第15話 元大賢者は、政略結婚に巻き込まれる。
リーナから魔術回路の授業要望なレポートを提出すると言うと、何故か凄い形相で止められたのだけど、どういう事かと問えば…。
「実は、その魔術回路は卒業前に施される代物なのです。何でも一時期授業で教えた際に、とある学生が面白半分に従者の精神へと酷い紋様を描いた事が発端でして、その学生は即座に拘束され死罪とされたのです」
「そんな歴史があったの? でも、未承諾の他者の精神に干渉する方法は魔力性質を最高位にまで引き上げないと出来なかった筈だけど?」
「その辺は記録が残っていませんが、実際に起きた事の戒めとして封じられたのです。その後の処置を施すのは理事長自らが行うため、卒業前に希望者のみに付与するという事になっています」
「ふーん。それなら特別棟の授業に関して要望を出すしかないね?」
するとリーナは「特別棟の授業」と聞き怪訝な表情で問うてきた。
「え? どういう事ですか?」
授業をすっぽかして見学した事は言って無いので『何で知ってるの?』と顔に書いてある。
「実はさ、魔王軍の連携陣の解析に関してだけど魔術回路が無いと解析が出来ないよ? 陣一つにつき最低五〇〇〇マナの魔力を魔術回路を通して魔族の偽装魔力に変換しないといけないからね。最悪レジストされて大怪我するから」
「えーっ!? で、では、父はそのせいで魔術師生命を絶たれたのですか!?」
「あぁレジストされて魔力源を損傷したのね」
リーナさん? その剣呑な気配が怖いので止めて下さいませんか? っと私は思うもリーナは怒りに身を任せ嘗ての内部実情を吐露した。
「はい。今は存じませんが当時の授業では、そのまま解析していたと、聞き及んでおります」
「うーん。授業を見た限りでは解析前に防御陣を張っているみたいだから、それなりに対応は出来てると思うけど与える魔力に依っては第二第三の被害者が現れないとも限らないから…」
「いえ、その件は私から報告させて戴きます。情報源はそうですね? ライオネル様の名で出しましょうか」
「いいの? 父さんの名前使っても?」
「構いませんよ? もし娘が何かに気付いたら、俺の名前を使えと仰有っておりましたから。まぁ愛娘可愛さにデレッデレの状態で話していましたけど」
「そ、そうなの。なら、レポートの方は当たり障りない内容でいいかな」
「それが良いですね。魔力無しの平民のフリして紛れ込むなら下手に知識をひけらかすのも身バレに繋がりますから」
「うっ。そ、そうだね。諫言ありがとう」
「いえ、それが従者の務めですから。それよりも学生達が出発しましたし、王城へと移動する段取りを、お願い致します」
そうしてリーナに言われるがまま調整しておいたドレスに身を包み私はリーナと共に登城したのだった。
◆◇◆
「久しいな? アリスよ」
「久しいって先日学園でお逢いしましたでしょう?」
登城した初っ端、謁見の間の手前で殿下に遭遇した。
「いや、アレはハンスという名の学生だろう? 我とは違う」
「そういう事ですか。という事は〈身代わりゴーレム君〉を使いましたね?」
「ま、まぁ、そういう事に、しておいてくれ」
「承りました、殿下」
実はこの時、私の傍には付き添いのリーナも居るが、今は隠密と呼べるレベルまで存在感を秘して背後に控えてるのだけど、殿下も殿下で付き添いを侍らせ、それなりの身形で私の前に現れたの。まぁ次代の宰相という地位が約束された方でもあるから仕方ないであろう。
「ヨハネス殿下、アリス様、御入場して下さい」
すると、衛兵から準備が整ったとして私達に対して指示を出す。そして扉が開き謁見の間に入ると同時に、そこに見た事のある者が居た。
「学長が居るとは聞いてない!」
「学長は文部大臣だから居たって不思議ではないだろう?」
「でも身バレ… してないね?」
「今は魔力隠蔽してないだろう? 平民のアリサは銀髪でも魔力無し。でも今のお主は左右の瞳の色が違うリース叔母様のご息女だからな」
「そういう事ね、見た目って大事だわ〜」
「女王陛下、御入場!」
直後、近衛騎士団長の一言により女王陛下と宰相閣下が謁見の間に入場された。本来ならリサ・ルークハイド子爵として入るべきなのだが今回は王位継承権第二位のアリス・フィリア・フォン・シルフェンドの姿で現れよとの命が出たのだ。
『平民としてのアリサが、なんで次期女王の位に居ないといけないのよ〜!』
私の悲嘆は何処へやら生まれた場所がそういう家系と知り絶望の淵に立ったのは殿下に尋問された翌日の事である。
「久しいな。アリスよ」
「は! お久しゅう御座います、陛下」
「ふふっ。お主が大暴れした時以来かの?」
「は、はい」
「まぁ慣れぬ会話を続けるのは辛いやも知れぬが、儀礼として我慢してくれるか?」
「は! 陛下の御心遣い感謝致します」
「良い答えだ。では、久しぶりの伯母と姪との会話は後程として此度の登城に関しての事を話そうではないか。宰相」
伯母上は含みのある笑顔のまま雛壇から私を見つめて本題に入られた。ちなみに宰相閣下は陛下の弟君であり母さんの兄上である。
「はい、陛下。アリス殿、これを」
「これは?」
「婚約誓約書になります。こちらに魔力を注ぐ事で了承したという事を示す魔道具ですね」
「なるほど。お相手は… 殿下?」
「そうなるな。ヨハネスも立場上は、お主の従兄となるが。早い話、婚約を急がねばならぬ事態となっておってな」
「陛下? 詳細は後程と致しましょう」
「おっと、そうだったな。すまない」
陛下と宰相閣下はどうも含みのある言い回しで婚約を早めたという。まぁ実際に私と殿下は血縁上最も遠い関係であるからだろうけど、この急ぎようは一体?
とまぁそんなこんなな流れのまま私は殿下と婚約した。殿下も私の事を嫌ってないし互いに気楽な関係だから、まぁいいか。殿下も苦笑いで頷いてるしあとで理由でも聞けばいいかな?
数年ぶりの改稿で申し訳ございません。
改稿を行いつつ続編を書いていきます。
〈改稿日:2022年12月16日〉