快なり』
『なーに、勝手に話を進めてんのよ! サッサと滅びて貰えないかしら? 早く片付けて暖かい布団に戻りたいの! 人が折角気持ちよく寝てたというのにバカ達に連れ出されて来たんだから!』
大賢者は大賢者とは思えない暴言を口走り、魔王討伐よりも己が布団が恋しいという。
それはとても自分勝手な物言いだった。
『熟々面白いものだな。お主、特例として我が妻にならぬか?』
『はぁ? 寝言は寝て言ってよね? 私は身体をとやかくされたくないの! この身体は私の物! 誰かの物になるつもりなんて一切ないから!』
『なるほど。では力尽くで言うことを聞かせようか。なーに、退屈はさせぬよ』
『いいから、人の話を聞きなさい! アンタはサッサと滅びたらいいの!』
『風纏い・嵐と共に・左翼の滅び・此処に示さん 左風紋解放!』
『! そ、その高品質な魔力は。素晴らしい! 是が非でも我が妻としてやろう!』
『うっさい! 消し炭と消えろ! 焔掌…』
一方、そのような遣り取りの背後では、
『何かこれ、どっちも会話が噛み合ってないような気がするが? ゴライアス殿?』
『言うな。あの方は寝起きが悪いからな。王が無理矢理連れて行けと命じたために気が立ってるのさ。魔術戦闘が始まったら今度はこちらが巻き込まれるから、防御結界張って背後で待機だ。後はあの方が片付けて下さるからな? まぁ前日に酒を飲みながら遺言を残している辺り勝てないとも考えていらっしゃるだろうが…』
『魔王か。人の身で魔族に勝とうなどと領土欲しさに魔族に喧嘩を売った者の末路か…』
『あぁ。〈人類亜人連合〉が魔族領から土地を奪いたいがために行った、無用な戦争が始まりだからな。誰が最初に行おうと言ったのか。当人達は既にこの世に居らぬがな』
『また、ソイオンス公国か。全く身勝手な置き土産を残して消えたものだ…』
そう、大賢者と魔王の魔術戦闘が始まった直後より見届け人と化した弟子達の呆れの見える会話が続くのであった。
◆◇◆
それから三〇〇年後のある日、ミッドハイド領にて魔王軍の師団級部隊が展開し危うくというタイミングで二人の冒険者達により解決したのだった。その後の冒険者達は名を隠し、その功績を王国騎士団に譲渡した後、何処からともなく消え去った。
「という流れで部下達が民に知らせるお達しを作成したが、どうだ?」
「任せる〜。というか何でアンタが私の部屋で寛いでるの?」
「それは、婚約者だからだが?」
「それって表沙汰にすればでしょう? 一応、ここは女子寮なんだけど?」
「お主だけが住むな? まぁいいだろう? 別に湯殿を共にするわけではないのだから」
今は婚約披露宴の後に寮へと戻り私は暖かい布団の中で一晩中寝ていたの。なのに翌朝早朝に自室の扉からノックがしたと思ったら身形を偽装した殿下が訪れたのだ。
「はいはい。それで? 魔力無しの私に何か用なの?」
「いや、ただ懐かしい夢を見てな。その時にも聞いたが改めて聞いてもいいか?」
「あー、何だっけ? 魔力がどうとか?」
「あぁ。というか、まさか…」
「同じ夢を見たわ。何というか前世の私って向こう見ずで口走ってたな、って反省したわね」
「それは今も変わらないだろう?」
「うっ。そ、それで魔力を得た理由だっけ?」
「強引に話を戻したか。まぁいい、そうだな」
私だって反省する時くらいあるわよ!
っと思いながらも、私が大量の魔力を得た当時の理由を話す。それは幼き日から魔力操作を覚えながら日々魔力切れとし成長期に至るまでの間に行った方法を教えてあげた。
まぁそれ自体は大概の者なら当然行う事だったため別段珍しい事では無かったが私の場合は少々事情が異なっていた。
「なんと! お主、あの滅びたドワーフ王国の姫だったのか!」
「そうよ? 普段は身形を偽装していたけどエルダードワーフね。だから元々の魔力量も多かったの。それもあって魔術狂だったゴライアスの父との繋がりで〈人類亜人連合〉の研究員をやらされてたのよ。国が滅びた後でね」
「なら、その結果が…」
「大賢者まで上り詰めたって事、ではないわ」
「え? 違うのか?」
普通はそこで実績を積んで賢者となり、数百年の時を超えて大賢者まで登り詰める予定だった。ドワーフも長生きだからね?
それも前任者からの丸投げをされた事で繰り上げとなったのだけど。
「そ、それは…」
「哀しいかな、それが真実。私は好きで大賢者となったわけではないの。でも、それから数年が過ぎた日、当時は誰も施してなかった〈魔術回路理論〉を編み出した直後、時が止まった」
「!? ま、まさか!」
「そう。そのまさかね? 周囲の弟子達は停止し、私と彼の御仁のみが会話するという不思議な体験だったわ」
「では、その時に? アレを?」
「あー、覚えてたかぁ。そう、コレね?」
私は殿下の問いに対し、左右の魔眼に魔術陣を宿した。今は視認させるために光らせただけで通常は魔術陣が見えないのだ。
それは左右の瞳色に明度の明るい同じ色の光を宿した代物だった。当然、嘗ての魔術戦闘中にも行使して彼を惑わせた物そのものである。
〈過去を見て未来を知る〉という理を読み解く魔眼なればこそだったのだ。
「うむ。当時も綺麗だとは思ったが、改めて見るとより綺麗だな?」
「うっ。恥ずかしい事を言わないで! とにかく、その時にコレを授けられたの」
「なるほど、なれば我と大差ないという事か」
「え?」
すると、殿下は意味深な言葉を吐いた。
まさか、あの御仁?
あー、やっぱり彼にも与えてたんだ。
「まさか、同じ物を?」
「いや、我は片目だけだな。言ったであろう?〈言命〉と。コレは見た者に対して尋問する魔眼だ。だが、我より上位の者へは行使が出来ぬ故、お主には効かなかったのだろう」
「あー、そういう事ね」
全く、神というヤツは。
私はそう思いながらも彼の言葉に頷いた。
まぁこれ以上話す事も無いしサッサと退出して欲しいなぁ。寝間着から着替えたいし。
すると殿下はシラケた視線に気付いたのか、
「さて、聞きたい事も聞けたし。我は戻るとしよう。あ、そうだ! リンスから伝言だがアリスは何時入寮するのかと言っておったぞ? 何でも同室らしいからな」
「し、知らないわよ! 後、私はアリスじゃなくて、アリサね?」
「いやいや、Aクラスの学生名は〈アリス・フィリア〉で登録されておるから出来る限り寝泊まりに行ってやってくれ」
「い、いやー!」
その後、副学長の見栄に巻き込まれた私は、この寛ぎスペースと息が詰まる義妹の部屋とを行き来する羽目となり日に日に窶れていったのだった。
それを見たJクラスの者達は「自主退学寸前だ!」っと喜んだのは言うまでもない。
数年ぶりの改稿で申し訳ございません。
改稿を行いつつ続編を書いていきます。
〈改稿日:2022年12月17日〉