第19話 元大賢者は、目前の変態に苦慮する。
「アンタねぇ!? アレは無いわよ!?」
開口一番、私は殿下の暴露に遭遇し同じく暴露した事で溜まりに溜まった怒りが浮上した。
「いや、すまぬ。あの方法でしか束縛から逃れられなくてな」
「束縛って…。仮にそうだとしても巻き添えとか何考えてるのよ!?」
「そういう魔術なのだ。己が惚れた女の子と共に亡くなるという、類いのな」
「惚れたってそういう事、今更言う? 私未経験のまま亡くなったのだけど?」
「うむ。我とても経験はないぞ?」
「そういう事を言ってるんじゃないわよ!?」
そうだったのだ。
彼、ヨハネス殿下は転生者。
そして〈消滅の渦〉という自爆魔術の触媒として〈アリステア・ノルンハイド〉を巻き添えとした〈魔王ハーディス〉だったのだ。
「で? それなら、外の汚物はアンタの?」
「いや、それは無いな。魔王という名の束縛は既に我から離れておるし、人の子として転生出来た事がその由縁であろう?」
「では、何で外にあれだけの汚物が居るのよ」
「それは、恐らく新参者が現れたという事だろう? 魔王とて代替わりの代物だ。同じ者が永遠にその代に居座る事など不可能故な。まぁ我は一万年生きたがな」
「一万年未経験って使い物にならなかっただけじゃ?」
「それは言うな。魔族という者は心から惚れた者にしか靡かない者ぞ」
「ものは言いようね? まぁいいわ。お陰で私も転生出来たし」
嘗て、共に滅びた者同士が何の因果か近くで転生し今や婚約者という体裁で居るのだから人生儘ならぬ話だと熟々思った私だった。
(そりゃ敵で無かったら、惚れていたわよ?)
この人なら身体を捧げてもいいって思える者だったわよ? でも当時は敵同士だったの。
血を捧げ魔剣で打ち合ったそういう関係。
まぁ最後は私の剣が彼の核を貫き、剣諸共肉体が同化されて当時の肉体は消滅したけどね?
「すまぬ。とはいえ、お主まで傍に居たとはな。神というヤツは熟々良くわからんヤツだ」
「本当にね。それで、今世では隠すつもりで居たって?」
「それは、そうだろう? あの様な美も無い汚物だらけの巣窟など二度と戻りたくないわ。それに…。漸く待ち焦がれていた金髪の幼女が来たのだ。コレを待たずして…」
「ちょっと、待てい! 誰が金髪の幼女だ! 当時の私は三十過ぎのババァだぞ!? 身長こそ一三〇セメルという低さだったけど幼女とか酷すぎない?」
「一万年を生きた我には充分に幼女だぞ? 同じ時を生きたババァなぞ靡く者はない」
殿下は殆嫌になるという素振りで首を横に振る。確かに一万年の時を生きた女魔族はババァそのものだわ。
特にサキュバスなんて見た目は小綺麗でも中身がババァとか誰得なんだって話だしね?
「価値観の相違ってわけね。まぁ当時は幼児体型だったから仕方ないか。なら、今世ではお互いに隠し通すという事でいいわね?」
「お主もか? だがそれだけの功績なら…」
「絶対に隠すわ! 賢者はともかく大賢者って者はね? 束縛されるのよ!? 自由の無い世界の犬で神の下僕そのものだわ。周りには媚びへつらう者が溢れ人の研鑽を得ようと画策するような者ばかり。唯一あのバカ弟子という例外もあったけどアレもアレで脳筋だから説教を何度しようが、頭を撫でて抱き付く始末だし。はぁ〜、ロリコンなんて滅びてしまえ!」
「まぁお主は合法ロリだったのだから良いではないか?」
「合法ロリ言うな!」
そんなこんなで私と殿下による秘密裏の〈隠遁条約〉が締結された。それは互いに出来る範囲で隠し隠されを行うという物だ。
その見返りは私が魔道具を融通する事と魔術の神髄を示す事、殿下は魔王軍の動向とその傾向、その対策などを示す事である。
これって私の方が分が悪いんじゃないの?
気のせいかな?
◆◇◆
「それで? 目下の師団はどの部隊なの?」
「あの紋章はサキュバスだな」
「はぁ? 淫魔部隊って事?」
「いや、夢魔も居るから淫魔括りではないが」
「どっちにせよ、殲滅しない事には出られないわよね?」
「全く以てその通りだが…」
「何よ?」
一先ず私達は外の状況を魔導書庫から見る。
透視水晶と呼ばれる魔道具を介し外の師団をどうするか話し合うためだ。
しかし殿下は拠ん所ない態度で言葉を濁すので私は怪訝となりつつ問う。
「いや、我の存在がバレたようだ」
「はぁ!? まさか!」
「うむ。魔力解放で察知されたようでな。サキュバスのババァが物理障壁の外で脱ぎ始めた」
「はぁ? 脱ぐって何を?」
「装備そのものを、だ。ヤツは、サキュバスのローゼリッテは我の拡散魔力を身体全体で吸収する類いの大変態でな。特に下半身を露出s」
「いや、それはいいわ。気色悪いったらありゃしない。一万年の時を生きた化石ババァが露出狂とか誰得なのよ?」
「そういう類いの者だから仕方ないだろう」
殿下も辟易とした様子で外の変態から視線を逸らす。私はどうしたものかと思案し手元にあった〈転換の書〉に視線を移す。
「なら、アレが使えるかも!」
「アレ?」
数年ぶりの改稿で申し訳ございません。
改稿を行いつつ続編を書いていきます。
〈改稿日:2022年12月17日〉