第14話 元大賢者は、意図が読めず苦悩する。
本日の授業も終わり。
私は一先ず〈身代わりゴーレムちゃん〉と再度入れ替わり寮へと戻ってもらった。
だって、帰ったら邪魔されるのは必定かつ面倒なので学園脇の屋敷へと移動したのだ。
「校外学習は週明けだし、今日明日は大した誰何もないだろうから惰眠を貪るのも良いかもなぁ。リーナに起こされる可能性は高いけど。それはそれで楽しめるってものだしね〜」
「何が楽しめるのですか?」
「ただいま、リーナ」
「お帰りなさいませ、アリス様」
リーナはまたも気配を消して私に忍び寄って居た。相変わらず心臓に悪い登場の仕方だわ。
「今日から五日間は寮に戻らず、こちらで過ごすから、食事等の手配をお願いね?」
「寮へ、お戻りにはならないのですか?」
「うん。どうしても、排斥したい流れが校内に蔓延してるからね。それならば〈身代わり〉を置いて、こちらで好きな事をやれば良いかなって」
「なるほど、私が在籍していた頃と何ら変わっていないのですね」
「ん? リーナも卒業生なの?」
「はい、何期生かは年齢がバレるので申せませんが、卒業生には変わりありません」
予想外のところで事情を知る者発見!
まぁ父さんの弟子だから、その可能性は高かったけど、これも仕方ない事なのかもね。
というか年齢って母さんと同じだよね?
「何か?」
「いえ、何でもありません」
私が不穏な事を考えたせいかリーナは急に剣呑な気配を発し、殺気と共に私を睨め付けた。
この子は何かしらの修羅場を潜ってるのか、途轍もない技能と王宮でも出入り出来るという不思議な地位を持ってるのだ。
いやはや、人は見かけに依らないとはこの事を言うのかもしれないね?
「それはそうと、お似合いですね?」
「あぁ制服? でも昼間も見せたよね?」
「いえ、昼間は意識を外に向けていましたから制服自体は見てませんね」
「そうなの?」
「はい、まるでリース様が学生だった頃を思い出す姿ですね」
「今の見た目は完全に母さんだからね〜。学園では偽っているけど。それはそうと殿下まで居たんだけど何か聞いてる?」
「あぁ、それはですね…」
私はリーナに殿下が居る理由を聞いた。
それは殿下を含める王族と子爵家までの貴族の子息子女は王立魔導学園への入学が義務づけられているそうだ。
入学希望自体は誰でも可能だが貴族家の者が進学希望を出した場合、例外なくこの学園へと進学させられるという。そして男爵家以下も例外なく貴族学校への入学となるらしい。
これは魔力量とは関係無しに爵位での縛りを設けてるみたいだね。後は隣国からの留学生とかも居るそうで、その関係で父さんもこの学園を卒業したそうだ。
「ということはライナも居るよね?」
「居ますね。あちらはBクラスに在籍してるそうですが」
リーナとの会話で思い出した留学生。
この留学生は父さんの甥っ子なのだけど学園に居ると思って問い掛けたところ、案の定の回答が得られた。
「入学したばかりだけど、自主退学していいかな?」
「ダメです。そんな事をするとリース様から私が怒られてしまいます!」
「えぇ… ライナに会いたくないよ」
「それなら尚更、身バレだけは控えて下さいね?」
「理不尽だぁ!?」
この甥っ子君、凄い私に構ってくる男の子で関わり合いを持ちたくないのが本音である。
「それと、明後日の登城にてアリス様の婚約者も決まるそうなので、それなりの身形で上がって下さいとの事です」
「えぇ!? 私、平民だよ?」
「平民のフリした王族が、何を仰有いますか?」
「嫌だよ。こっちでは王族であっちでは皇族ってどんな仕打ちなのさ?」
「知りませんよ。生まれてきた場所が偶々、両家の血縁者だったという事でしょう? それを選ばれたのはアリス様ではないですか?」
「うぅ」
「とにかく登城の際には王家に相応しい身形で上がって下さいね? ドレスの方も執務室に置いてますから後で調整しませんと」
「はい…」
こうして私はリーナに連行されながら執務室にて衣装合わせという名の着せ替えを夕刻まで行われたのだった。一体何着あるのよ?
◆◇◆
その後、休日を終えた校外学習の日。
屋敷の窓から見えるのは隊列をなす、学生達が乗る荷馬車だった。先頭にはJクラスが入り最後尾にIクラスが並ぶ壮観な風景だった。
王族が所属するとされるAクラスとBクラスが中心付近に陣取り、その周囲を騎士団が囲うように護っていた。ちなみにIクラスの殿下は平民のフリして紛れているので、この護衛からは離れているのが、なんとも滑稽であった。
「これから大移動が始まるのね〜」
「そうですね。全学生の大移動は毎年恒例ですが、今期から四年間は王家の者も入るので物々しい雰囲気での移動となるようです」
「まぁ私には関係ないから別に良いけどね?」
「そうですね。本当なら〈第九位階・エンネア〉の印を与えられる予定だったアリス様は関係ありませんね」
「そんな位階あったの!?」
「ありますよ? と言ってもライオネル様以降、誰も与えられていない最高位の印ですが」
「はぁ〜。父さんたらやる事なす事、隠遁生活のためって言ってるけど隠せてないじゃない」
「娘のアリス様がそれを言うと説得力が皆無ですが?」
「うるさいなぁ! ま、これ幸いで休日を満喫させて戴きますよ」
私はリーナからツッコミを入れられながらも外を見るのを止め、午前中に行われる登城の段取りを始めた。
するとリーナが私の満喫と聞き怪訝な表情で問い糾してきた。
「満喫ですか? でも、確か特別課題が出てたのでは?」
「あー、大賢者の成果に関するレポートだっていうから、学べない授業に関しての要望をツラツラと書いておいたよ?」
「成果と学べない授業? まさか、魔術回路の事ですか?」
「うん。そうだけd」
「それは、止めておいた方が良いです!」
「え? どういう事なの?」
リーナは魔術回路の件と気付き切羽詰まった様相を呈しつつも私に諫言するのであった。
そんなに慌てるような物なの?
数年ぶりの改稿で申し訳ございません。
改稿を行いつつ続編を書いていきます。
〈改稿日:2022年12月16日〉